129話 殿戻る
オヤマ藩内の問題は片付く。エドで長雨や洪水による疫病が流行していることを知るとエドに米を200俵送るよう手筈を取る。以前、手習道場4箇所できた時の褒美としていただいた400俵の半分を送ることにした。
エド城内
マサズミ「ふふん。あやつめ。粋なことをしよる。よし、米五十俵を炊き出しに使い、残りは疫病対策に使う。これっぽちでは足りんが行動を起こしたことが今は大事だ。この後は、幕府で対策に出ようぞ!」
私財を使って民を救うということはあまりされてなかった。5万石程度では私財を投じるには石高が少ないこともあり、僅かな支援ではあるが行動を起こしたことがのちに評価される。
ホンダマサズミの行動に触発され他の幕府重鎮たちも重い腰を上げる。その甲斐もあったかエド城下での疫病は秋前には終息した。
幕府の収入が依然少ない状態では、幕府の財力だけでは厳しいとし有志である大名らからも時折受け入れることがあった。ほぼ毎年何かしらエドだけでも災害や疫病の流行があり、税は四公六民から五公五民へ中後期には六公四民へと変わっていく。
ー葉月ー
オヤマ
スズからの手紙によると早めの対応により疫病の終息が宣言された。大物大名らが忙しなく動き対応に当たったとも書いてある。老中のドイ様がホンダ様を大層褒めている。世間では仲が悪いとされてるようだけど、肩を組み談笑している姿を見る人が多いともあった。
コウキにスズへの報酬として、一両渡す。さらに、老中の動きに変化はあるかどうか調べよと伝える。
ツネタロウ「コウキよ。此度は済まなかったな。米の手配を頼み。コウキよ。正式に私の家臣にならんか。家臣として働いてはみないか。もちろん、毎月スズとの間はこれまで通りに。コウキはよく働いてくれる。いつでも忠実に働いてくれてることに私ができるのは、家臣として迎えることくらいしか考えられない。いかがだろうか」
コウキ「ありがたい申し出なれど、わたしには荷の重い話です。辞退させていただきたく思います」
ツネタロウ「ああ。そうか。自由に動ける商人でいるほうを選ぶか。わかった。すまなかった。これからもなにかあればよろしく頼む」
オヤマ城下
ヘイロク「甘い甘い甘雨はいかがかね。ころころサイコロ甘賽はいかがかね」
甘雨・甘賽とはこのオヤマでは、ところてんを指す。現代の関西風でみりんを煮た甘い蜜を使ったもので、夏の暑い中でも耐えられるようにと甘みのあるものを食べて元気に働こうという趣旨のお昼の定番食として売り出している。食欲の無い人でもスッと口に入り食べたという気持ちになれるとして人気に。また、子供の菓子としても人気が出た。子供には格安で販売しているためだ。
この当時では、甘い食べ物はほとんど無く菓子としても珍しい時代。旅人の中には子供だけでもと親が買い与えるというのが健気でどこか憐れんだ。
オヤマはニッコウ街道とミブ街道の分岐点にあり、オヤマまで供にしていた者たちが分かれる場所でもある。また、ニッコウまで約2日ほどの距離。宿場町としてまだ整備されてはいないが、夏季限定の甘雨と甘賽で人々の休息地として認知されてきた。
流行りものの好きなエドっ子商人たちが、新たな流行をとオヤマに足を運ぶ。オヤマの雑炊の流行が終了し次に流行るのはと嗅ぎつける。
ところてんの歴史は意外と深く、宮中で食べられていたとあり武士以前の時代に、一部の位の高い人が食べていたところてんを元和時代に流行らせようとオヤマで動き出す。寒天にせずに、テングサから直接作るため年中食べられるというものではない。夏季限定として売り出した。
テングサから作るということで、エドはイズから近いとしてすぐに人気が出る。エドでの人気にも幕府の重鎮であるホンダマサズミが絡み一杯一文で徴収とした。
文月下旬
エドからオヤマ藩主ホンダマサズミが戻った。ツネタロウは登城し久しぶりに顔を見合わせる。
マサズミ「久しいな。先日の件は何かと済まなかったな。今日はゆっくりと話をしたいと思ってな」
藩主自ら家臣との会話に刻を作る。
ツネタロウ「ありがたき幸せ」
マサズミ「だいぶ成長したようだな」
笑いながら初めての謁見を思い出す。
マサズミ「先日のイマヒラの件はすまなかった。本来ならイマヒラの家も取り潰してもよいのではあるが、身内から敵をあまり作りたくないからな。幸いイマヒラには嫡男がいた。その嫡男に後を継がせた。嫡男の下に男児がいるがまだ幼い。当初の通り嫡男タダキヨに継がせることにしたのだ」
神妙な面持ちで話を聞く。
ツネタロウ「その件ですが、未だお父上のマサキヨ様の威光が強いようで、タダキヨ様がご苦労されてるそうです。それを私が手出してしたところで家臣がまとまるとは思えません。それがどうも歯痒くて」
マサズミ「うむ。わからなくもない。だが、イマヒラの家は父マサキヨのしでかした事とは言え、タダキヨがこれまで家臣に何もしてこなかったこともまとまらない所以だろう。思い切り家臣を切るなどの措置をしてもよいだろうに。当主は誰なのかわからせることも必要なのだ。マサキヨを追放したりどこぞの寺に一時的に蟄居させても良いだろう。ようは、邪魔なら追い出すことが出来ないようであれば家はいつまでも混乱のままだということだ」
ツネタロウ「そうですね。私も同じ気持ちです。ただ何もできないというのが心苦しいと言いますか」
マサズミ「そうだな。時々顔を出して話でもしたらよい。家のことに口出しするのはヤボだからな。恐らくタダキヨもそれを望んでいるだろう」
ツネタロウ「そうでありますか。わかりました」
マサズミ「それとは別に、ツネタロウに褒美をやろうと思う」
手を叩く。しばらくすると家老のヤマダがやってくる。
マサズミ「ヤマダよ読み上げよ」
巻物を広げ読み上げる。
【あとがき】
久しぶりのマサズミ様。文献には、マサズミ様はギオン城に入ったという事実はありません。物語の性質上戻ってきたという表現をしています。これまで何度か戻ってるのになにを今更という感じがしますが。
褒美をいただけるそうです。楽しみですね。どんな褒美でもうれしいものです。ツネタロウにどのような褒美が与えられるのでしょうか。