少年 ツネタロウ 丁稚生活
短編小説を再編させました。若干呼び名や話を加筆してます。話の流れは変わっていないので、あまり気づかない程度にしています。
短編小説は既に発表してあるので、訂正などはせずそのままにしてありますので、興味のある方は一度ご覧になっていただけると嬉しく思います。
「父上。もう少し畑を広くしてトウモロコシを植えたく思います」
ツネタロウ8歳。農家の長男として生まれるも両親はただの農民。しかも、自分の土地ではないため食うことに困る貧乏農家。そこから誰に似たのか賢い長男が頭角を現した。しかし、農民にその賢さは使い物にならず、育ててやりたいが明日の食い扶持も怪しい始末。
ツネタロウは、どうすれば今ある畑から別品目のトウモロコシを栽培できるか考えた。トウモロコシ栽培が成功すれば、上納する必要もなく家族を養うことが出来ると考えた。痩せた土地でも栽培できると聞いている。秋に収穫した後にトウモロコシの種を植える。それにより、二期で収穫できる。また、家の周りにも植え、少しでも収穫を増やすことに成功させた。
それを目に付けた、地主がこの才能で勝手に広げられても困ると材木商の丁稚に入れることを両親に提案。というよりもほぼ強制。食い扶持を減らすこともできるとして丁稚に出された。
ツネタロウ「父上。母上。行ってまいります。かならず稼いで帰ってまいります」
ツネタロウは、両親の手を振り見送る姿を見るのがツラくまっすぐ前を見て進む。
―オーサカ―
ツネタロウが働くのは、大都会オーサカの材木商。同じくらいの子供に偉そうに指示されることもあったが、持ち前の明るさと賢さで次第に、他の丁稚と仲良くなる。
旦那「ツネ吉や。お前はんはよう働くな。偉いわ。せっかくやし、読み書きや簡単な計算覚える気はあるか?」
丁稚に入った男児は、名前の後ろに吉や松が付く。恐らく、名前に縁起の良い吉や松を入れたのだと思われる。松は、松竹梅の段階で一番上にあることから縁起の良い名前とされている。縁起を担ぐのは商家ではよくあることだ。
そのことから、ツネタロウはツネ吉と呼ばれている。
ツネ吉「旦さん。おおきに。うれしごあす。色々学びたくおます」
旦那「ほうか。せやったら明日からでもウチの手代から教わり」
ツネタロウは早々に、店の旦那に気に入られ勉強することが出来た。
手代「旦さん。偉いこっちゃ。ツネ吉飲み込みはやぁて私では手に負えませんわ」
旦那「ほうか。そんなにか。これは偉い拾いモンやで。せや。ツネ吉にもっと勉強させたろ。学校に通わせたるわ」
―学校―
ツネタロウは晴れて、学校に通うことを許可された。丁稚の分際ではかなり珍しい。
ツネタロウはジンジョー小学校へ入学。とはいえ、毎日だと他の丁稚との軋轢を生むことから週に3日の午前だけ通うことになった。短い時間だったが、たくさんの知識を得ることが出来た。また、級友も出来た。友と呼べる者も出来た。青春を謳歌しているようだ。
手代「ツネ吉。台帳見てわかるんか?」
ツネ吉「はい。このお客はんいつも来てはりますな。恰幅ええお人ですなぁ」
手代「ほー。すごいな。名前だけでわかるんか。よう覚えてるな。偉いわ」
ツネ吉「おおきに」
ツネ吉の奥の深さに逸材と思った手代は旦那さまに進言する。
手代「旦さん。ツネ吉また成長してはりますわ!今度、買い付けにツネ吉を連れてもよろしおますか?」
旦那「ほうか。そんなにか。手代さんが言うなら間違いおまへん。面白い。次一度ツネ吉を連れて行ってきなはれ」
―ツネ吉買い付けに同行する―
ツネタロウは、現在の和歌山まで手代と買い付けに同行させてもらう。初めての汽車だが、満席で座ることが出来ない。
手代「ツネ吉は足腰強おますな。若いだけやないで。こりゃ頼もしい」
ツネ吉「初めての買い付けで緊張してます。勉強できるのがうれしゅうて」
テンノウジからナラまで出ている汽車に揺られてようやく到着した。
手代「さて、終点ナラに着いたわ。お疲れさん」
材木商は安定の商家。よほどのことが無い限り取りつぶしになることはない。そのため、汽車を利用して一気にナラまで向かうことが出来た。まだまだ庶民には手の届かない乗り物。ツネ吉の経験にもなるだろうと汽車に乗ることになった。
手代「ほなワカヤマまであと少しや。もうひと踏ん張りやで」
ナラからワカヤマまで山間を抜けた峠の先に到着。
手代「今日はもう遅いし宿に泊まるで。言うてもザコ寝やから狭いけどな」
ツネ吉「野宿かと思いましたわ。さすが手代はんや」
手代「さすがに、野宿は出来んわ。野犬もおるしな。明日も早いしもう寝」
簡単に食事を済ませ、宿で一泊。
朝早くから出発。
お客さんに会う前に、山を直に見て回る。どれほど木材が採れるか。他に採れるものは無いか。調べて回る。
手代「ツネ吉。こうして計算するんや。そこからそこまで木材何本取れるか考えるんや。そこから全体で考えるとどれくらい採れるかおおよそでわかるやろ?それからな。木材だけやなくて、キノコなども金になるからな。そこらも調べたうえで買い取るんや。色付けたると喜ぶさかいにな」
