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ひきこもり魔法のランプ

作者: CoconaKid

 ふと頭によぎる。なぜそこへ行き着くのか。あれこれ選んで組み合わせて、少し突けば変化もありけり。ぼやぼやしていたら、ただの日常。

 結果は小さい過程の集まり。運がいいか、悪いかは別として、または成功か失敗も別にして、地球は回って毎日がやってくる。但し、生きていたらだが。

 人と人の相性はケメストリー。誰に会うかで運命に影響あり。こいつとこいつ、あいつとあいつ、こいつとあいつ、それぞれの組み合わせにほんのちょっとの小道具があればその日常はたちまち非日常。

 またひとり、行き詰っているのがいる。獲物? カモ? 餌食? それとも無垢なただの弱者? 何とでも呼べばいい。ただそれは何も知らずにそこにいるのだから。

 蜂の巣を突つけばやっかいだが、そこには甘い蜜がある。今まさにそんな気持ちで怪しげな男は興味深く、か弱な女子高生を見ていた。そしてゆっくり近づき、すれ違いざまに声を掛けた。

「ひこうき雲が長く尾を引くのはお空が低気圧。それとも偽装されたほかの何かかも。一体どこまでそれは続くと思います? お嬢さん。グフフフ」

 意味もないことを言うだけ言って去っていく。声を掛けられた女子高生、佐奈は気味悪がって咄嗟に逃げていた。

 それでいいと、男は不気味に笑う。

 一体何がしたいのか。男はただ無秩序な混乱が好物だった。惑わせながら真実を匂わせ小さな希望を抱く。不思議な道具を用いて、無秩序を筋道立ててひとつにまとめあげていく。そこに一筋の光が一瞬現れるからだ。

 誰が得して、誰が損するのか。損得なんてどうでもいい、真実をどうしたいのか委ねる。

「さて、始まった」

 女子高生――佐奈に声を掛けたことで、点が線になっていくのを男は実感していた。


 学校の行事をサボった佐奈は、陸橋の上から電車が走っていくのを頭で想像を巡らしながら目で追っていた。電車が遠く去っていくのを見届けた後、無意識に空を仰ぐ。高く登った陽が眩しく、目が自然と細まった。初夏を迎えようとする太陽の日差しは暑い。お陰で黒髪が熱を吸収し頭のてっぺんが程よく温まっていた。

「巨大な虫眼鏡でもあったらもっと熱を集められたのに」

 軽く頭に触れながら佐奈は独り言を呟く。

 このまま自然発火してくれればと願うも、そう容易く自分の体は燃えるものでもない。それならここからいっそ飛び降りればと思っても、周りに張り巡らされた金網が邪魔をしていた。

 無理をして金網に手足をかけて登れば超えられないこともないだろう。でもそんなことしているうちに誰かに見つかって、目的が達成されない前に注目を集めて大騒ぎになるか、通報されるか、とにかく失敗するのが目に見えていた。

「あーかいかい」

 熱で温まった頭が痒くなり、佐奈はボリボリ掻き出した。痒みはすぐには収まらず、次第に首筋も痒くなっていく。欲望のままに掻いていると自分が猿になったような気になった。

 猿ならこんな金網も難なく駆け登っていくだろうに。でも猿は柵の天辺にたどり着いても飛び降りることはないだろう。

 飛び降りる……。ここから下に向かって飛び降りれば確実に死ねるのだろうか。

 また電車が陸橋をくぐって佐奈の真下を走っていく。佐奈は消えたいと思う願望を抱えて連なる車両が流れていくのを虚ろな目で見つめていた。

 死にたいと思ったのは、喧嘩が耐えない両親と意地悪なクラスメートと自分に冷たく当たる担任のせいだ。他にも自分に嫌気がさしたのもあるけれど、要するに全てが嫌になってメンタルが崩壊していた。

 父は自己愛が強く我がままで自分中心。母は曲がった事が嫌いで気が強く、自分の意見を押し通す。ふたりの間で何が起こっているのか訳もわからず、家庭はいつも衝突していた。

 心配して間に入ろうとしても、一度切れた父には何を言っても無駄。下手したら自分がとばっちりを食らう。母もそんな父が許せず攻撃の小言が止まらない。

 母曰く、(したた)かさは防御らしい。まるで座右の銘だ。これで父が手を出してきたら自分に有利の展開と言っている。離婚しやすいとでも思っているのだろうか。その前に夫婦喧嘩をやめてほしかった。

 佐奈は自分の部屋に篭って、両親の不仲にいつも泣いていた。

 学校でもそうだ。悲しい惨めな気持ちで教室にいる。クラスを牛耳る嫌なクラスメートが佐奈を気にいらず、嘘を広めて佐奈を孤立させている。佐奈の周りには友達が居ず、誰かに助けを求めたくても誰も近寄ろうとはしない。担任もまた見て見ぬふりだった。自分が女生徒にもてると思いこんで、自分に寄って来る生徒だけを依怙贔屓するような奴だから、そういうのを嫌う佐奈が近寄れるわけがなかった。

「ついてない人生だ」

 佐奈は無意識に嘆いた。

 この日はグループごとに集まって、地図を持って街を歩くオリエンテーリングの行事があった。佐奈だけどこにも入れてもらえず、担任も知っていながらひとりぼっちの佐奈を放っておいた。だから佐奈はサボったのだ。

