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少年 ツネタロウ  作者: モーニングあんこ
第10章 侍大将

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144話 タダキヨ

 シンデンコウサクを慕う女子おなごは、百姓のエイという名だった。直談判じかだんぱんに来たが真実を知り返り討ちにされる。理解が深まったことで改善される点があるかもしれない。


 城兵へ厳しい鍛錬たんれんに、友の知らない一面を見た。

  タダキヨ《ツネタロウめ。なにもあそこまで厳しくしなくても。いや、私は家中かちゅうをまだまとめ切れてない。ならば、私も厳しく行くとするか》


 友の働きを見ておのれの甘さに気づかされる。家中をまとめることに友を利用していた。それでは真の家中をまとめることにならないとして、厳しく向き合う事に方針転換ほうしんてんかんを決める。

 早速、隠居いんきょの父と家臣を呼び出した。


  タダキヨ「家督かとくいでから一カ月()つが、いまだに私に忠誠をちかわないがこれはどういうことか。まだ父上に義理立ぎりだてて居るのはなぜだ。言いたいことがあれば何でも言ってみよ」


 そう言われて答えるものはいない。

 しびれを切らす。


  タダキヨ「そうか。わかった。質問をかえる。父上に付く者はそのままだ。父上には、一切の資金や領地経営をさせない。すべて私に話を通すように。以上だ。解散」


 隠居しているとはいえ、領地経営に口出しをし家臣に指示を出している。それを家督を継いだタダキヨが特になにもしてなかった。急な方針転換を決めたことで、家臣たちはどうしたらよいのかと困惑こんわく

 タダキヨはこれまで、自分のことだけしかしていない。家督を継いでからもそれは変わらない。たまに乗馬の練習に来るツネタロウに教えてる程度。家臣たちは。


  家臣たち《あなたこれまで何もしなかったではないですか。それをなにを今頃になって》


  重臣じゅうしん「となりますと、タダキヨ様は名主みょうしゅにお会いになったことは?どのような作物を作っているかご存知なのですね。名主の名と作物を二つ以上お答えください」


  タダキヨ「いや、知らんな。詳しく教えよ。知ってる者が知らせるのが筋ってなものだろう」


  重臣「ご存知ないのですか。それで開き直ったということですね」


 家臣らはため息をく。


  タダキヨ「どうした。答えよ」


  重臣「ではこれから名主の元へ向かいましょう。そこで素直にお聞きください」


  タダキヨ「なぜだ。屋敷に呼べばよいではないか。なぜこちらから足を運ばねばならん」


  重臣「今日のこよみをご存知でしょうか」


  タダキヨ「葉月はづきの二十九日じゃないか?違うか?えーっと。うん。いや間違いないな」


  家臣ら《暦もあやういのか》


  重臣「そうです。百姓は今が一番忙しいのです。それで領主のためだけに足を運ばせてどういうお気持ちですか?」


 質問に答えさせ現実を分からせようとするのだが。


  タダキヨ「あのな。私も忙しいのだ。お前たちの話に付き合うのは無駄だ。言いたいことはさっさと言え」


  重臣「では、言わせていただきます」


 前当主のマサキヨは静観せいかん。家臣らはその姿を見て我慢する。


  重臣「今の季節は、百姓にとって最も忙しく作物の刈り入れ時期であり、名主たちは資料の整理などと刈り入れの人員を動かすなど効率よく動かそうとするのです。刈り入れた作物をまとめ重さをはか年貢ねんぐおさめるのです。当家に運び入れるのです。長月らいげつの中旬まで忙しいのです。その期間に呼び出すのは効率を悪くし迷惑をかけることになります。それでもお呼びしますか?私たちは、殿の言い分に従います」


  タダキヨ「わかった。よくわかった。では、名主本人ではなくその家の者の誰かを呼んでまいれ」


 家臣は名主の元へ走る。


  タダキヨ《どうだ。一喝いっかつしてやったぞ。これが指導力というものだ》



ー 長月 ー


 各組頭から集めた紙を元に、刈り入れの様子を見学へ向かう。タダキヨから借りた乗り馬に乗りクニアキに引かせ、城兵らの仕事を見て回る。

 目が離れたからか近づくまで座りサボっている姿ばかり。監視かんし役も一緒にさぼっている。


  ツネタロウ「どうだ。はかどっておるか?」


 近づいてようやくわかる。

 あわてた様子で、刈り入れに走る。


  ツネタロウ「がんばりおるわ」


  クニアキ「案外気付かれないものなのですね」


  ツネタロウ「ここは。これだな。ペケふたつだな。監視役もっと」


  クニアキ「この調子では、どこも遊んでそうですな」


  ツネタロウ「では次へ行こうか」


 それからいくつか見て回るが、どこでも同じようなもの。減点ばかり目立つ。

 翌日からも見て回るが、200人ほどの知行地を見て回る。そのいくつかは、真面目に働く者もいる。ホッとひと安心。全滅だけはまぬがれたが、それでも、2割程度。まずまずというところか。