ツネ吉は普段から書いて覚える癖をつけていた。この日も収穫がようけあり楽しくて疲れも吹っ飛ぶほど。
おおよその産出量を見たうえで、山の所有者と交渉する。
手代「まいどおおきに。この山はなかなかのものですな」
主人「よーきたな。待っとったわ。いつ来たん?ほう汽車とな。儲けてはりますな」
笑顔でやり取りしながら商談をすすめる。
手代「すんまへん。今日は、勉強に丁稚を連れて来てます。なかなかオモロイ子なんで」
主人「さっきから、なにか書いてるけどなに書いてるん?ちょっと見せて貰えるか?」
ツネタロウは書いてた紙を見せる。手代さんのやり取りの流れを書いている。それを見た主人は。
主人「会話のやりとりを記録するのはオモロイな。ははは。この子はオモロイ」
手代「そうなんですわ。教えたことはどんどん吸収するさかいに。すぐに抜かれますわ」
手代と主人は、すぐに合意した。主人は思った以上の価値に顔が紅潮しほころんでいる。
手代「ツネ吉。なにか気になったことでもあったら今の内に良いなはれ」
ツネタロウに好機。
ツネ吉「少し気になったのですが、この山間では農業が難しいと思います。ワカヤマといえば蜜柑です。みかん栽培をすることで、さらに山の価値が上がるように思うんですがどうですか?日当たりはあちらの部分を使うことで得られます」
手代「わーツネさんもう少し早よ言うてや。すんまへん旦さん」
主人「オモロイこと言うなー。ほうか。この山でもみかんできるんか。これまで何回か聞いて見たがこのままでは出来んと言われたが?」
ツネ吉「そうですね。このままでは陽が当たらず出来が悪いでしょう。木を切り倒した後にミカン畑にすると充分可能です。土壌から見ても充分できますわ。手代はん。きぃつけます」
主人「丁稚さん元は何してはったん?」
ツネ「家は預かり地で農家をしてまして」
主人「なるほどな。それなら合点いくわ。儂ら素人にええこと教えてくれはったわ!」
手代「(ツネ吉の視点は変わったとこ見てるな。旦さんに教えな)」
ふたりはその日の内にオーサカに戻った。
丁稚「だんさーん。おかえりになられましたー」
奥から旦那が小走りにやってくる。
旦那「どやった?うまく行ったか?」
手代「ええ。えらい喜んでくれはりましたわ」
旦那「ほうかほうか。で、ツネ吉はどないやった?」
手代「飲み込みが良くて、後何度か行けば独りで行けますわ」
旦那「そんなにか!ええ子が来てくれたわぁ。あんさんが独り立ちしたらツネさん手代にしたらないとな。その前に養子か?」
手代「最後にツネに言わせたらオモロイこと言うんですわ!みかんの栽培を勧めたんです。自分にはよう言えませんわ。ツネ吉は土壌を見てできると思ったようですわ」
旦那「ほうか。せやったな。ツネは農家の子やったな。夏に刈り取った後にトウモロコシを植えて秋に収穫したと聴いてるわ。そのおかげで、両親は食い扶持に困らなくなったそうだ。村のちょっとした特産品になったとか聴いてるわ」
それから何度か買い付けに同行させてもらい、ツネタロウは独りでも買い付けに行けると旦那からもお墨付きをいただき、ひとり向かった。
買い付けは、店の看板を持ち歩くようなもの。低く見積もり店の利益を追求することもできるが、安く買い叩かれた所有者は、良い思いをしない。相場から色を付けて買い付けをすることで、長い付き合いができる。ただし、既に将来が見込めない山は素直に断るのも買い付けで大事な点。所有者のことを考えた買い付けが大事だということ。
もし、改良点でもあれば素直に伝えることで、店の信用も山の所有者の信用も落とさずに済む。理解できるまでしっかりと伝えることで、店の信用を得ることが出来、他の山の所有者とのつながりを得ることが出来る。素直に立ち回ることで、得られることが大きい。
―買い付けひとり旅―
ツネタロウは、緊張しつつも独りで買い付けに行ける喜びが上回りスキップしてるのが傍から見たら誰でもわかるほど。
ツネタロウ14歳。独り買い付けにシコクへ渡る。
ツネタロウひとりでシコクへ渡り6日が過ぎようという頃
旦那「遅いな。ツネ吉どうしたんかな。なにかあったんやろか」
材木商の旦那ともあろう者が戻らないツネタロウにイライラしつつも心配で店前でウロウロとしている。
ツネタロウ14歳。イヨ地震に遭遇。大きな災害は無かったが、ツネタロウは運悪く山間を進んだことで、土砂崩れに巻き込まれ意識を失う。
情報筋から聞いた手代が飛んで帰って来た。
手代「旦さん!イヨで大きな揺れがあったようです!もしかしたらツネ吉は地震のなにかに巻き込まれたかもしれまへん!!」
旦那「手代はん!儂の代わりに見て来てくれんか!?」
手代「準備出来てます。いますぐ見てきます!」
ツネタロウの意識は。ツネタロウは。
次話からが本編です。
また見てね。