 孤独でひとりぼっちの佐奈は自分の居場所がなくて心休まらず、毎日が嫌でたまらなくなっていく。今がちょうどそのピーク。辛い思いをするのなら一層のこと消えてなくなって楽になりたい。この世の中、上手く行かず何かが狂って間違った方向へ行く。こんな世界は見たくない。だから安易に死という言葉が佐奈の頭にカジュアルに浮かんだ。

 みんなバカバカバカバカ。たくさん罵ったところで悔しさはそんな言葉で癒されない。ただ辛く悲しい。思春期の多感な年頃の佐奈は、湧き起こる不満な気持ちを処理できないでいた。

「はぁ」

 小さなため息が口から漏れる。でもちょうど同じ時、自分が吐き出したものよりも大きなため息が後ろから聞こえてきた。

 佐奈が振り返れば、女性がぶつぶつと言いながら通り過ぎようとしていた。

「何よ、あれ。やだやだやだ、気持ち悪い」

 気の強そうな女性が、やりきれない思いに独り言を呟いて顔を歪ませていた。

 佐奈と同じように不満を持っていると思ったその時、その女性と目が合ってしまう。虫の居所が悪かった女性は佐奈を見ると、敵意を抱くように睨み返した。

「何よ」

「いえ、別に……」

「変な目で見て馬鹿にしないでよね」

 その女性は佐奈に八つ当たりする。佐奈が見ただけで自分が責められたようにコンプレックスを刺激された。

 佐奈はぎこちなく視線を逸らし、腹立つ気持ちを抑えるようにぐっと体に力を入れていた。

 ――こっちの気持ちも知らないくせに。もうこれ以上私に辛く当たらないで。

 心の中では憤っても佐奈は言い返せず、我慢してその場をやり過ごしていた。

 女性は「ふん」と首をわざとらしく振り、スーツケースをガラガラと引っ張ってコツコツとヒールの音を鳴らせて去っていった。

 佐奈はその女性の後姿を見つめ決心する。これは何かの導きなのかもしれない。

「やっぱり今日、死のう」

 見知らぬ女性にまで邪険にされ、佐奈はこの世にさらに深く失望する。この勢いですぐ先の駅へと向かおうとしていた。入ってくる電車のホームから飛び込むつもりだ。そうすれば一瞬で全てが終わる。

 もう一度さっきの女性を振り返る。どうせ死ぬなら彼女に罪悪感を植え付けてやりたかった。今夜のニュースで自分の自殺が流れれば睨んできた彼女への当てつけになる。自分の姿を印象付けようと佐奈は呼び止めようとする。でも佐奈は声を掛けられなかった。その女性はその先の向こうでハンチング帽を被った男性と話をしていたからだ。ナンパでもされたのだろうか。先ほどの刺々しい雰囲気から無害な女性に変身していた。自分よりも弱いものにはえらそうに威張れるくせに、異性だと媚を売っているようにしか見えなかった。

 人によって態度を変える。それは佐奈を更に悔しくさせた。

佐奈は見た目も大人しくひ弱だ。それが見る人に隙を与えて見下されてしまう。学校でも散々バカにされてきた。自分なんて所詮つまらない人間だ。誰にもまともに相手にされない。

こんなどうでもいいような存在は、あの女性の記憶にも残らないんじゃないだろうか。当てつけは諦め、佐奈は決心した勢いがなくらないように足を急がした。

 空を見上げればひこうき雲がまだ真っ直ぐ伸びている。

「低気圧だからかな。それとも他に何かあるのかな」

 そんなことを思ったのも、以前すれ違いざまに変な男が呟いたからだった。

『ひこうき雲が長く尾を引くのはお空が低気圧。それとも偽装されたほかの何かかも。一体どこまでそれは続くと思います? お嬢さん。グフフフ』

 突然声を掛けられて気持ち悪く、佐奈は禄にその男の姿を見ないまま無視をして走って逃げた。その後、もう一度振り返ったらすでに変な男は居なかった。不意に見上げた空には薄っすらとひこうき雲が残っているだけだった。

 佐奈はそれを思い出し、ひこうき雲が伸びていくさまを見つめていた。本当にどこまでそれは続くのだろうか。

 真っ直ぐに引かれた雲のラインは引きずっている自分の嫌な問題と重なる。早くそれを終わらせたい。佐奈の足に力が篭っていた。

 衝動は佐奈をヤケクソに突き動かしていたはずだった、駅に着くまでは。だが、ホームに立った時、佐奈は逡巡してしまう。いざとなると決心が鈍った。

 電車が来るまでまだ時間がある。後には引けない思いも抱いて、足だけは白線の上に立ちながら腕時計で時間を確認する。昼のこの時間、人々もまばらにホームは空いていた。誰も佐奈が飛び込むつもりだなんて思っている人は居なかった――はずだった。

