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Black File  作者: 葱鮪命
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File001 〜不変なる愛〜

「人喰いノートですか」


 朝食を食堂で食べ終えてオフィスに戻ってきたノールズとラシュレイは、今日の朝十時から始まる、とある超常現象の実験について確認していた。


「そ、人喰いノート。老若男女問わずそのノートに触れた者は、たちまち吸い込まれちゃうんだってさ」


 ノールズはそう言って手元の資料へと目を落とす。


 今回の実験対象は、一昨日この施設に持ってこられたノート型の超常現象である。奇妙なその能力というのは、触れた人間を吸い込む、というものであった。


 既に五人の人間が飲み込まれており、戻ってきた者は一人も居ない。


 これは早く調べなければ、被害が拡大することになるだろう。


「移動しますか」


 腕時計をチラリと見たラシュレイが言った。見ると実験開始予定時間15分前である。


 実験室は常に誰かが使っている。調査しなければならない超常現象は、待ってはくれないのだ。時間をきちんと守る必要がある。


「そうだね、行こっか」


 ノールズは頷いて、椅子から立ち上がった。


 *****


「ゴーグルとカードキーを忘れる人が何処にいるんですか?」


 ラシュレイの怒りを含んだ声が隣から聞こえてくるので、ノールズはごめんごめん、と走りながら返す。


 一度実験室に着いたが、実験室の扉が開かない。というのも、扉を開けるには星4と星5にしか配られない特別な研究員カードキーが必要で、ノールズはそれをオフィスに忘れてきたのだ。


 実験に必要なものは主に三つ。カードキー、手袋、ゴーグルである。


 カードキー以外は研究員の誰もが持っており、それで危険から身を守る。勿論、守りきれないことなど普通にあるのだが。


 ノールズは、かなりの頻度でそれらをオフィスに忘れてくる。

 そして、それに気づくのはいつだって実験室に着いてからなのだ。


「ただでさえ時間がないって言うのに。自分を追い込むのがそんなに好きなんですか、ノールズさん」


「だーっ、もう、ごめんってば! これでも気をつけてるんだよ!? 忙しさで忘れちゃうの! 分かって、先輩の辛さ!!」


「言い訳はいいのでさっさと扉開けてください」


「はいはい......」


 確かに自分でも忘れすぎだ、と思うことはあるが、こうもバシバシ言われると心に来るものがある。


 今度はオフィスの扉の内側にでも、忘れ物予防リストを貼っておこう、とノールズはそんなことを思った。


 *****


 実験室の前に、壁が一面だけガラス張りの部屋がある。

 実験準備室だ。パイプ椅子がひとつ置いてあり、壁に沿うように放送器具が取り付けてある。ガラスはもちろん防弾ガラス。


 そしてその向こう側には、壁から床まで真っ白な部屋があった。彼処が実験室だ。研究員達は基本的に彼処で、超常現象についての観察、実験を行う。


 放送器具は、中にいる研究員と準備室にいる研究員が連絡を取り合うものだ。使わないこともあるが今回は人喰いノートという点から、


「ラシュレイは此処に居てね。俺、行ってくるよ」


 ノールズのみが実験室に入ることとなった。


 彼はゴーグルを首にかけて手袋をはめる。


 ラシュレイを準備室に置いていくことで、あの超常現象に吸い込まれず、安全に実験の結果を取れることができる。また、ノールズが飲み込まれたとしても、壁にかかっている内線で誰かに助けを呼ぶことができるのだ。


「気をつけてください」

「はーい」


 あまり緊張感のない声が返ってくる。いつものことなので、ラシュレイは特に何も言わない。


 ノールズは扉を開き、実験室の中へと一歩踏み出した。


 実験室の中は、天井の照明から降りてくる光が、真っ白の床と壁に反射しているのでかなり眩しい。

 ノールズはゴーグルをいつでもかけられるように額にセットし、実験室の真ん中へと歩いていった。


 そこには、白い台がある。高さは大人の男性の腰程で、上にはノートが見開きで置いてあった。あれが今回の実験対象だろう。


 一見、ただの大学ノートだ。


 ふと、ノールズはそのノートにびっしりと細かな文字が並んでいることに気づいた。


 ノールズとノートの距離はおよそ2m程。もう少し近づかなければ読むことは出来ないが、近づきすぎて喰われることはノールズに安易に想像できたため、進めていた足を止めてそこからノートに話しかけることにしたのだ。


