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Black File  作者: 葱鮪命
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File014 〜まちがいさがし〜

 B.F.星5研究員ノールズ・ミラー(Knolles Miller)は、とてもご機嫌だった。隣にはご機嫌なノールズに対して、機嫌が悪そうな女性、彼の同期であるイザベル・ブランカ(Isabelle Blanca)がいる。


「これだけ見ると恋人のデートじゃない?」


「そうかしら」


「そうだよ! 今回は一般人になりすますわけだし、手でも繋ぐ?」


「調子乗ってるとブライスさんと組ませるわよ」


「ごめんなさい」


 今日は待ちに待った外部調査の記念すべき第一回目だ。ノールズはイザベルと組めるということもあって、この日を待ちわびていたのだ。


 イザベルは美形だからだろうか。街を歩くといろいろな人が彼女を振り返っている。


「うーん、イザベル?」

「何よ」

「イザベルが美人すぎて、めっちゃ目立ってない?」

「他人の目なんか気にしてるほど暇じゃないでしょ。ほら、目的地に着いたわよ」


 普通は喜ぶところなのだろうが、彼女の場合は違うらしい。


 二人がたどり着いたのは、街の中央にある中央公園だ。此処から少し行った近くの病院にカーラとドワイトの班が調査に行っているので、後で合流してもいいかもしれない、とノールズは思いながら公園の中を一通り見回した。


 公園は噴水やベンチがあり、周りは木々に囲まれている。平日の昼間ということもあって人はまばらだが、かなり広い公園であることが伺える。


「此処で例の超常現象が発見されたんだね?」

「ええ、そうよ」


 今回の超常現象は街中で目撃情報が多発している「まちがいさがし」と呼ばれるものだ。


 昨日あったものが翌日には消えていたり、昨日なかったものが翌日には増えていたり。極端な例をこの公園で示すとなれば噴水が一夜にして急に二つに増える、いった感じである。


 他にもベンチの数や、木の本数など、一日では絶対に移動できないものが増殖をしていることからこの現象の発見に至った。


「うーん、俺この辺り詳しくないからよく分かんないや。それよりドーナツ食べに行かない? 俺ちゃんと近くの専門店調べてきたんだよね」


「あなた少しは仕事する気起きないの? 今は仕事優先でしょう」


「むう、イザベルとの二人きりの時間なのになあ」


 ノールズが頬を膨らまして言うが、イザベルは彼の発言を無視してカバンから研究員ファイルを取り出した。ファイルを開き、この公園を様々な位置から撮った写真と目の前に広がる公園の様子を見比べ始める。


「今のところ、現象はまだ起こっていなそうね」


「一日経たないとダメなんじゃない?」


「目撃情報によれば、誰も見ていなければ、その日のうちに何度も現れることもあるみたいよ。時間はランダムだし、現象の気分次第らしいから今日現れるかは分からないわね」


「じゃあ、時間を潰すためにもドーナツショップ行こうよ!! ねっ!! ねっ!!?」


「......」


 イザベルはため息をついた。


「......まあ、滅多に外に出られないんだものね」


 イザベルはファイルをパタン、と閉じた。


「分かったわ、食べたらすぐ戻ってくるわよ」

「わーいっ、やったあ!!」

「子供みたいね......」


 はしゃいで公園を出ていくノールズを追いかける前にイザベルは振り返った。腰のポーチからデジタルカメラを取り出して、公園の写真を一枚だけ撮り、彼を追いかけて公園から出た。