「お嬢さん、電車が来るまであと五分はありますネ」

 さっきまで周りに人などいないと思っていた佐奈は、声がしてびっくりし振り返ると同時にバランスを崩してホームに落ちそうになってしまう。

「おっと危ない」

 咄嗟に腕を掴まれ、佐奈は見知らぬ男に支えられた。

「電車が来る時に声をかければ事故になったかもしれませんネ。それではやっぱり都合が悪いですか? 自ら飛び込まなければ意味がないとか?」

 佐奈が男の顔を見つめれば、男は怪しげにニタついた笑みを浮かべた。

 どこか日本人離れした彫りの深い顔が異国の人に見える。しかしどこの国かは全くわからない。一般人ですらなかった。その男は黒いマントを羽織り、マジシャンのように正装した姿をしてこの場に相応しくなく立っていた。

「あの、その」

 佐奈がしどろもどろになっていると、男は白い手袋をはめた手を佐奈から離した。

「別に私はアナタを助けようとしているわけではないのでご安心下さい」

 にこやかに笑って陽気ではあるが、話し方は違和感があるイントネーション。佐奈が自殺をしようとしていると分かっているけど、止めるつもりは全くない。寧ろ、にやけた顔つきが、うきうきと喜んでいるようにも見えた。

 佐奈がどう対処していいのかわからないでいると、男はさらに話し出した。

「少しばかりお時間ありますか? よかったら私の話を聞きませんか? ちょうど誰かに聞いてほしいと思っていたんです。そしたらアナタが目に入ったんです。アナタ、ホームから飛び込むつもりだったんでしょ。その前にこの世の面白い事を最後に聞いてからでもいいじゃないですか。さあさあ」

 強引に男がベンチに誘い、先にそこに腰掛けた。ポンポンと隣の席を叩いて催促している。

「あのどこまでも伸びていくひこうき雲に続いて来たんでしょ?」

 佐奈はハッとする。スイッチが入ったようにその男に近寄ってしまい、そして腰掛けた。

 あの時にすれ違った怪しい男だろうか。自分の事を知っている。佐奈は妙な感覚に襲われ、その男を不思議な面持ちで見つめた。

「付き合って下さってありがとうございます。話し相手を探していたところだったんです。だけど、私とても怪しそうに見えるでしょ。まともな人は絶対敬遠すると思っていたんです。そしたらお嬢さんが現れて思いつめて立っていらっしゃったから、声を掛けやすかったんです。ああ、この人はまともな精神じゃないぞってね」

「はぁ」

 ありがたがられている割には貶されているようにも聞こえる。一体この人は何なのだろう。これは幻なのだろうか。まさか自分はすでに電車に飛び込んだあとで幽霊になって彷徨っているところなのでは――。佐奈はじろじろとその男を見つめた。

「ふふふ、お嬢さんの思っている通りかもしれませんよ」

 佐奈はドキッと跳ね上がった。

「えっ、なんで考えている事がわかったの?」

「いえいえ、あまりにも訝しげに何かを考えながら私をご覧になっているので、ちょっといい加減にからかってみただけです」

 いい加減……。その言葉に佐奈は少しむっとするも、怪しげな男がつかめない。

「あの、一体あなたは誰ですか? もしかして一度私とすれ違ったことあります?」

「私はぶらぶらとこの辺ふらついてますからね。ちなみに、旅人です。時には人に話しかけたり、気ままにコミュニケーションをとったり、常に面白いことはないか探していたりします。グフフフ」

 妙な笑いが不気味だった。聞き覚えのあるそれに、やっぱり一度すれ違っているかもしれない。佐奈は変な縁を感じていた。

「とにかく、私が誰でもいいじゃないですか。お嬢さんはどうせ死ぬんでしょ?」

 死ぬという言葉に、佐奈はびくっとして辺りを見回した。

「誰も聞いてませんって。誰も私たちを見てませんし……あっ、あの向かいのホームのベンチに座ってる小太りの男性がこっちを時々見てるようですね。でも距離がありすぎて私たちが何を話しているかまでは聞こえないでしょう。イヒヒヒ」

 最後に意味もなく笑う。やっぱり気持ち悪い。

「私、その」

 佐奈が立ち上がろうとすると、その男は佐奈の腕をがしっと掴んだ。一瞬、ひぃっと体が冷えて恐怖を感じたが、悲鳴をあげるのも躊躇われた。

「お嬢さん、嫌なら声を上げて助けを求めてもいいんですよ。見知らぬ者に無理やり腕を掴まれたらそれはもう立派な暴行ですから。あなたは賢い人だ。状況を把握してもっと強くならなくては」

 佐奈はどうしていいのか分からず固まって様子を見ていた。

「その調子だと怖いけど好奇心もあるという感じですね。それならもう少し付き合ってみて下さい。私は怪しい者ですけど、お嬢さんには危害を加えませんから。フフフフフ」

 自分で怪しい者と言っている。怖がって逃げたところで顔も知られてしまい、しつこく付きまとわれるかもしれない。それに成り行き上、すでにこの男の術中にはまっているのを実感していた。佐奈はベンチに留まり、緊張して畏まる。

 さっきまで死のうと思っていたのに何を怖がっているのか。少し強がってごくっと唾を飲み込んだ。

「そんな怖がらなくても、ちょっとした話なんです。お嬢さんは『魔法のランプ』ってご存知です?」

 佐奈が軽く頷くと、男は「へへへ」と笑いながら両手を口元で合わせてふっと息をふきかけた。その手を佐奈の前に突き出し、合わせていた掌を広げると、パッと少しくすんだ金色のアラビアのオイルランプが現れた。

