115話 ぼちぼち
新章・新緑、郎郎団立ち上げ6部作最終回。
染物屋
モキチ「先生!毎度ご贔屓に」
ツネタロウ「うん。モキチはどうだ。商売の方は」
モキチ「難しいですね。一筋縄ではいかないのを痛感してます」
ツネタロウ「っふ。こう言うこと言われた時は、ぼちぼちだって言えばいいんだよ」
モキチ「ぼちぼち。。ですと」
ツネタロウ「そうだ。私とモキチの間柄だから素直に話して良いだろうが、客や取引先での『最近どう?』という問いには、店の事やモキチやその家族のことを問うている場合がある。それらを素直に伝えるわけにはいかない。そこでのぼちぼちだ。まぁまぁと同じだと思ってよい。この言葉は便利だ。面倒ごともこれで乗り切れることもある」
モキチ「そのような便利な言葉があるのですね。武士の方が使われるのであれば、それに倣うというのは間違いではありませんね」
どの時代でも武士が使う言葉ではない。しかし、それを否定すれば面倒。
ツネタロウ「それで注文したのは出来てますか?」
モキチ「はい。ただいま」
奥へ入りしばらく
モキチ「お待たせしました。こちらです。確認お願いします」
ツネタロウ「どれ。ああ、これです。うん。うん。長さもちょうど良いですね。染めも文字も良いですね。満足しました。モキチさんにお願いするのが安心できて助かります」
丁寧に風呂敷に包む。
モキチ「そう言っていただけると嬉しいのですが、受け付けたのはボクですが、父にほとんど頼ってます」
ツネタロウ「それは仕方ないです。順を追って経験を積み徐々に自分でできるようになる。そういうものです。私の考えていた通りに出来てるので、そう自分を卑下することはないですよ」
頭を掻く
モキチ「先生にはいつも良い機会を与えてくださるので助かってます。これからもよろしくお願いします」
ツネタロウ「わかりました。こちら頂いていきますね」
注文の品を受け取り店を後にする。
ツネタロウ「戻りました。サンタさんちょっと良いですか」
風呂敷をほどく。
ツネタロウ「こちらをどうぞ」
サンタ「私たちにですか?ショウジ君もこちらへ」
ツネタロウ「そうです。郎郎団の帯と腕布です。各二十本になります。足りない分はこれからの稼ぎから作ってください。ひとまずこれで結束できることを願います。皆さんおめでとうございます」
サンタ「ありがとうございます。大事に使わせていただきます。まだ全員が揃うのは集めた時だけです。総勢二十三人。団長として感謝いたします」
ツネタロウ「サンタは団長らしくなりましたね」
サンタ「それは、ツネタロウ様に礼儀を教わったおかげです。手習道場で学んだ甲斐がありました。武家の団員からも教わってます」
ショウジ「その点、副団長の私も団長同様学ぶ点があります。団員どまりでしたら学ぶことも出来なかったかもしれません」
ツネタロウ「団員にも団としての作法や礼儀などもおいおいつけていけば良いでしょう。郎郎団は、人助けにあるでしょう。人と関わる仕事となると横柄や自信なさげな態度では嫌われてしまいます」
自分の言葉に何かを思う
ツネタロウ「みっつ目の手習道場に、武家や商人の子たちで、読み書きと礼儀を中心にした道場を開くのはどうでしょうか。みっつ目の手習道場は、郎郎団に任せるというのはどうですか?直接経営してみてはどうですか?みっつ目は西か南にする予定です。主に、農村部になるので百姓向けとなります。皆食もお願いしたいのでそこはヘイロクなどから人をまわしてもらうなど手配してみてはどうでしょう。出来そうですか?」
ふたりで相談。
サンタ「これは今はまだ難しいですね。たとえば、礼儀だけとかは出来ませんか?」
