15話 交代
殿のマサズミと初めての謁見。身分としては簡単に会える人物ではない。呼ばれたために登城することとなった。転移者という言葉を初めて聞く。よりにもよって殿の口から聞くことになるとは思いもしなかった。殿の知る転移者は、ノブナガの家臣であるヤスケも同じ転移者だと知った。ツネタロウよりもずっと未来の人物だったようだ。
霜月
ツネオキは家族を呼び寄せた
ツネオキ「皆集まってくれたか。皆すまない。日に日に弱ってるのは分かっている。いつまで保てるかわからない。その前に、ツネタロウを当主にしようと思う。儂は隠居することにした。まだ元服したばかりで心配ではあるが、儂が死んでからでは心の準備もできんだろう。これより、ツネタロウを当主にすることにした。異論は許さん」
身体は弱りようやく座っている。空気の入れ替えがしやすいように、障子や襖はすべて開いたままで始まった。
ツネオキ「よいな。ツネタロウ。仮にも元服して人を教える立場にある。弱気なことを言えば、子供たちはたちまちに心配してツネタロウから離れていく。ツネタロウはいつも通りに努めなさい。また、当主になったからと言って、偉そうになってはいかん。世間ではまだまだひよっ子だ。幸い誰にでも偉ぶるような性格では無いからさほど心配はしてないが、ツネタロウのことだ。出世すると儂は思っておる。その時に、加増されて驕ることなく努めなさい。身分に関係なく誰にでも同じように接しなさい」
厳しくも愛のある言葉で激励する
ツネオキ「勘違いするな。儂らはあくまでもマサズミ様を支えるためにある。すべてはマサズミさまに捧げよ。マサズミさまが隠居された時はツネタロウの好きにすると良い。それまでは最後まで従え。感謝を忘れるな。我らが農民から武士に取り上げられ家臣にまで取り立ててくださったホンダ家へ奉仕することを忘れるな」
話せるうちに話しておきたいと身体に鞭を打ちながら伝える。ツネタロウだけでなく、集まったすべてのものに対してでもある。ツネタロウが誤った道に進むものなら皆で助けてやって欲しいという気持ちが込められている。
妻のトラと娘のシマ。女中のカメ。下男のヒコザ。皆涙ぐみながら話を聞く。妹シマは母トラに抱きつき泣き声を漏らさぬよう顔をうずめ泣いている。
ツネオキ「儂はこれより隠居する。その旨は、マサズミさまにツネタロウお前がこの書状を携えて謁見してまいれ。マサズミさまに今後のことをよく聞いてきなさい。家の事は、ツネタロウにすべて任せる。儂はそれに従う。儂に気にすること無くマサズミさまを助けよ」
ツネタロウ「わかりました父上。お任せください。父上は体調回復に努めてくだされ。私から最初の指示です。必ず守ってくだされ。諦めず私をずっと見守ってくだされ」
ツネタロウ鼻をすすりながら父に願いを伝える
ツネオキ「ツネタロウに嫁をもらう前に隠居することになるとは不甲斐ない。シマの嫁入りまで生きるからな。シマは母から多くを学びなさい。良き相手を見つけてやるからな」
ツネタロウ「父上。私とシマの相手を見つけてくだされ。楽しみにしておりますぞ」
ツネタロウの言葉を聞いて安心し、ヒコザの肩を掴みながら離れに戻っていく。寒い中熱い親子の会話の屋敷も締め切った。ツラく悲しい思いも最後はみな笑顔だった。明るく世代交代がされた1日だった。
父に言われた通り、書状を携えてギオン城へ向かう。正装でギオン城へ向かう。着物は父が着用していたもの。
突然の登城のため暫く控え室にて待つ。
ようやく謁見できる。
マサズミ「待たせたな。表を上げよ」
ツネタロウ「殿。父より書状を預かってまいりました。こちらを」
小姓に書状を手渡す
マサズミ「。。。そうか。隠居するまでに至ったか。わかったと伝えてくれ」
ツネタロウ「はっ」
マサズミ「お主の家系は真面目に仕えてくれてくれている。信頼のおける者たちばかりだ。ツネタロウも続けて儂に仕え支えて欲しい」
ツネタロウ「かしこまりました。全身全霊お仕えいたします」
マサズミ「また来いとは言ったがこのような形で会うことになるとはな。父ツネオキの気持ちを無駄にすること無く我を支えよ」
ツネタロウ「はっ」
マサズミ「では、言い渡す。これまで前当主はギオン城に勤めていたが、ツネタロウお主は登城はしなくて良い。今の寺子屋で努めよ。お主には期待をしている。この先なにかしら相談することもあるだろう。儂の話し相手になってくれ」
ツネタロウ「もったいなきお言葉。また、過分なる指導に感謝いたします」
寺子屋勤めを正式に認められた。その上で
マサズミ「寺子屋勤めに励め。そして、寺子屋から新たな師範を育てよ。なるべく早急にだ。お主ひとりで切り盛りするのは苦労するだろう。助けになるものをお主自身で育てよ」
マサズミからの当分の指示は、師範の育成となった。今までのように教えるだけではなく次の世代を育てるという任務。人を見る目が問われる。今までに経験したことの無い分野に突入することとなった。
緊張とこれからの自分に対しての楽しみで武者震いするほど。
【人物紹介】
ホンダ・ツネオキ
ツネタロウの父で3代目前当主。元は農民だったが、マサノブの時代に武士として取り立てられた。知行は100石。慶長13年にマサズミがオヤマ藩主になったことからマサズミを主君としてオヤマへ移り住んでいる。
関ヶ原の戦いで初陣。マサノブの家臣として槍働きをした。
槍働きが不要になり書類の管理の一端を担う。
トラと結婚し3太郎1姫に恵まれる。
マサノブからマサズミへ主君を変え従う。エド屋敷からオヤマの農村へ移住。
武家屋敷には移らず農民としての家系もあり農村に屋敷を構えた。
次男・三男は養子へ。嫡男タロウと妹のシマの家族4人で暮らす。女中としてミカワの国からカメを呼び寄せ雇う。下男のヒコザは、オヤマの百姓の三男坊を雇う。
オーサカ冬の陣・夏の陣に参加。夏の陣では、マサズミの嫡男マサカツの元で槍働き。その際に、足に銃弾を受けた。
ギオン城では、これまで通りに資料などの整理か管理をしている。
優しい性格と笑顔で同僚たちから評判が高い。登城しない日は、百姓と一緒に鍬を片手に汗を流した。百姓との相性も良く愛されていた。書類よりも土いじりしてる方が合うと近しい者たちはみな知っているほど武家暮らしが今一つ馴染めていなかったようだ。槍働きの不要な世代として育った。そのため、子供たちには腕っぷしよりも勉学に努めるよう育てた。しかし、タロウは勉学が苦手で目を盗んでは木刀を振っていた。釣りをしていて落雷に巻き込まれるその日までは。
次回から第3章です。ちょうど元旦に新章突入というのは、狙ってたらカッコよかったんですが、ものすごく偶然です。冬休み企画で毎日投稿がたまたま元旦新章になりました。気を取り直して。
次回から第3章です。『相談するに限る』です。
元旦0時からです。日付けが変わってあけおめした後に読んでくださると嬉しいです。
また見てね