幼馴染を雇うことになった
「ところで誰を雇うのですか? 私の本家に有能な使用人がいましたが、こちらに来るようお願いしますか?」
ザーガルはすぐに高速で首を横に振った。
「その必要はないんだ。実はすでに決まっている」
決まっているとはどういうことだ。だったら相談するのではなく、堂々と『使用人を雇うことにした』と言ってくれれば良いのに。
こういう発言も日常茶飯事なのだ。でも、折角の優しさを感じたのだし、些細なことは我慢することにした。
「そうですか……誰を雇うのでしょうか?」
「ベルベットを雇う」
「確か、ザーガルの幼馴染ですよね? 使用人としてですか?」
「あぁ」
ベルベットさんとはザーガルが幼い頃から仲が良かったらしく、結婚した今でも頻繁に会ったりしている。
この人も私が疲れる原因だから、すんなりと、はいそうですかとは流石に言えない。
「ベルベットさんは何度かお会いしたこともあります。正直に言いますが、私はあの人を好めません」
「なんでそういうことを言うのだ? あんな素晴らしい人間、世界中探してもいないと思うのだが」
またまた失礼なことを思ってしまうが、どうやったらあの人が素晴らしいのか私の脳では理解ができない。
ベルベットさんは配慮とモラルがない人だと認識している。
ザーガルがベルベットさんを家に連れてきたとき、妻の私がいるにもかかわらず、スキンシップが激しかったのだ。
更に、挨拶がわりにベルベットさんがザーガルの頬にキスをしたりもしていた。
「失礼ですが、お二人は必要以上にくっついていますよね?」
「あぁ、昔から当たり前だったし。でも俺は慣れているから問題はないよ」
あなたに問題がなくても妻である私にはあるでしょ! とは言えなかった。
もちろん、幼馴染だからこそ幼少期からの馴れ合いなのかもしれないし、お互いに下心が全くないのなら仕方がないことなのかもしれない。
私にも義理の兄がいて仲は良い。この二人のようにスキンシップなどはないが。
もしかしたら私の気にしすぎなのかもしれないと思ってしまう。
「どうしてベルベットさんを雇うと決めたのですか?」
「あぁ、ベルベットは幼い頃に家族を失い独り身だ。おまけに最近仕事を理不尽に解雇させられたらしい。ブラックな仕事だったようだ。とにかくこのままでは路頭に迷うことになる。俺は彼女の力になりたいんだ」
真剣な顔でそう言われてしまっては断るに断れない。
まぁ……所詮雇っても雇わなくてもザーガルは最優先でベルベットさんを助けようとするだろう。
だったら……。
「わかりました。ですが、雇うならしっかりと『使用人』として扱い、しっかりと働いていただきますが、よろしいんですね?」
「もちろんだ。だが、あまり厳しくはしないでほしい。ベルベットは打たれ弱いのだ」
「使用人として最低限やっていただければ文句はありませんよ」
「ありがとうジュリア」
幼馴染の人生までも考えているザーガルを見ていたら、些細なことを気にしていた私が情けない。
これからはザーガルのことを良く見て考えようと心に誓った。