163話 マサズミ
一目散に帰った城兵たちは、戻る道中ボヤきあう。
常備兵「なんなんだ。あいつらは」
常備兵「ホントだよ。まったく」
常備兵「子供と一緒に学べって!」
常備兵「っていうかさ、セラスミエがいたぞ」
常備兵「セラスミエって、普段何してるんだって思ったら手習道場なんかにいるのか」
常備兵「あいつの口調ってさ、後出し野郎とそっくりだよな。はははは」
常備兵「あー似てるなははは」
常備兵「類は友を呼ぶっていうけどソレだな。ははは」
常備兵「あいつらは群れてないと何もできないからな」
常備兵「このまま戻るのも面白くねえな。飯食ってくか」
他の城兵らよりも遅く戻る。
クニアキ「どうした。なぜ遅れた」
常備兵「あん?別にいいだろ。大人なんだからほっとけ」
クニアキ「そうか、わかった。大人なら素直に従いそこの竹槍百回振ってろ。穂先は地面につけるなよ。全員で百まで回数を読み上げよ。百回終わるまでは休憩は許さん。分かったらとっとと振ってこい!やらないなら帰って良いぞ。明日から来るな。ほっといて欲しいならな」
昼食を食べた後に激しい運動に腹を痛めながら竹槍を振る。回数をひとりひとり読み上げながらは息が整わず苦しい。
この間、ツネタロウはチヨの元へ訪ねている。
子供たちが仮眠している間に、話を聞く。
ツネタロウ「で、あいつらどうでしたか」
チヨ「ダメですね。礼儀もそうですが、計算も出来ません。簡単な乗算も出来ない。なによりも話を聞く態度ができてません」
つい、イヤミを言いたくなる。
ツネタロウ「そうですね。私はあの者たちに手を焼いております。お怪我はありませんか?」
チヨ「はい。誰もケガしてませんが、あのような粗暴な者がしばらく居るのかと思うと疲れます」
ツネタロウ「すみません。私が悪いのです」
チヨ「そういう意味で言ったのでは」
ヘイジ「チヨ先生。声が大きいです。外で話してください」
ヘイジに注意されふたりは外で話すことに。
ツネタロウ「困りましたね。出来れば、正月には礼儀を覚えさせ口の利き方を学ばせたかったのですが、如月までかかりそうですね。はぁ。困りましたね」
チヨ「子供たちのいないところで集中でやっては?」
ツネタロウ「それを考えましたが、大人だけになると気が緩んでしまいます。同じような大人が集まれば、真面目に受けなくなるとこれまでの経験でわかりました」
チヨ「そんなに酷いんですね。そうですね。。。」
ツネタロウ「チヨさんが考えることではありません。私の仕事です」
城代家老のヤマダの元にマサズミから手紙が届く。
手紙によると
マサズミ《久しぶりに加増の打診があった。だがそれだけの仕事をしたとは思えない。なにか企みでもあったのかもしれない。納得いかない。ひとまず断ってある。加増の件と断ったことにより、オヤマ(藩)になにか嫌がらせがあるやもしれん。まだ何も分からないが、誰かが裏で糸を引いてる者がいるように感じる。おかしいのだ。三倍の加増だぞ。ただの老中が三倍はおかしい。これでは、贔屓にされていると反乱分子が騒ぎかねない。目的もなく、長年仕えているからという理由で三倍はおかしい。今年はもう戻れない。来年如月以降になる。もし次に打診された場合は、老中職を辞そうと考えている。その場合でも何かしらの影響をオヤマ(藩)に与えてしまいかねない。お主だけに任せるのは辛かろう。ツネタロウにも手伝わせよ。またなにかあったら伝える。細心の注意を払え》
ホンダマサズミに、加増の打診があったという。どの土地かは手紙に書かれていないためわからないが、とにかく3倍の加増というのは異例。戦が無くなったこの時代を考慮すると異例である。戦があった時代で、大将首を取ってようやく10万石以上であり、大きな戦もなく比較的平和な時代に急にそれだけの加増は考えられない。せいぜい、5万石程度の加増だ。それまでも戦での勲功なぞ特に無い。