 そのマジックに佐奈は素直に驚いて目を見開いた。

男は意味ありげに笑ってランプを軽く擦る。佐奈は何が始まるのか期待して見ていた。暫く沈黙が流れるも何も起こる気配がなかった。

 佐奈はまた困惑し、男に視線を向けた。

「すみませんネ、さっきまではこの中に魔法が使える精霊がいたんですよ。ちまたではジーニーって呼ばれているあれです。でも開放されて出て行かれたんです」

「それって、嘘ですね。最初から何も入ってなかったんでしょ。第一、魔法のランプなんて存在しないし」

 期待した自分がバカに思えて、佐奈は当てつけに顔を歪めた。

「信じるも信じないもそれはお嬢さん次第ですが、とにかくこの魔法のランプについて聞いて下さいよ。これは普通の魔法のランプじゃなかったんです」

 普通の魔法のランプという言い方が佐奈には変な響きに聞こえた。魔法のランプ自体普通じゃない。

「普通も何も、魔法のランプなんて実際にあるわけないのに」

「それがあったんですよ。これは『ひきこもり魔法のランプ』といいまして、なんとイケメンが出てきたんです」

「ひきこもり魔法のランプ? イケメン?」

「まあまあ、とにかく聞いて下さい。実はこういう事があったんです」

 ホームから電車が入るお知らせのメロディがちょうど聞こえてきた。辺りがうるさいのにその男は話を始める。電車も入ってきて男の声が聞こえにくい。

佐奈は身を乗り出して男に近寄り話を聞く体勢に自然となっていた。不思議な状況が佐奈の好奇心を駆り立てた。

 電車がホームについて、降りる人がいても男は目もくれず自分の世界に入り込んで佐奈に語り続ける。

 電車が去って人がまばらになると男の話が聞きやすくなった。本を読み聞かされているような男の話し方に佐奈は興味を抱き、ランプと男を交互に見ては物語に惹き込まれていく。男が話す登場人物の絵が佐奈の頭の中で自然と出来上がっていた。それは映画を観るように映し出されていた――。


 すっきりとしない気分で未樹が街の繁華街のはずれを歩いていたのは、夜の九時を回ろうとしていた頃だった。久しぶりに会った友達の(めぐみ)と居酒屋で飲んで別れた直後のことだ。仕事や恋愛の愚痴を酔った勢いで友達に話すも解決策にはいたらなかった。それよりも恵の充実している話を聞いたことで余計に惨めになっていた。

 いい縁談に恵まれ早く結婚し、仕事も意欲を持ってこなしている恵は尊敬に値する。不満たらたらな未樹に合わせて多少愚痴りながらも、言葉の端々に充実した日々の生活に幸せを滲ませていた。教師の仕事も板についてきて、生徒からも慕われているらしい。自信たっぷりな笑顔が憎らしい。

未樹は気に入らない仕事を辞め、早く結婚して専業主婦になりたいと思っている。目の前で思うような人生を得て幸せな人を見ていると嫉妬が湧いた。

 こんな気持ちになるなら会わなければよかった。自分の愚痴を聞いてもらうだけでよかったのに、恵の幸せを見せ付けられる羽目になって裏目に出てしまった。

 アルコールが体から抜けていくのと同時に虚しさがこみ上げてくる。泣きたいような気持ちになりながら歩いていると通りに露店が出ているのに気がついた。

 堀の深い怪しげな外国人が路上で何かを売っている。薄暗いのに、地べたに敷いた布の上に置かれたものは鈍く光を放していた。ついそれを見てしまったのはそれらが浮き上がっているように見えたからだった。

「いらっしゃーい。おひとついかがですか」

 黒っぽい衣装だが、よく見ればそれはタキシードの上からマントを羽織っていた。手袋をつけた手がぼわっと白い。パフォーマンスのコスプレだろうか。つい立ち止まってじろじろと見てしまった。

