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ザーガルの言い分

 私の護衛として使用人とお父様、更に義兄様がそばにいる。

 そこまでしなくても良いと思うのだが、特に義兄様が心配してくれて虫一匹すら寄せ付けないほど、完璧に守られている。


 目の前にはザーガル、ベルベットさん、そして王宮直属の人間も同行していた。


 王宮直属の人間は、お父様が依頼した方達。本来は国王陛下や王族の護衛部隊をしているのだが、今回は私の護衛役なのだ。

 ザーガル達が私に対して、何か良からぬ行動を起こすのではないかと心配してくれている。


「ジュリア、二人で話をしたいのだが」

「それはできません。我々は立会人でもありますので、この場でお願い致します」


 使用人の言葉を聞いて一瞬顔を曇らせたザーガルは、よくわからないことを喋り始めた。


「君は勘違いをしている。俺はジュリアを心から愛しているのだから」


 横に愛人がいながらよくもまぁ堂々とそんなことを平然とした態度で言えるもんだ。

 顔には出さないように必死だが、聞いているみんな呆れてしまっているように見えるんだけど。

 ベルベットさんは納得のいかないような雰囲気を出している。


「私がこちらに帰っている間、横にいる使用人のベルベットさんと身体の関係を毎日築いていたと聞いていますが」

「あぁ、間違いはない!」


 ザーガルは即答で白状した。もう少し誤魔化すかと思っていたが、あまりにも潔くて、私の方が驚いてしまった。


「だがこれはジュリアと関係をよくするための練習だったのだ」

「は!?」


 私は更に驚いてしまい、咄嗟に本音で一言出てしまった。

 空耳であって欲しいと願いながら。


 本当だとしたら、こんな思考能力しかなかった人が旦那だと思うと、失礼ながら生涯の恥になってしまいそうだ。


「だってそうだろう? 行為を行ったら俺が病気になってしまうかもしれない、心臓の鼓動がオーバーヒートして死んでしまうかもしれないと思っていたばかりにジュリアと関係を築けなかった。だが、ここにいるベルベットが教えてくれたのだ。俺の考えを正しい道へ導いてくれたベルベットに感謝しなければ」


 私は恥ずかしくなる……全員この場での発言を聞かなかったことにして欲しい。


「本気で言ってますか?」

「当然だろう、ジュリアのことを愛しているから。嘘などついてどうする?」


 何を自信満々にそんなことが言えるのだろう。

 私の今までの生きてきた感覚では理解できない。

 もう、酌量の余地もなさそうだと思った。


「もう良いです。宣言します。ザーガル=ポルカさんとの離婚を正式に申し立てます」

「なんでだよーーー!?」

「同時にこの度の慰謝料の請求も免除なしで話を進めようと思いますが……」


「ちょっと待ってよジュリア! なんで私まで慰謝料が……」


 いつの間に使用人から呼び捨てされるようになったのだろう。

 主従関係もまともにできなかった……とは思っても、すでに解雇のようなものだし薄情かもしれないけれど、私には関係ないか。


「不貞行為、窃盗、違法行為を行ったからです。ベルベットさんは私からだけでなく、国からも罰則が適用されるかと思います」

「ちょっと待ってよ! 私がいつ窃盗を!? 何も悪いことなんて──」

「私の部屋に置いてあった一萬紙幣五十枚を許可なく持ち出し、それを賭博に使ったことは明白ですが」

「──!?」


 私はベルベットさんがどうしようもない使用人だとしても、成長していければそれでも良いと思っていた。

 だが、さすがに仕掛けていたお金も堂々と盗んでしまうような相手では無理だ。


 番号を記録した新品未使用の新紙幣を部屋に残すようにと、義兄様が提案したことだが、まさか本当に盗むとは。


 しかも使い道が賭博場。

 盗んだ紙幣、しかも新品の紙幣なのに、こんな使い方したら、調べればすぐにバレてしまうこともわからなかったのか。


「賭博場での紙幣の確認も取れています。番号も完全一致しますし、これを魔導鑑識にかけてもらった結果、私の指紋も検出されていますが」

「違うわよ! それはザーガルが私にくれたお金で……」

「おいベルベット。俺はお前に一度もお金を与えたことなどないぞ……」

「ちょっとザーガル! あなた私がどうなっても!?」

「大事な幼馴染だと思っている」

「だったら私をフォローしなさいよ! 私とジュリアどっちが大事なのよ!」

「当然ジュリアだ。俺はジュリアを愛している」

「そ……そんなことって……だって私のことあんなに抱きしめて……あ!!」


 もはや混乱状態のベルベットには自分自身で何を言っているかすらも自覚がなかったようだ。


「待てジュリアよ誤解だ! 俺はジュリアのことを……」


 もうその言葉も私の耳に入ってきてもすぐに反対側から抜けていくようだ。

 私は完全に呆れてしまい、ため息しか出なかった。


 今まで黙っていた義兄様が、見たこともないような表情でザーガルの胸ぐらを掴んだのだ。


「勝手なことを抜かすな!」

「お……義兄様!?」


 私の声にも耳を傾けようとせず怒声が部屋に響く。


「俺の大事なジュリをここまで傷つけて、愛するはずの相手以外と堂々と行為に及んだ上、自分は悪くないですーなどとよく言えたものだ!」

「だ……だって本当にジュリアのことを思って──」

「じゃあジュリが他の男と関係を築いても、お前は黙って納得できるってことなのか!?」

「それは話が違います。俺は行為を学習しただけですから、ベルベットとの行為に愛はありませんでしたし」

「お前はなぁ……!!」


 義兄様はそのままザーガルを放って床に投げ捨てた。

 だが、誰も止めようとはしなかった。


 ベルベットもザーガルの本音を聞いて肩を落として愕然としていた。


 追い討ちをかけるように今度はお父様が静かに冷静にゆっくりと口を開く。


「ザーガル君、この件は当然君の両親にも話す必要があったからな、隣の部屋で君のご両親とその使用人と護衛も聞いているのだよ」

「な!?」

「当然離婚の件もそうだが、ジュリアから借りたという件も話をしなければならないだろうな」

「そ……それだけは勘弁を……」


 ザーガルが私の資産運用から貸した一萬紙幣五千枚。

 これもザーガルの両親は知らなかったらしい。

 また、この紙幣もすでに賭博で無くなっていることも全員の前でザーガルは白状した。


 ザーガルの両親はただただひたすらに頭を下げて私たちに謝ることしかできず、ザーガルはようやくことの重大さを理解し始めたようだった。

 ベルベットさんはザーガルに振られたことだけを考えているようにしか見えなかった。

 ただ呆然と床に蹲み込んでいるので、流石の護衛も、ザーガルと両親の方に視線が向き油断していたのだ。


「せめて……ジュリア、あなただけでも……!!」


 隠し持っていた刃物を、私に向け飛びかかってきたことに気がつくのは事件が起こってからだった。




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