「こんにちは」


 ノールズは優しく、まるで人間に話しかけているかのように挨拶をした。


 ノートは反応しない。


 ノールズは表情を変えずに続けた。


「俺はノールズって言うんだけど......俺の顔、見える?」


 その時だった。ノートが自我を持ったかのようにページが捲り上がり、新しいページになった。勿論、風は吹いていない。


 そして、ノートの新しいページには少しずつ文字が浮かび上がってきた。


 その文字は大きく、この距離でもはっきりとノールズの目には見えた。


 文字はとても拙く思えた。まるで幼い子供が覚えたての文字を一生懸命に書いたかのような、潰れたものであった。


『ママはどこ?』


 文字は、そう記していた。


「ママ?」


 ノールズは眉を顰めて聞き返す。


『ここはびょういん?』


 ノートに浮き上がっていく文字は震えていて、ノールズには怖がっているように思えた。


 どうやら、中身は幼い子供のようだ。


 ノールズはノートを落ち着かせるために、優しい声で、


「此処は病院じゃないよ。えっと......君のママはどんな顔かな」


 と話しかける。警戒させないために、そっと体を前に倒して前のめりにした。まるで、子供と身長を合わすかのようだ。


 すると、予想もしていなかった答えが返ってきた。


『わからない......かおをみたことがない』


 ノールズは片眉を少しだけ上げた。だが、次の質問に入る。


「ママは優しい?」

『......わからない』


 ノートは少しだけ間を空けて、でも、と紡ぐ。


『おまえなんかいらないって、いわれたの。じゃまだ、しんじゃえ、って』


 ノートのページはくしゃっと、歪んだ。


『だから、きっとやさしくないよ』


 ノートから漂う悲しみの気配にノールズはそっか、と小さく返した。


 ノートが言った言葉を頭に並べてみる。


 ママ、病院、優しくない_____。


 ノールズは手元のバインダーにそれらを書き留めていきながら、更に質問を続けた。


「君のお名前は、なんだろう。教えてくれる?」


 ノートは答えるまでに少しだけ時間を空けた。考えているようだ。数十秒ほどすると、文字が浮かび上がってきた。


『メアリー......だったきがする』


 あまり自信は無いらしい。

 恐らく女性であることが分かった。


「ありがとう、素敵な名前だね」


 ノールズはノートに微笑み、手元のバインダーに目を落とした。

 彼の頭の中に、次の考えが浮かび上がってきていた。


 ノートの中身、つまり今ノールズと会話をしていた彼女_____メアリーは、生まれるか生まれないかくらいの赤ん坊。名前も曖昧で、母親の顔すら知らないのだ。


 何故、言葉を理解して話せるのかはわからないが、恐らく死んだ子供の霊魂、もしくは生霊が、ノートに何らかの理由で取り憑いたものである、とノールズはそんな仮説を立てた。


 突飛な仮説だと思うだろうが、此処B.F.では特別珍しいことでもない。相手は科学で証明がつかない超常現象なのだ。科学に縛られた仮説を出したところで当てはまらないことの方が多い。


 ノールズはバインダーから顔を上げた。必要な情報はまだまだある。


「君の中に書いてあることは、読んでもいいのかな」


 ノートが今のページに捲られる前、そのページに細かい文字がずらりと並んでいた。メアリーのものとは全く違う。大人が書いたような綺麗な字であった。


 メアリーが話す中でページが捲られてしまったので、読むにはページを戻す必要がある。


『いいよ』


 メアリーが答えた。


 ノールズはそこで初めてノートに触れた。手に取ってみても、何ら普通のノートと変わりは無い。何処ででも手に入るような大学ノートである。表紙の色はピンクで、特に何かが表記されているわけではなかった。