ツネタロウ「この手習道場を広げてる理由に、文字が読めるようになることが第一となってます。さらに文字が書けて自己表現できるようになり、数を数え間違いなく損をしない生き方が出来るようにと順追って考えられる力を付ける。そこへ、食事の大事さや食事を作る心得、簡単な裁縫、最後に人としての最低限の礼儀。これらを教えることが出来る人を師範として扱っています」
サンタ「それら全てが出来る人物は団にはいません。ひとつに特化した人物もいません。やはり」
ショウジ「団長。特化してなくても読み書きが得意、計算が得意、礼儀のある人物。それらの得意な人で、四つ半と九つ半に分けるのはどうでしょうか」
サンタ「ならば、奇数日偶数日で教える内容が変わる。教わりたい人が来る。というのであれば、そうですね。可能かもしれません。ただ、読み書きができるのと人に教えるというのはまた別の話だと思います。その辺はどうしたらよいでしょう」
ツネタロウ「私自身の経験ですが、人に教える経験はありませんでした。先代師範から受け継いだ時も未経験ながら引き継いだのでやれることからやったら今に至る。という感じですね」
ショウジ「教えたい気持ちがあれば出来るということでしょうか」
ツネタロウ「そうですね。最初から上手に出来なくても良いのです。教える側も日々努力をすればよいのです。私もクニアキもチヨさんもそうです。日々どうすれば伝わるのか。毎日考えているのです。なので、最初から上手に出来てたら羨ましいと思ってしまいます」
サンタ「羨ましいなんて考えるんですね。意外です」
ショウジ「団長。それなら我らでも出来るのではないでしょうか。前向きに検討してみませんか。まずは、可能な人物を割り出すところからはじめて見ませんか」
サンタ「だな。よし。先生。場所と備品などはお願いしても良いでしょうか」
ショウジ「団長。言葉遣いがめちゃくちゃだよ」
ツネタロウ「それだけ前向きに検討してくれてるんだな。嬉しく思う。とりあえず期限は、長月には始めたいと考えている。最初のうちは、手ならしという意味合いから手習北道場で学んでもらう。その後は、新設手習道場で師範代として働いて欲しい。師範になるには、全体が出来るようになってからになる。経営権は来年以降に委譲することを検討している。まぁ、難しければしばらくは私が引き受けるから安心してほしい」
それから文月の中頃には、郎郎団と契約し下旬には師範代を派遣してもらい、ツネタロウたちの苦労が少しずつ軽くなっていく。長月に入る頃には、下準備が出来た状態になり、順次新設手習道場へ派遣するようになった。これで、3つ目の道場が出来る。
郎郎団との契約は、1日1人当たり80文。午前と午後で2人なので1日当たり160文で契約した。師範代本人の実入りは、1日当たり6割の48文。残りの4割を団の収入とする。月5000文で契約した。チヨ師範の収入より多いことになる。その他の雑務や皆食も含まれるため1人当たりの収入はかなり少ない。
3つ目の手習道場の収入を一度ホマレダ家に預け、そこからスミエに任せる。スミエから郎郎団に月の支払いをする。手習道場で稼げるものではないため、赤字は出やすいのだが、マサズミ様より頂く米百俵が頼みの綱。
郎郎団はまだまだ身内との契約で成り立っているところがあるが、団の結束を期に成長すればよい。人をまとめるのは大変なこと。そう実感したツネタロウであった。
【あとがき】
染物屋のモキチくん。ヘイロク以来の依頼。優しい性格のためか素直な青年。成長は確かに見られる。
ボチボチは、大阪の商人言葉かのように思われガチですが、現実的に使うのはフィクションの世界くらいなもの。わざと使って笑わせることはあるが。大阪に強い憧れがあると使いたい他所の人は今の時代でも居ます。ただ、かなり便利な言葉なので、挨拶にも使うことが出来、本音の場合と嘘や聞き流す意味で使われることもあり、便利ゆえに使うことはあるにはある。それでも、フィクション性が強い。安易には使いたくないですね。気を付けましょう。




