105話 キタ
手習北道場の募集をかけ初日を待つ。一方、元からの手習道場はチヨに引き継がれる。ツネタロウという存在を欠いたことで右往左往するチヨ。ツネタロウという存在を新たに気づかされた。
戻り、手習北道場では
名簿作りに時間がかかり昼前になってしまう。クニアキは水を配り終えると雑炊を作る。初日は、食事前に自己紹介。食事をして仮眠をしたら午後の勉学。
とはいかず、食事前の自己紹介は子供たちが騒ぎすぎて上手く行かず、雑炊を食べるために大人ふたりが形を作り雑炊をよそって食べる。食べるまでにも走り回る子供がいて、全員で食べる前に食べ出す子供。こっちはこっちでてんてこまい。
食事の片付けを教えるが、なかなか言うことを聞かない。手習道場がどういうところなのかよくわからずに、預けていく親と子供。仮眠は腹いっぱいなのと騒ぎ疲れて熟睡。
仮眠明けで、ツネタロウは手習道場とはどういうものなのかを子供たちに説教。その間も落ち着きのない子は、クニアキに強制正座。それを見て他の子も真似をする。正座はしていたが手の置き方などを見て学ぶ。
ツネタロウ「葉月いっぱいまでここは無料ですので、食事だけでも良いので来るように。ただし、私ホマレダ・ツネタロウとあちらのササキ・クニアキの言うことを聞けないのであれば、無理に来なくても良いです。ここは、勉学をする場所です。わかりますか?」
子供たち「はーい」
ツネタロウ「うるさく騒いで良い場所ではありません。わかりますか?」
子供たち「はーい」
ツネタロウ「では、明日もここで待ってます。徐々に慣れて行きましょう」
クニアキが終わりを告げ、机や座布団を端に動かすように子供たちに告げる。子供たちは嫌そうにしながらも言われた通りに動く。そうしてると親が迎えに来る。
親「メシくったか?」
子供「うん。でもなんかおとうのいってることとちがったよ」
おとう「先生なにが違ったんですかね?」
ツネタロウ「なにがとは?」
おとう「いや、なんていうか、ホラ。箸持ってくることとあったでしょ」
ツネタロウ「そうですね。昼食があるのでそれで必要と言っただけであり、ここは食事をするための場所ではありません」
おとう「そうかもしれねえけどさ、こっちははじめてだからよ。仕事の合間にこうして迎えに来てるわけだし」
ツネタロウ「そんな幼いお子さんをひとりで帰すのは危険ですからね。道を覚える間だけでも送り迎えをして下さい。文字の読み書きや計算ができるようにするためにあります」
おとう「そうかもしれねえけど」
ツネタロウ「子供を預けるためだけの場所ではありません。これは、ホンダ・マサズミ様からの願いであり、どの人も文字の読み書きが出来て計算が出来るようにと言われているものです。それを反故することになりますが、それでよろしいのでしょうか」
おとう「むむむむ」
ツネタロウ「遊びに来る場所ではありません。ここの昼食は、子供たちの成長を促すためのものが入っています。ここにくればタダで食べられるのでそれは利用してもらって結構です。しかし、預ける意味でならばお断りします。明日から来なくても良いです。そうならないよう今一度考え直しては貰えませんでしょうか」
一部の親子は肩を落として帰っていく。
その他の親子からは称賛の声が上がる。
クニアキと反省点を話し合う。
ツネタロウ「思ってたのと違いましたね」
クニアキ「はぁ。疲れました」
ツネタロウ「同じく。自分が以前の師範から受け継いだ時は、まだ元服して間もない頃。幼いなりにもなんとかなったのですが」
クニアキ「それは、引き継いだからじゃないですか?」
ツネタロウ「引き継いだから?」
クニアキ「子供たちは前の先生が、寺子屋とはどういうところなのかを説明し育てた。そこへ殿が引き継いだから、素直に言うことを聞いてくれたんじゃないでしょうか」
ツネタロウ「それです。そうでした。今回はイチから育てるので」
クニアキ「じゃあ、葉月末までは勉学はほどほどに、手習道場とはというところから始めましょう。どうですか?」
ツネタロウ「そうですね。クニアキの言う通りです。まだ明日からも新規があるでしょう。今日の事で理解した子供たちもいるでしょう。その子たちに期待しながら長い目で見ていくとしましょう。目標が下がりますが多くを求めて勉学を嫌うのでは意味がありませんからね」
クニアキ「皆食では熱いので注意がさらに必要でしょうが」
ツネタロウ「チヨさんは無事でしたでしょうか。そろそろ迎えに行く頃合いですね」
早々に、片付けて戸締りをしたら手習道場へ向かう。
ツネタロウ「チヨさんいかがでしたか?」
チヨ「はい。朝のうちは少し戸惑うこともありましたが、どうにか」
カヨ「本当のこと言えば?」
カヨに言われて口を尖らせるチヨだったが、その後のいきさつをすべて話す。
ツネタロウ「初日から大変でしたね。明日、ヘイジくんが来るでしょう。念のためカヨさんには朝出てきてもらえますか?シノさんは頼れる人です。頼られるのを心待ちしてるところも魅力的ですね。ここの経営は、チヨさんにあるのですから好きにやってみてください」
カヨ「わかりました。明日も念のために出てきます」
ツネタロウ「これでヘイジくんが明日来なければクビにしてもいいでしょう」
チヨ「クビですか!?ただでさえ人が足りてないのに」
ツネタロウ「仕方ありません。どういう理由であっても今のところ連絡が来てないのでしょう?ならば扱いに困るのでクビで良いでしょう」
チヨ「それもそうですね。明日来ることを願います」
ツネタロウ「その他で大変なことはありませんでしたか?」
チヨ「カヨちゃんが来てくれたので」
ツネタロウ「それならよかった。余談ですが、カヨさんと呼ぶ方が大人っぽくって良いですよ」
チヨ「子供たちの前では、カヨ先生と呼んでますっ!」
ツネタロウ「それは当然ですが、普段からもカヨさんと呼ぶと大人の女性に見えますよ」
チヨ「ツネタロウ様はどうでしたか?」
ツネタロウ《慣れない。様は慣れない》
ツネタロウ「イチから育てるのは初めてでしたので、ひっちゃかめっちゃかでしたよ。なかなか上手く行きませんね」
チヨは袖で顔を隠しながら笑う。
チヨ「ツネタロウ様でもそういうものなんですね」
ツネタロウ「やってみて驚きましたよ。明日からこの反省点を生かさねば」
クニアキ「私も居ますからね」
チヨ《あーいたんだっけ》
クニアキ「なんですか?その顔は」
チヨ「いえなにも。明日からもみんなで乗り切りましょう!!」
全員「おー」
カヨを用心棒のコレヒデが送り、いつもの4人で戻る。この日、シマはお休み。
【あとがき】
後編の方です。
チヨ同様てんてこまいなツネタロウとクニアキ。これまでどれほど恵まれていたかわかる3人。イチから育てるというのと勘違いしてる親への対応。まぁ、募集の内容からして勘違いする親が居てもおかしくない。ツネタロウたちの目標は下方修正に追い込まれましたが、多くを望んではいけませんね。
次回は、土曜の予定です。
無敵な主人公じゃないんだってことですよ。
そろそろ、新章に移さないと。
また見てね




