胃が痛くなってきた
使用人を雇うための書類を書き終え、王都へ提出した後、ザーガルがとんでもないことを言い始めた。
「そういえば年俸のことなのだが、ジュリアが払ってもらえないだろうか?」
「え!?」
「だってジュリアの手助けになるのだから、ジュリアが報酬を払うべきだと思うのだが」
ちょっと待った!
さっき見せていた一萬貨幣の束はなんだったんだ。
「ザーガルが稼いだお金で雇うと思っていたのですが……」
「俺はただ、稼ぐようになったと伝えただけなんだが……。どちらにしてもジュリアは頑張りすぎだから使用人は必要だろ?」
どこまで勝手なことを……。私への気遣いと幼馴染に対しての優しさから提案したのかと思ったらこの発言だ。
もう書類は提出してしまったし、逃げ道はない。
ついさっきまで、ザーガルともっと親密にと思っていた自分に対して反吐が出そうになった。
「私、先に帰りますね!」
「そうか、俺も仕事があるからここから別行動か」
胃が痛くなってきたので、さっさとザーガルから離れて家の自室へ戻った。
仕事をするようになっただけでもマシと思うべきなのか。それとも違約金を払ってでも使用人を雇うことを取り消すべきか悩む。
ただ、ここでベルベットさんを雇わなかった場合、彼女が路頭に迷うかもしれないと思うと胸が痛くなる。
かと言って一緒に暮らすような状況を考えるとまた胸が痛くなるのだ。
結局私には、自腹で使用人を迎え、好きだった家事は放棄して仕事に集中するという選択肢しか思い浮かばなかった。
ため息が止まらない。
♢
「これからお世話になりますわー」
翌日、早速ベルベットさんが大きなバッグを背負ってやってきた。
着ている服はボロボロ。破れているスカートの隙間から下着まで見えてしまっている。
髪も見ただけで相当痛んでいるように見えるし、失礼ながら少々臭う。
ザーガルが心配する気持ちもよく理解できた。
これから長い付き合いになるかもしれない。私はにこやかな顔をしてお辞儀をした。
しかし、ベルベットさんは私に軽く首を傾けるだけで、すぐにザーガルの至近距離まで迫った。
「ザーガルー、私の部屋はー?」
「そうだな、ベルベット。早速専用の部屋を与えようか」
なんなのだ、この人は。
私の本家で同じような行動と発言をしたら一発退場なんですけど。
「ジュリア、この部屋は貰えないだろうか?」
「ここは仕事をするための部屋ですが……」
「とは言っても我が家には個室が三つしかないだろ? 俺の部屋、ジュリアの部屋、そしてジュリアの仕事部屋。ならばジュリアの部屋で仕事をしてもらうしか……」
悪夢だ。
仕事の書類や道具だけでいっぱいいっぱいで、これを私の個人の部屋に詰め込んだら足場すらなくなる。
「ジュリアさんー、私のプライベート部屋がないならザーガルの部屋でも良いんですけどー」
使用人としての発言とは到底思えない。
いきなり不満に思ったが、大変な思いをしてここへ来たと思えば、多少のことは気にしないでおくべきか。ザーガルの立場も考えてぐっと堪えた。
既に胃が痛み始める。
♢
さっさと仕事部屋の荷物を私の部屋に運び込むのだが、ザーガルとベルベットさんの運び方がまるでゴミを捨てるような乱雑な扱いで苛立ってしまう。
とはいえ、三人で一気に片したので元仕事部屋は広くなった。
私の部屋はもはやゴミ屋敷のように変貌したが。
荷物を置いて準備をしてもらい、早速家事の手伝いをしてもらおうと思っていたが、ベルベットさんは一向に部屋から出てこない。
「ベルベットは疲れているのだ。だから今日はひとまず風呂にでも入ってもらい、疲れをとって明日から頼むと俺は言ったのだが」
「は、はぁ……」
「だからジュリア、ベルベットの分も食事の支度をしてほしいのだが。あと大至急風呂の準備も!」
使用人として今日からの契約で雇ったんですよね……。これでは私がベルベットさんのおもてなしをしているとしか思えないんですが。
彼女の状況も考えて、今日は元々歓迎会をしようと思っていた。
しかし、挨拶もできない態度と身勝手さを見ていたせいで、歓迎会をする気持ちも無くなってしまった。
ベルベットさんの事情は私はよく知らないし、明日からに期待しよう。
私はベルベットさんのために予定通り風呂の準備やご飯の支度をした。
なんだか普段の家事よりも大変だった気がするのは気のせいだろうか……。