 中に入った人がどんな理由で吸い込まれたのかは分からないが、恐らくメアリーが敵意を持って入れたのではないだろう、とノールズは推測した。


 何故なら彼女は話してみて分かった通り、ただの女の子に変わりないのだから。


 家庭の事情が複雑だとしても、基本的には落ち着いている。


 吸い込まれた人間はきっと、ノールズが今踏んだ段階を踏まずしていきなりノートを掴んだか、彼女の問いを無視した、などではないのだろうか。


 中身が赤ん坊だとしたら、彼女はまだ何も知らない無垢な存在なのだ。


 ノールズはさて、と手の中のノートのページを一番初めへと戻す。五ページ程戻ると、一番初めのページとなった。


 そこには、ずらりと文字が並んでいた。だが、等間隔に行が開いていて、日付も振られていることから、三行程の短い日記であることが伺える。日付は飛び飛びであるため、きっと思い立った時に書くようにしていたのだろう。


 ノールズは早速、一番初めの日の三行に目を通した。


『10月2日


 結婚して二年目にして子供を授かった。彼と私だけの大切な、大切な子供。彼が泣きそうな顔をしていたから、私も泣きそうになってしまった。きっと嬉しいんだ。彼の匂いも、笑顔も、全部大好き。いっぱい愛してあげようね。』


『11月7日


 つわりの症状が出てきた。吐き気が止まらなくて、何も口にしたくない。彼が背中を優しく撫でてくれる。黙って、傍に居てくれる。辛いけど、赤ちゃんのためなら、頑張れる。』


『2月19日


 赤ちゃんは女の子だった! 元気に育っているらしい。名前はメアリー。私と彼とで、いっぱい案を出して決めた。彼は赤ちゃんが生まれた時のために沢山お金を稼ごうと、毎日一生懸命働いている。家に帰ってくると、たくさん私の頭を撫でてくれた。私も頑張ろう。』


『2月25日


 彼の帰りが少しだけ遅くなるようだ。会社で後輩が大きなミスをしてしまったんだとか。寂しいけれど、家族のために頑張ってくれているんだ。私が支えてあげないと。』


『3月1日


 今日も遅い。明日も遅くなるんだって。最近、彼が頭を撫でてくれない。背中を摩ってもくれない。かろうじて目を合わせて話してはくれるけれど、声色が冷たい。一体どうしちゃったの?』


『3月5日


 彼が帰ってこない。そう言えば最近、彼の車に知らない香水の臭いが残っていた。嫌な予感がして彼に電話をかけたけれど、繋がらない。繋がらない。』


『3月7日


 どうして、こうなってしまったの。今日、言ってしまった。お腹の子に向かって、「いらない」って「邪魔だから生まれてこないで」って。どうしてあんな人と子供を作ってしまったの? 私はどうしたらいいの? 彼との結晶なんてもう、捨ててしまいたい。大嫌い。』