「アナタ、トテモ疲れてますネ。そんなアナタにこれはぴったりですよ。この中からおひとつどうぞ選んでください。それはきっとあなたを癒すはずです」

 リズムを帯びた変なイントネーション。マントの男に言われ未樹は置いてある商品を見つめた。

「これ、アラジンに出てくる魔法のランプ?」

 それらはひとつひとつ細かなデザインや大きさも違っていたが、基本的なフォルムはよく知られている魔法のランプそのものだった。

「そうです。まさに魔法のランプです。但し、これは『ひきこもり魔法のランプ』といいまして、普通の魔法のランプとは違います」

「ひきこもり魔法のランプ? 普通と違う? だけどどうせ飾りかおもちゃでしょ」

「いえいえ、おもちゃじゃないんです。飾りでもないですし、さらに火をつけるランプでもなく、本当に魔法のランプです。ちょっとひきこもりですけど。イヒヒヒヒ」

 ぎょろりと見つめる目が光って語尾の笑いが不気味に暗闇に響く。狂気じみた気味の悪さを感じ、未樹はその場を去ろうとゆっくりと足を動かした。

「ん、もう。怖がらないで下さい。そしたらひとつただであげますから、好きなのを取って下さい」

「いえ、結構です」

「そういわずに、必ず今のあなたを癒してくれますよ。だって中から魔法使いのイケメンが現れるんですから」

「えっ、魔法使いのイケメン?」

「はい、そうですよ。フフフフフ」

 見かけも言うことも怪しいが、ひとつただでもらえるというのなら手にしてもいいかもしれない。いらなければ捨てればいい。

 未樹は腰をかがめて適当にひとつ手にした。

「本当にただで貰っていいの?」

「はい、いいですよ。私も完全なものを売ってるわけではないので、ちょっとまだお試しみたいなものなんです。どうせなら使ってもらった方が嬉しいので」

「どうやって使うの、これ?」

「そうですね、適当にこすったり、ノックしたり、中の人を呼んであげてください。そしたらいつか出てきます」

「出てきたら、どうするの?」

「話をしてみて下さい。交渉しだいで色々とやってくれるかも」

「交渉? 魔法のランプだから願い事叶えてくれるんじゃないの?」

「それはだから、あなた次第です。とにかくひきこもってますから、まずは呼び出すのが先ですね」

 話が全く見えてこない。一体このランプは何なのだろう。

 ランプを見つめながら首を傾げていると、マントの男は急に慌てて商品を片付け出した。

「おまわりさんが来る。また注意される」

 先の方で自転車のライトがこっちに向かってくるのが見えた。

「それじゃ、私はこれで。それでは楽しい日々をお過ごし下さい」

 風呂敷のように布で包んだランプを背中に背負って、マントの男は早足に去っていった。その後で自転車に乗った警官が未樹の前を横切っていった。

「おい、そこの男、ちょっと待ちなさい」

 確かに警察に追いかけられているようだ。

 未樹はランプを抱えマントの男を見るが、逃げ足早く、すでに暗闇に溶け込んでその姿は見えなかった。寂しいひと時に味わった不思議さは少し気が紛れた。

 ひきこもり魔法のランプというネーミングも考えたらおかしい。

「ひきこもりのイケメンか」

 未樹は好みのタイプのイケメンを想像してみた。その人がこのランプの中にいる――。

少しだけ気持ちが和らぎ、くすっと笑った。怪しい男ではあったけど、結果的に面白かったと思えたのはよかったかもしれない。

 未樹はランプをラッキーアイテムのように大切に抱えながら家路についた。

 その晩、ベッドに横たわりながらランプを手にとって眺めていた。試しに物語の通りに擦ってみたが、何の反応もない。

「あの詐欺師め」

 あのマントの男を罵ってみても未樹は笑っていた。ジョークグッズとしてみたら中々のアイデアで面白い。

 魔法使いもひきこもっていたらちょっとやそっとでは出てこないだろう。出てこなければ魔法をお披露目してくれないし、最初から居ないと言っても、ひきこもってるだけだといってしまえば嘘も通用してしまう。

 怪しい姿で売りつければ、雰囲気にのまれてノリで買ってしまう人もいるだろう。今時、魔法のランプの露店も珍しい。光に当てると金色に輝きを増して豪華にも見える。インテリアとしても悪くはなかった。

 もう一度擦ってみた。やっぱり反応はない。

「もしもし、イケメンの魔法使いさん。この中に本当にいるんですか? 居るのなら姿を見せて下さい」

 指で軽くコンコンとつついてみた。

 アパートの小さな一部屋で、ランプ相手に話しかける自分もおかしく、未樹は気持ちが落ち着いていく。何かいい事が起こりそう。煌びやかな金のランプを見ていると運が向いてくる気になっていた。いや、思い込もうとしていた。

「明日はきっといい事があるよね」

 軽くランプにキスをしてから枕元に置く。そうして未樹は眠りについた。

 未樹がすっかり寝静まると、暗闇の中でランプは時々ガタガタと小刻みに揺れ動いた。それが収まるとため息がひとつランプから漏れていた。

 その次の日、未樹が目覚めると時計の針は七時半を回っていた。

「うわぁ、寝坊した」

 いつも七時にセットしているアラームが鳴らなかった。一瞬時計に腹を立てるもランプに気を取られてセットするのを忘れていたのを思い出す。慌ててベッドから起き上がりカーテンを開ければ、ランプは窓から入り込んできた光を受けて金色に輝いた。それを尻目に未樹は急いで身支度をすませる。用意が整うと「いってきます」とランプに声をかけてから慌しくアパートを飛び出した。

「よし、頑張るぞ」

 きっと運が向いてくると信じて、朝食を抜いてお腹が空いているにも関わらず元気に駅へと走り出した。

 なんとかいつもの電車に乗る事ができ、遅刻は免れた。会社についてほっとした気分でタイムカードを押せば、同僚が小走りに近寄ってきた。

「おはよう」と未樹が先に挨拶するが、それどころではないと同僚の顔が歪んでいた。

「昨日の伝票の処理、間違っていたわよ。一応直しておいたけど、江角課長からまたねちねち言われるかもしれないから覚悟した方がいいよ」

 彼女は親切に教えてくれたあと、とばっちりを食らいたくないとさっさと未樹から離れていった。

 指摘されて未樹には思い当たる節があった。昨晩、恵との約束があったために絶対に残業はしたくなかった。だからいつもより早く雑に仕事をこなしてしまった。未樹は「しまった」と悔やむ。いつもは慎重に事を運ぶのにと今更思っても後の祭りだった。

