160話 大晦日
大晦日
この頃の大晦日は13日というのが一般的だという。それはつい最近知った。今年は、屋敷が増えたことで忙しくなる。人手が足りないところは、郎郎団に頼むのだが。郎郎団員にも家がある。頼みの綱である浪人たちが活発に動く。正月のモチ代だとばかりに。
城では全員総出で働く。よって、城兵たちの訓練はお休みとし、城の清掃に励む。ここで城兵たちの統率が問われてくる。なぜ、城兵たちをあのように鍛えたのか。それは、大晦日に備えて。と言いたいところだが、先の十傑らくらいなもので、他の200人は今一つ使い物にならなかった。全体の統率は僅かに上昇したように見えた。その程度である。大事な部分は、十傑に任せるとして足軽大将のクニアキに指揮を執らせ、他の凡兵200人を侍大将が指揮を執ることでどうにか今年の大晦日を無事に乗り越えられた。
大晦日を無事に乗り越えたことで、侍大将としての面目は保てた。
十傑の上位はまともな人間なため、足軽大将が組頭に命令を出すだけで番隊はそれなりに動く。十傑下位には組頭と物頭に詳しく説明をした上の命令でそれなりに動く。比較的楽な仕事である。
他20の番隊は凡兵を超えた無能集団。統率という意味がいまだ芽生えない連中。手習道場で鍛えた侍大将をもってしても理解できない無能集団。それらを統率するのは苦痛を伴った苦労。
常備兵「侍大将様ぁ、戦で例えてくださいよー」
常備兵「はっははは。そりゃいい。戦経験のない侍大将様のご意見を賜りたいなぁ」
常備兵「どうしました?いつもの調子はどうしました?」
もう無能まっしぐらである。
ツネタロウ「わかった。紙と筆。それと石を持て!」
言い争っても意味がないとし乗っかることで理解させようと試みる。
用意された紙と筆と石をいくつか。それらにざっくりとした図を描く。
ツネタロウ「でな。二十の番隊を本日に限り二つの番隊にする。組頭・物頭はそのままで他の者たちをまとめながら助け合え。それくらいできるだろ?やってみせよ」
番隊の組み直しをしている間に、図の作成をする。
ツネタロウ「まだかかってるのか?」
常備兵「いえ。もう決まってますが」
ツネタロウ「それを伝えないでどうする」
常備兵「言わなかったではないですか」
常備兵「でたよ。いつもの後出し(笑)」
ツネタロウ「そなたらのような優秀な城兵を持った己の愚かさを悔いるよ」
常備兵「ははは。詫びてるぞ」
常備兵「今頃気づくなんてなんて愚かなのでしょう」
組頭壱「いい加減にしろ!お前らホマレダ様の言葉の意味も分からない愚か者めが!」
組頭弐「そうだ。私ら二百人のことを愚かだと言われているのがなぜわからぬか!」
組頭の檄がとんだところでようやく沈静化。国語能力の低さはいつの時代も同じだというのが分かるだろう。皮肉さえ皮肉だと理解できない。愚か者はいつの時代も己のことをまともだと思い込む性質は変わらない。
ツネタロウ「組頭たちよ。なぜ報告しなかった」
組頭弐「実はまだ整っておりませんでした。先に決まったと言ったのは組頭・物頭ではない者でして」
ツネタロウ「そうか。改善が必要だな。来年には導入しよう」
組頭「??」
ツネタロウ「では、組頭二十人集まれ。説明するぞ」
図解の前に組頭を囲い込ませ説明を始める。下級城兵が務めるのは主に堀まわりの清掃。堀の水を前もって半分抜いてある。全部抜いたら魚が棲めなくなるとして。最近異臭がするとあり、堀に溜まったゴミなどを清掃する目的である。小舟があるにはあるが、小舟にはゴミなどを載せるためであり、下級城兵らは堀に入り手作業で清掃となる。師走の中旬にはあまりにも厳しく正に、下級城兵が務めるのに最適な仕事である。
組頭「それはあまりにも厳しい」
ツネタロウ「であろうな。それ故、半分投入し半分を休憩させよ。休憩には、湯を張った桶にふくらはぎまでの湯を用意する。それらは、物頭に命じよ。物頭十人ずつで湯を沸かし休憩の準備を命じよ」
組頭「それならまだなんとか」
ツネタロウ「これは戦だと思え。雨の中や川を渡る進軍では濡れた体のままだ。体力を大きく奪われる。堀の水は半分抜かれてはいるが、足元はぬかるんでおり思うように動けないこともあるだろう。我らは戦の準備段階にあるのだと思え。疲れを癒すための湯だと考えれば戦の準備段階よりもまだ心にゆとりが生まれることだろう。士気が下がるようなら組頭のお主らが士気を上げるのだ。昼食は休憩中に用意する。食べて体力を取り戻すように都度都度伝えるように」
堀の水半分抜いてみた。どこかで聞いたことあるような内容ではあるが、知らぬうちに堀の水が汚れるのはいつの時代も同じ。いくらガラスや鉄製の物が乏しいこの時代でも割れ瓦やゴミを投げ込む者は一定数いるものであり、素足ではとてもではないが危険である。として、草履では穴が開きやすいということで、前もって作ってもらっていた下駄を配ることとした。
ツネタロウ「下駄を全員分とはさすがに用意できなかったので、休憩に上がってきた者たちの下駄を履いてもらう。鼻緒が切れた場合は、すぐに交換するように。手の空いた組頭や物頭が直すように」
組頭「それで、私ら組頭の仕事とは」
ツネタロウ「待て。話は順を追って話す」
せっかちな男は嫌われると言われるが、なかなか自分の仕事がわからないでいるのも苦痛である。
ツネタロウ「今年は、通りに面した堀の清掃だ。オモイ川の方は扱わない。城門側に限定する。堀は深いが出来る限り丁寧に清掃するように。それらの指揮をするのが組頭たちである。小舟を引き上げる際には、橋から引き上げるように。定期的に引き揚げるように。落としたり倒しては意味がない。こまめに引き揚げよ」
組頭「それが我らの仕事ですか」
ツネタロウ「堀の中で働くよりいくらかマシであろう。湯を沸かす物頭はで手が空いた者を呼び出すなどして上手く働け。今日中に終わらすぞ。いいな」
石を用いて堀の清掃を説明する。小舟を線で引き、分かりやすいように説明をする。
ツネタロウ「何度も言うが、これは戦である。今日中に終わらせるにはどうすればよいのか。常に考え連携をとり素早く終わらせるよう努力するのだ。無事終われば、城兵としての働きに戻すことも考慮する。では、とりかかれ!」
組頭たちは急いで、物頭に伝え常備兵らに説明と下駄を用意し半分ずつ取り掛からせた。
恙なく進み、無事夕方前には終わることが出来た。
ツネタロウ「よくやった!素晴らしいぞ!皆、心の芯まで冷えているだろう。足を温め温まった者から帰るように。金に余裕のある者は、公共風呂があるからそちらまで行くと良い。たった十文で体の芯まで温まるぞ。民百姓が多くいるが、なるべく優先して入れるように手配してある。民百姓に迷惑を掛けないように。それだけだ。ご苦労だった!」
ちゃっかり宣伝をするツネタロウ。10文と格安な風呂を紹介した。口コミで拡がることを願ったものでもある。
本当に、大晦日が13日というのを知ったのは最近。私の心をそのまま文字にしてみました。物語の1年前の大晦日になにも書かなかったのは、身分があまりにも低いため何も書けるものが無かったから。出世してやることがいっぱいになったのは、書くこともいっぱいだ。ツネタロウ出世ありがとう。