 日記はそこで途切れていた。


 仲良しの夫婦の間に出来た子供。名前はメアリー。愛されて幸せに産まれてくる予定だったのに父親が蒸発した。恐らく浮気か何かだ。


 母親はお腹の子に向かって言ってしまった。向けてしまった。


 最も言ってはいけない、言葉のナイフを。


 ノールズは、ページをメアリーが話していた場所へと戻した。そこには既に文字が浮かび上がっていた。


『ママなんてきらい』


 短い文面から伝わる悲しみに、ノールズは胸が張り裂けそうになった。


 今まで愛してくれていた人が、突然自分を突き離すようになった。

 無垢な彼女は、その言葉をどんな思いで聞いていたのだろう。


「メアリー_____」


『ママはどうしてわたしをあいしてくれないの?』


 文字が滲み、震えている。


『ママはわたしがきらいなの......?』


 拙い文字は涙に濡れたように滲み、最後はもう、ほとんど読むことが出来なかった。


 母親の言葉が、彼女をどれだけ傷つけたことか。

 子供にとって一番と言って良い程に残酷な、冷酷な言葉。


 ノールズは優しくノートを撫でる。


「泣かないでメアリー。大丈夫、きっと君のお母さんは君のことが大好きだ」


『そんなことない』


「会ったらきっと分かるよ。お母さんが君をどのくらい大切に思っているのか」


 少しの間、沈黙が降りた。


 そして、


『ほんとう......?』


 弱々しく小さな震えた文字が浮かび上がる。ノールズは頷く。


 そして、準備室で待機しているラシュレイを振り返り、電話をかけるよう合図をした。ラシュレイは合図を理解して、すぐに部屋を出ていった。


『ママにあえる?』


「会えるよ。今呼んで来るから、待っている間にお話をしよう。まだまだ訊きたいことはたくさんあるんだ」


『......うん』


 ラシュレイが彼女の母親を呼んできている間、ノールズはまだ足りない情報を集めるために早速質問を始めた。


「えっと......君が飲み込んだ中の人達は今何処に居るか分かる?」


 既に五人が彼女の中に飲み込まれている状態だ。ノートのどのページを見ても、彼らの情報は載っていない。


『ここにいるよ、でも、みんなねちゃってる』

「寝ている?」


 ノールズは眉を顰めて思わず聞き返す。


「その人達、何人いるか分かる?」

『えっと......五人』

「男の人か女の人か、順番に教えて貰ってもいいかな』

『えっと......』


 メアリーは順番に性別を挙げていく。


 結果、男が二人、女は三人。女の一人はまだ幼い子供のようだ。

 ノールズはバインダーに情報を記入していく。行方不明になった五人と情報が一致している。


 飲み込まれた人は、全員が彼女の目に見える範囲に居るようだ。


「床に倒れているの?」

『ううん、ういてる。ひざをおって、てをむねのところにもってきて、まるまってねむってるの』

「君の中に入ってきてからは起きていないの?」

『うん、こえもきいたことがない』


 彼女は続いて、彼女が見えている風景についてノールズに教えてくれた。


 どうやら彼女にはこの実験室もノールズの顔も見えているらしい。

 先程の眠っている中の人達の描写から考えるに、中と外の世界がどちらも見えているということになる。


 ノールズはそれを確かめる為に、彼女に実験室がどのように見えるか、簡単に説明して欲しいと頼んだ。


『しろくて、つめたい......びょういんみたいなおへや』


 浮かび上がる文字はそう語った。


 確かに、この部屋には彼女を置いている台以外に何も無い。壁も天井も白い。唯一眩しい天井から降り注ぐ光は、手術の時に用いられるあの無影灯を思わせる。


 やはり外の世界は彼女には見えているようだ。


「病院は嫌い?」


 彼女は始め、此処は病院か、と聞いて文字を震わせていた。

 彼女にとって病院とはどのような場所なのだろう。


『きらい......。びょういんにいくたびに、ママはこわくなるの。おこるの。まだいきてたって。はやくしんじゃえって』


 ノールズは言葉も出なかった。


 メアリーの母親は、そこまでしてこの子を産みたくなかったのだろうか。あの夫との子供となると確かに辛いこともあるだろう。子供は親を選ぶことが出来ない。


 彼女が負った傷を癒しきることは、ノールズには到底出来なかった。


「ノールズさん」

 突然、声が響いた。


 準備室にラシュレイが戻ってきた。見慣れた彼の表情は、微妙に沈んでいるように見えた。


 ノールズは嫌な予感を覚えて準備室の扉を開く。


「どうだった?」


「それが......母親は、昨日の晩に交通事故にあったようで_____」


「!」


 ノールズは、さっと血の気が引いていくのを感じた。声を絞り出し、