 その後、未樹は知らせを受けた通り江角課長から注意を受けた。眼鏡の奥の冷たい目つきで睨みつけられ、未樹は身を強張らせた。起伏の激しい気分やの性格は気に入らない事があるとすぐに感情をぶつける。やっかいで最低な上司だ。しかしここはミスを犯した自分が悪い。真鍮に受け止めて謝った。それでも江角課長からひたすら必要以上に責め立てられ、彼の側を通る度に睨まれながらその日を過ごすことになった。

 はっきりいってこの会社はブラック企業だ。有給はあっても取りづらい。奴隷のように使われる。給料も上がらない。少なくとも未樹はそう思っていた。だから多少いい加減にしたっていいだろうという気持ちを持っていた。

 この日の業務を終え会社を退社したときには神経が磨り減り、未樹はげっそりとしていた。疲れた足取りでやっとの思いのなか自宅に戻り、すぐさまベッドの上に寝転がる。枕元に置いていたランプが視界に入り、それを手にした。

「ん、もう。何がいい事があるだ。最悪だったじゃないの」

 腹が立った未樹は八つ当たってランプを床に放り投げた。

 そのとき、「うぉっ」と声が聞こえた。

「えっ? 何、今の?」

 未樹が身を起こしてランプを確認しようとすると、転がっていたランプの口元からモクモクと白い煙が吐き出されていた。

「えっ、火事?」

 慌てて立ち上がろうとしたとき、軽くはじけたポンという音とともに男が突然現れた。

「キャー」と未樹が悲鳴をあげれば、男も「うわぁ」と体を縮めて驚いた。

「ちょっと、あんた誰?」

 未樹は枕を持ち上げ今にもぶつけようとしていた。

「僕は、その、ランプから出ただけで」

 両手を宙に浮かした守りの体勢で男はひるむ。

「えっ、ランプから出たって、もしかして魔法のランプの妖精?」

 まさかそんな事があるのだろうか。未樹は混乱しながらも期待してしまう。

「いや、どうなんでしょう。なんか魔法は使えるとか聞いたんですけど、まだどうやっていいのかわからないし」

 頼りなさそうに居心地悪く立っている姿ではあるけども、容姿は確かに眉目秀麗だ。きりっとした眉に目の虹彩が明るく澄んでいる。鼻筋もすっと通って、全体的にバランスがよく優しい顔立ちだった。スタイルも悪くない。だけどジーンズとTシャツを着ているそのださい服装は全然ジーニーらしくなかった。

「でも本当にイケメンだ」

 未樹は驚きを通り過ごして急にニヤニヤしてしまう。

「えっ、イケメン? そんな」

 男は自分の体を見ながらペタペタと触ったあと、未樹に視線を向けた。

「あの、鏡ありますか?」

「鏡ならバスルームにあるけど」

 その方向を指差せば、男は言葉なくジェスチャーでそこにいっていいかと伝えるので未樹は頷いた。

 バスルームに向かう男を、首を傾げながら未樹は見ていた。その後「うぉー」と驚きの声が聞こえる。

「どうかしましたか?」

 未樹が尋ねると、男はまた部屋に戻ってくる。

「ランプにこもってる間、自分の姿を見てなかったので久々に見ればこんな風になっていて感動しました」

 自分の姿を忘れるほどひきこもりが長かった様子だ。

「えっ、それじゃ本当にランプからでてきたってこと?」

「はい」

 ふたりはお互いを見つめ合う。暫しの沈黙が流れるが、いつまでもそうしているわけにはいかない。

「あの、お茶でも飲みます?」

「は、はい。お願いします」

 シャイに頭を下げておどおどしている姿は、無垢な少年のようだ。かっこいいだけに未樹の母性本能がくすぐられた。

「どうぞ座って下さい」

 座布団を差し出せば、男は畏まって正座した。部屋の隅に寄せていた小さな折りたたみローテーブルを引っ張り出し男の前に置く。冷蔵庫から麦茶を出してグラスに注ぎ、それをどうぞと差し出した。

 男は素直にお礼を言って受け取りすぐに口をつけた。

「お、美味しいです」

 ただの麦茶に美味しいもない。緊張して無理をしているだけではあるが、それが却って微笑ましい。

「あの、お名前は?」

「えっと、桐崎竜司です」

「えっ、キリサキ、リュウジ? 別に定番のジーニーじゃなくてもいいけど、もっと魔法使いらしい名前かと思った」

 普通の日本人の名前に、未樹は拍子抜けた。

「あの、ジーニーでも好きな名前をつけて呼んで下さって構いません。お嬢様」

「えっ、お嬢様!?」

 普段滅多に言われない呼び方が耳に心地よく胸がキュンと跳ね上がる。

 いい、すごくいい。

 多少戸惑ってぎこちないけども、未樹に追従しようとする態度が伝わってくる。未樹はすっかり気に入って竜司を受け入れた。

「それじゃ、竜司、やっぱり魔法のランプの妖精だから、三つの願いを叶えてくれるの?」

「多分そうなんでしょう……ね?」

「何、その頼りない回答は」

「僕、その、気がついたらランプの中に居て、自分でも何をどうすればあまりわからないんです。マニュアルを一応読んだんですけど、とにかく呼び出された人には仕えて三つ願いを叶えろというのが書いてありました」