 *****


 公園から五分ほど歩いたところにドーナツショップはあった。ショーケースに並ぶ色とりどりのドーナツを見てノールズは、今まで見たこともないくらいに顔を輝かせている。


「すっげええ!!! イザベル!! こんなにあるよ!!」

「恥ずかしいからあんまり騒がないでくれる?」


 店員が少年のように顔を輝かせてショーケースを見つめるノールズを微笑ましげに見てイザベルに「どれに致しますか?」と聞いてくる。


「ほら、選んで」

「ええー、迷うよー......」


 *****


 結局、二人合わせて10個も買ってしまった。大半はノールズの腹に消える予定だろうが、研究員の土産としてイザベルも数個買った。キエラもお土産を待っているだろう。


「んむっ!! うっまああ!!!」


 店内の椅子に二人で向かい合いながら座る。ノールズは早速二つ取り出して頬張っていた。その顔はとても幸せそうだ。


「あなた本当に好きよね、ドーナツ」

「だって美味しいじゃん!!」

「そうだけれど......」


 本当に大人とは思えないほど子供じみた好物だな、とイザベルはアイスコーヒーを飲みながら思っていた。


「さっきの公園を出てくる時に写真を撮ったから、何か変わっているか確かめるときの材料になると思うわ」

「んー! ありがとうー!」


 人前でファイルは出せないのでイザベルは手持ち無沙汰になり、外を眺めた。秋の空が高く、通りの並木も冬の準備を始めている。


「はあ〜、地上最高!」

 ドーナツをひとつ食べ終えたノールズがジュースを飲んでそう言った。


「ずっと続けばいいのになあ、外部調査」

「私はオフィスが恋しくなってきたわ」


 イザベルは外を眺めながら言った。


「うわ、流石は仕事人。熱量が違うねえ」

「いいから早く食べ終わって」

「はーい」


 やがて、二人は土産のドーナツを抱えて店を出た。

 再びさっきの公園に戻り、調査を再開する。


「人は減ったねえ。これなら調査しやすそう!」

「じゃあ写真を見てみましょうか」


 イザベルは取り出した写真と現在の公園の様子を見比べる。


「んーー......」


 ノールズも写真を覗き込んで、辺りの景色と見比べる。そして、


「あ! あそこ、木が一本多い!!」


 ノールズ指さしたのは公園を囲むようにして植えられている木の一本だった。確かに写真にはあの木は写っていない。


「そうね、あれみたい。確かにあれは毎日注意深く観察していないと分からないわ」


「俺、まちがいさがしの才能あるのかな?」


「すぐ調子乗らないの。近づいて見てみましょう」


 二人は木に近づいてみたが、他の木と見た目は特に変わらず、手触りも同じだ。変わったところは特に感じない。生えている地面に違和感もなく、まるで最初からそこに存在していたようにさえ感じる。


「かくれんぼのプロみたいね」

「ほんとだねー、こりゃすごい」


 二人は木の皮をサンプルとして少し回収し、また他の場所で時間を潰してみることにした。今度はさっきのドーナツショップとは反対側。大きな川が流れる、街の中心から少し外れる場所だ。


「なんかさあ、此処ってこんな感じだったっけ」


 ノールズが川の流れを見つめながらイザベルに聞いた。


 10年ぶりに見る外はやはりどこか違うように感じる。自分達が地下に潜って命懸けの研究をしている間にも、地上では当たり前だが日常が繰り広げられているのだ。殺伐とした研究所の雰囲気とのんびりした地上の風景がノールズには少し不思議に思えた。


「さあ、私は此処の生まれじゃないもの」


 ノールズの問いに対してイザベルは淡々と返す。


「え? そうなの? イザベルどこ出身?」

「個人情報よ。何で教えないといけないの」

「両親に挨拶に行こうかなあって」

「橋から突き落とすわよ」


 しゅん、とするノールズの隣でイザベルは腕時計に目をやる。


「そろそろいいかしらね」

「えー、もう少し散歩してようよー」

「もう少しで17時だもの。ホテルに集合する約束でしょ」

「はーい......」


 公園に戻って二人は再び風景に溶け込もうとしている超常現象を探し始めた。


「んー」

「あら、彼処おかしくない?」


 イザベルが指さしたのは公園のベンチだった。一定間隔を空けて並べてあるはずのベンチ。だが、一箇所だけ妙に近い感覚で並べられている。


「あちゃー、あれはバレるよ」

「そうね。でも見つかりやすくて助かるわ」


 ベンチに近づき、二人はじっくりそれを眺める。座ったり触ったりしてみたが、やはり他のものとは変わらない。


「んおお......!? ねえねえ、イザベル!」


 イザベルが資料を読んでいると、ノールズが呼ぶ声が聞こえてきたので彼女は資料から顔を上げた。


「何?」

「こいつ、隣のベンチと同じ場所に傷がある!」


 見てみると、確かに右のベンチの背もたれについている傷が、超常現象が化けている偽物のベンチにもついている。左のベンチとも見比べたが、左のベンチの傷はついていなかった。

 イザベルはそれを見て、そういえば、と思い出す。


「さっき見た木も右の木と同じところに同じキノコが生えていたわ」


「え? そんなところ見てたの?」


「ええ、おそらくこの超常現象は」


「右にあるもののコピーを作るのかあ」


「みたいね」


 イザベルはファイルに書き込み、次なる疑問が頭に浮かんだ。どうやらノールズも同じことを考えたらしい。


「......右に何も無かったらどうなるんだろ?」

「私も気になっていたところよ」


 イザベルはコツン、とベンチを叩いた。


「これは調べ甲斐がありそうね」


 *****


 ノールズ達がお土産として持って帰ったドーナツは、研究員達にとても好評だったようだ。また行こうねー、なんてイザベルに近づくノールズを見てキエラが顔色を変えて間に割り込もうとしたのは言うまでもない。

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