さすがのマサズミ。あり得ないほどの加増に困惑する。
ヤマダは常日頃から忍者を放ち警戒をしているのだが、この手紙により警戒度を上げる予定だ。
ヤマダ「ホマレダ様をお呼びしたのは他でもない。この手紙だ。一度目を通してもらえるだろうか」
マサズミからの手紙を手渡し読ませる。
ツネタロウ「なんですか?加増されるのは納得ですが、三倍はあまりにも多すぎます」
ヤマダ「そうだ。私が以前仕えていたマサズミ様のお父上であられる、マサノブ様にお仕えしていた頃に家臣団から『もっと知行を戴いても良いではないですか』と詰め寄ったことがありましてな。マサノブ様はこう言われた『命を賭して槍働きをしていない某が知恵を絞ったところで、彼らには敵わない。大事なのは、命を賭した槍働きをした者が評価される。これに尽きるのだ』と言われまして。我ら家臣団はグウの音もありませんでした。それをマサズミ様は知ってるかどうかわかりませんが、喜び受け入れることなく辞退されたのです。普通の者は、長年の評価として受け入れたくなるのですが。受け入れなかったのは、どこか後ろめたさを感じられてるのかもしれません」
ツネタロウ「そのようなことがあったのですね。そうですね。知恵を絞った働きはいつでも軽んじられます。楽をしてると思われがちですね。ふぅ」
ホンダヤマサノブ・マサズミ親子は、軍師タイプの人物であり現代でいうスポーツアナリストのようなものであった。そのため、戦で槍働きを得意とするよりも経験則と知恵からより良い条件を打ち出し最適な戦の展開を考える人物。スポーツで言うと、槍働きが選手で大将が監督・コーチ。作戦を提示するのが軍師であるスポーツアナリストということ。その裏方が大幅加増されるとなると命を賭けた者たちに示しがつかない。
場所はわからないが、史実によるとウツノミヤ藩に加増転封となり15万5千石の大大名に名を連ねたとある。後にそれが原因なのか、私怨による何かであらぬ疑いを掛けられてしまいます。その私怨は、誰によるものなのか。なにが原因なのか。また、その時にあらぬ疑いを持ち寄られた大仕掛けなソレは誰が言い出したものなのか。21世紀の時代になっても研究は依然進んでいない。
マサズミが恐れている、オヤマ(藩)への何かしらの被害というのは、加増を断ったことへの嫌がらせである。誰がどこからというわけではなく、おかしな噂を流す不埒な者が現れてもおかしくはない。噂の元を断ち広まった噂は民までにするように仕向けなくてはならない。武士が信じると厄介なことになりかねない。一度、内乱があったオヤマ。再度内乱になるようでは困るとして、噂が拡がらないようにすることが大事だと。
今の時代では、ネットリテラシーが話題になる。ネットに広がる有象無象で玉石混淆の中から真実を見つけ出すことが求められる。SNSで真実かわかならない内に真実に仕立て上げ拡散されるという問題がある。少し冷静になればわかることも冷静になれずに「みんなが拡散してるから真実」と思い込むことで余計に悲惨な結果になるということがある。
それを元和の人たちは、どこまでが真実かわからないがとりあえず広めてしまおうとしてしまう。人の口には戸を立てられないと言うように、広めたくなるような娯楽と似た噂話を拡散させてしまっていた。他人の不幸は蜜の味と後に語られるような話題だと広まる早さは異常なほどである。
このことは、ひとまずふたりの胸の内にそっとしまうこととした。
Twitterや活動報告に書いた通り歴史的事件の引き金を紹介しました。まだ、初弾なのでこの先どうなるのかは歴史改変が成功するのか。歴史改変は、この物語の鍵を握っています。
一部削除しました。(2025/01/03)
またみてね