「それにしては出てくるの遅かったよね」

「ずっとひきこもっていたので、人と会うことに慣れてなくて呼ばれても中々出てこられませんでした。だけど、部屋が急に動いた弾みで出るボタンを押しちゃったみたいです」

 未樹がランプを投げつけた時のことだ。まだ部屋に転がっていたランプを未樹は拾ってテーブルの上に置いた。

「この中は部屋になってるの?」

「はい、大きなモニター画面があって、テレビになったりインターネットできるようになったりして、それと外の様子も見たければ見られます。ベッドもあるし、自分が必要なものは最低限揃っているので狭い部屋でも僕好みで快適でした」

 まさにひきこもってるものにはそういう部屋は最適な場所ではあるだろう。しかし、こんなイケメンがそんなところでずっとひきこもったままももったいない。

「これからは、私が呼んだらすぐに出てきてくれる?」

「えっ、あっ、はい、えっと、お嬢様。仰せの通りに」

 あのマントの男は詐欺師じゃなかった。どんな仕組みかはわからないが、目の前にイケメンがいる以上本当のことには間違いない。

 あのマントの男が言った通りそれは癒しとなり、未樹は魔法のランプを手に入れた僥倖を改めて喜んだ。

 これは使えるかもしれない。

 未樹は竜司の顔を見つめ、この先の生活の事を考えわくわくしていた。


 そうして未樹は竜司と暮らし始める。会社から帰って呼び出せば「お帰りなさい、お嬢様」と迎えられ、話を聞いてほしいときはいつも大人しく耳を傾けてくれた。素直なその態度に癒され、未樹も調子に乗って甘えがエスカレートしていく。会社で辛い事があれば、それを竜司に話して慰めてもらおうとする。

「今日、辛かったんだ。ねぇ、頭をポンポンして『頑張ったね』って言ってみて」

 竜司がぎこちないはにかんだ笑顔で未樹の言う通りにすれば、初々しいそのしぐさに未樹はキュンとした。

「次はハグも」

「えっ、ハグ……ですか? いいんですか?」

 恐々と両手を広げ、未樹を包み込もうとしてそっと体に触れるもすぐに解放した。

「えっ、それだけ? もしかして私のこと嫌いなの?」

「いえ、違うんです。今まで女性と付き合ったことがなくて、なんかそのこんなことしてもいいのかと思うと、その申し訳ないような気になって」

「いいに決まってるでしょ」

 未樹は自分から抱きつきにいった。

「竜司、かわいい」

「あ、ありがとうございます」

 未樹に抱きしめられて、竜司の顔が赤くなっていた。

「いつまでもおどおどしてないで、早く私に慣れてね」

「すみません。初めてなのでどうしていいのかわからなくて」

 魔法のランプの妖精になって間もないと説明する竜司。魔法は使えるらしいがまだ新米で使い方がわからない。ずっとひきこもっていたせいで、人とのコミュニケーションの取り方がわからなくいつもあたふたしているが、主人に従わないといけない最低限のルールのために魔法のランプの妖精として必死に責任を果たそうとしていた。