「容態は......?」


 と、問う。


 ラシュレイが目を伏せた。頑張って走り回ったのか額から汗が垂れている。


「それが......頭を打って即死だったみたいです......」


 即死_____。


 ノールズは力なく頭を振る。


「そんな......だって彼女、待ってるんだ.......お母さんのこと.......」


 ラシュレイは、はい、と小さく頷いて顔を上げた。そして、ハッとしたように目を見開いた。唖然として、口を開いている。


「......ラシュレイ?」


 怪訝に思ってノールズが呼ぶと、彼は実験室の中を黙って指さした。ノールズは振り返る。振り返って、言葉を失った。


 ノートが置いてある台の近くに、誰かが立っている。


 それは、ぼんやりとした白いモヤのような人型をしていて、普通の人間ではないことが伺える。身長と体格からして大人の女性に見える。


 モヤはノートに近づいていき、次の瞬間、その中に吸い込まれるようにして消えていった。


「メアリー!」


 ノールズが弾かれたように彼女に駆け寄る。後ろでラシュレイが彼を止めようとしたが、ノールズは構わなかった。


 ノートを掴むと、新たな文字が浮かび上がっていた。


 しかしその文字は、メアリーが書いた拙い文字ではなく、とても綺麗な整ったものだった。そう、あの日記を書いていた母親の字体によく似ていたのだ。


 文字は次のように書かれていた。


『私は彼女を酷く拒絶していました。蒸発した夫との子供なんていらなかったんです。......ああ、申し遅れました、メアリーの母です』


 ノールズはゴクリと唾を飲む。


「メアリーを拒絶したことを、今はどう考えているんですか」


『.......酷く、後悔しています』


 文字は丁寧に綴られていく。


『心から彼女に謝ります。本当は、本当は彼女が大好きです。あんな人との子供だとしても、たった一人の私の娘なんですもの。もう許して貰えないかもしれません。それでも_____』


 ページはそっと捲られた。


『それでも、私は彼女と一緒に居ます。もう離れたりなんかしない。飲み込んだ方々を返して、私達は行くべき場所に行きます。』


 ノートの文字が少しだけ滲んだ。


『ノールズさん、ありがとう。メアリーは、私が責任を持って連れていきます。そして、あっちで沢山愛します。』


 ノールズは微笑んだ。


「はい、是非、そうしてあげてください」


『......ありがとう』


 ノートは最後、パタン、とひとりでに閉じた。


 *****


「なんだか、悲しい話でしたね」


 揺らめく炎の中で、ぱちぱちと灰になっていくノートを見つめながら、ラシュレイが隣のノールズにボソリと言った。


「うん......そうだね」


 ノールズもまた、ラシュレイの隣で炎を見つめている。その顔は優しい微笑を湛えていた。


「メアリーは、母親と幸せに暮らしているんですかね」

「うん、きっと」


 *****


 ノートに飲み込まれた人達はその後、きちんと戻ってきた。


 中にいた時の記憶は無いようだが、皆何故か口を揃えて、


「母親のお腹に居る胎児になったような夢を見ていた気がする」


 と、話している。


 全員一般人であるため、記憶処理をして元の場所に返すことになった。


 また、交通事故で先日亡くなった女性の腹を調べると、胎児が見つかった。きっと、あれがメアリーだろう。


 目撃者の話によると、母親は腹を守るようにして倒れていたという。


 あの母親は、最初から彼女のことが大好きだったのだ。

 子供を守ろうとする立派な役目を最期まで守ったのだ。


 きっと、天国でメアリーとあの母親は幸せに暮らしていることだろう。


 ノールズはそう思って、書き終えた報告書の上に、ペンを置いた。

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― 新着の感想 ―
ノートを通じてコミュニケーションする場面は不思議でもあり怖くもありますね。悲しいお話でした。 優秀なのに自由なところのあるノールズさんはしっかりキャラができていますね。面白かったです。
[良い点] 怪奇現象ファンタジーともホラーとも違う、純然たるファンタジー小説だと感じ入りました。 それでもメアリーがお母さんと一緒になれてよかったです。 犠牲者ももとに戻って何よりでした。
[良い点] 人喰いノート、怖いですね。 でも中の人は女の子だったのか。 母親から毛嫌いされていたが、 理由が分かると母親一人を責められないですね。 そしてこういう落ちになるとは……。 確かに悲しい話で…
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