 カシハラ神社まで走ることで、徐々に真面目に働けば見返りがあるのだと浸透しんとうしつつある。それでも上位だけに限られることも理解しつつあるため、上位に入れないのなら手を抜いても良いだろうと考える側面そくめんもある。


  ツネタロウ《なかなか上手くいかないものだ》


 東西南北に区切り数日見て回った。馬に乗るツネタロウを見て手を振る子供たち。知り合いの大人からもいつもと違うツネタロウを見て喜び声をかける。


  知人の男「ホマレダ様!恰好かっこう良いですな!似合ってますぞ!」


 なんと応えてよいか戸惑とまどいつつ手を振るにとどまる。それに少し気恥きはずかしい。頭上ずじょうから失礼する気持ちはまだぬぐえない。


  クニアキ「そこはありがとうで良いと思います」


  ツネタロウ「そうだな。次からはそうする」


 慣れないことをしてるのはじゅうじゅう々承知。それだけに気恥しい。



ー 長月中旬 ー


 他人の領地を見て回るばかりが仕事ではない。自身の領地の刈り入れはおおよそ済む。イヌヅカ所有の農機具を両替商へ百姓たちが受け取りに行く。イヌヅカによって台数が増やされていた。


 春の宴で試しに使ってみた者たちでさえ、壊してはいけないとかなり慎重に使う。


  ツネタロウ「大事に使ってくれるのはありがたい。だが、大事に使うが故にこれまでと変わらないのであれば意味はない。使えばいつかは壊れる。壊れることに恐れず使って欲しい!」


 製作者の一声で、壊さないように努めつつ作業効率を重視したところ、新しい農機具はそう簡単には壊れず身体的な苦労を少なくできたと喜びの声をいくつも聞けた。作った甲斐があると出資者のイヌヅカと米問屋のヤハタで喜びを分かち合う。イヌヅカの機転きてんかせたことで、多少の故障は代替だいたい機を使うことで素早く対応できたのは大きい。


  イヌヅカ「いいえ。これはケチなことをしては効果のほどがわかりません。なので、勝手ではありましたが、ゲンゴ殿にお願いしいくつか作ってもらってたのですよ」


  ツネタロウ「良い判断です。あまりご迷惑かけられないと思い各一台ずつでと思っていたのですが。さすがは、オヤマイチの両替商ですな!」


 珍しく持ち上げる。

 珍しいことを言われて驚きつつも喜びの声を上げる。


  イヌヅカ「ホマレダ様が思ってる以上にこの農機具に秘めた可能性があります。故障台数はあるにはありますがすぐに修理できるものでした。大きく壊れるわけではないので、来年はオヤマ一帯に広げてみようかと思います。各地の名主に一式貸し出すようにしてみようかと思います」


  ツネタロウ「今後の事は、すべてイヌヅカ様に委託いたくします。売り物になったらいくらか藩に入れていただければ結構です。この農機具は、一応オヤマ藩には話が伝わっています。今年上手く行ったのであれば、来年以降はそちらにお任せします。三年後くらいにカネになれば、藩に税を入れてもらえれば非常に助かります。増やすも減らすもすべてお任せします」


 ヘイロクとの関係では、売上に対しわずかでも支払わせていたが、個人間のモノではなくなったため、商人に全てを任せることにした。商人は儲けることに特化している。武家が関わるところではない。困った時には手を差し伸べる程度で丁度良い。

 最新農機具はオヤマから日本中へ広げる。そのためだけに。



  クニアキ「との?殿の稼ぎにならないですが良いのですか?」


  ツネタロウ「良い。私は少しも損をしてないのだ。それでいて、百姓たちの苦労を少しでも軽くなるのであれば。それに、特定とくていの商人から金を受け取れば、気に喰わない者が良からぬ噂を流すことだろう。そういうのは勘弁かんべんしたいのだ。今は、侍大将としての改革が必要なのだ。これからもクニアキには活躍を期待しておるぞ」

【あとがき】

 なんとなく向かう方向が分かる簡単な話になってしまいました。いつも通りではありますが。タダキヨくんどうしたものかな。ああいう上司の下で働くと苦労しそうです。ため息も吐きたくなります。家中をまとめられないのではないのがね。分かって無いのがね。心配ですね。

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