 自分の働きも魔法のランプにのっとった報酬に影響するため、真面目な竜司は悪い評価がつかないように未樹の顔色を窺って不安な面持ちでいた。

「ほら、またそんな顔をする」

「本当に要領が悪くてすみません」

「大丈夫だよ。そのうち慣れるって」

 未樹が励ませば、竜司もほっとしていた。

「だけど僕、他にどうすればいいですか?」

「うーん、そうだね。もう少し、背筋を伸ばしてさ、堂々とすればいいんじゃないかな」

 未樹のアドバイスの通りに竜司は体に力を入れてまっすぐにしてみた。

「そうそう、それで後は……」

 と言いかけた時、未樹ははっと閃いた。そしてスマートフォーンを取り出して検索する。竜司は首を傾げてそれを見ていた。

「あっ、これなんかどうかな」

 かっこいいモデルがスタイリッシュな服を着てポーズを取っている画像を未樹は見せる。

「こういうのを着たら似合うんじゃないかな」

「でも、僕はTシャツとジーンズで十分です。楽だし」

「そんなダサい格好してたらもったいない」

 未樹は竜司を格好良くしたかった。そしてふたりで街を歩いているところを想像する。きっと楽しいに違いない。

「ねえ、サイズは?」

「ええと、ビッグサイズ?」

「どんなサイズよ、それ」

「あまり服を買ったことないからサイズがよくわからないです」

 未樹は小物入れの引き出しからメジャーを出して竜司のサイズを測りだした。自分の世話をしてくれる未樹に竜司はドキドキとしていた。

 ぼーっとしている竜司の側で、未樹は自分が気に入った服をスマホでせっせと探す。

「これかっこいいよ」

スリムなパンツにジャケットを羽織ったスタイル。シンプルだけど洗練されて爽やかさが強調されていた。

「僕、そういう格好したことないし、えっと値段もそれなりに高いし」

「竜司、自信持ちなさい」

未樹はピシッと言う。

「は、はい」

 パブロフの犬のように竜司は背中を真っ直ぐに伸ばした。

「お金のことは気にしなくていいから。これを着て私とデートをする。それが私の願い。叶えてくれるでしょ、ランプの魔法使いさん」

「そんな願いでいいのでしたら。はい、仰せの通りに」

 竜司が承諾すると突然どこからともなく軽やかな「ティン!」という心地よい呼び鈴を鳴らした金属音がした。

「何、今の?」

 未樹はキョロキョロと辺りを見回した。

「多分、願いが発生したので、その知らせのベルだと思います」

 その時、竜司は未樹が選んだ服をすでに身にまとい、きらめく色とりどりの光放す夜景をバックに立っていた。未樹はそれを目の前にして驚く。

「えっ、ここはどこ?」

「どこかの街を見下ろせる丘の上みたいですね」

「まさか、ひとつ目の願い?」

「そうみたいです」

「こんなすぐに、ポンと叶ってしまうの?」

「僕もよくわからないです」

 ふたりは突然のことに戸惑うも、目の前の夜景の綺麗さは無視できなかった。

「それにしても何て綺麗な夜景なんでしょう」

 未樹は竜司の腕を取り自分の腕と絡ませた。竜司は大人しく未樹のするままに身を任せる。

「お嬢様の美しさには叶いませんよ」

 竜司自身、その言葉が自分の口から出たことに驚いていた。未樹が願ったことで竜司は無意識にそれに合う行動をさせられることに気がつく。

 その次に未樹が自分を見上げて目を瞑って口を尖らした時も、自分の意思とは裏腹に竜司は未樹の唇に自分の唇を重ねてしまった。そして強く抱きしめ、頬や首筋に軽くキスをしていた。未樹の声が 小さく漏れて感じている。

 暫く甘い吐息が続き、未樹は時間の感覚も分からず、すっかりとろとろととろけていた。

 再び未樹のマンションに戻った時、竜司はまたいつものTシャツとジーンズの服装に戻り、我に返って身を縮ませる。一体自分は何をやっていたのか。

 目の間の未樹は目がトロンとして満足そうに放心していた。

 また未樹は続きを求めてきたとき、竜司は躊躇して手を出さないでいると未樹はその意味に気がついた。

「ああ、ひとつ目の願いはこれで終わりってことなのね」

 思いつきで安易に願いを言ってしまった未樹は、これでよかったのか叶った後に考え込んだ。

 竜司に相手にされてドキドキと気持ちよかったけど、終わってしまえば物足りない。

 次はもっとすごい事を願うべきだろうか。金持ちになりたい、永遠の若さを手に入れたい――到底普通には手に入れられないものを叶えてもらう。

 それも定番なありきたりのように思えて満足しそうになかった。それよりももっと自分が望むものは何だろう。未樹は竜司の顔を見ながら考えていた。先ほどの優しいキスととろけるような熱い抱擁を思い出す。

「ねぇ、竜司。魔法のランプの魔法使いって彼女を作ってもいいの?」

「えっ、えっと、仕えているときはダメらしいです」

「それって、ランプから開放されればOKってこと?」

「はい、そうなると思います……」

 竜司はモジモジと答える。

「そっか、じゃあ、私が竜司の自由を望んで解放すればいいんだ」

 未樹がさらりとそういえば、竜司はその言葉の意味にドキッとした。

「ねぇ、竜司、私のことどう思う?」

 思わせぶりの上目遣いで誘惑する未樹。

「あの、その」

 はっきりと言えないで竜司はつい俯いてしまう。

「えっ、嫌いなの?」

「いえ、そんな事ないです。寧ろ、僕なんかでいいのかなって思うと申し訳ないというのか」

 女性のアプローチに慣れてない竜司は、まさかこんな風に自分が好かれるとは思っていなかった。嬉しさと困惑の相反(アンビバレント)。いい事なのか悪い事なのか判断が下せなかった。

「いいに決まってるでしょ」

 未樹は息を吸って勢いで願いを叫ぶ。

「今すぐに竜司をフリーにして魔法のランプから解放して下さい」

 先ほどの効果音が現れないが、もしかしてと期待する。

「どう、自由になってる?」

 未樹の言葉に竜司は首を横に振る。

「いえ、そういうのではなくて、魔法使いをやめるにはあることを僕がしなければならないんです」

「どんなこと?」

 今すぐにでも竜司をランプから解放させたい未樹は身を乗り出して訊く。

「あの、それは、僕の口からはいえません」

 竜司は恥ずかしがって顔を逸らした。その時、魔法のランプの中に入れられたときのことが蘇る――。

 ニタついた気味の悪い黒ずくめの男との契約。有無を言わせずそれを結ばされた。自分にもメリットがあるとはいえ、半ば騙されたようなものだった。

 だけど、実際ランプの中に居ても自分の部屋に居ても生活に変化はなかった。ランプの中に居れば家族と会わなくて済むし、特にうるさい妹の舞香から離れるのはよかったかもしれない。あのまま一緒に過ごしていたら舞香に殺意を抱いていただろう。生意気な舞香だけが常に竜司に意見して、部屋から引きずり出そうとしていた。学校で人気者の舞香にとって、竜司のようなダサいひきこもりの兄が居ると知られるのは恥だった。

 ずっと部屋に引きこもって、自分の世界だけで住んでいると外に出る勇気がなくなってしまう。このまま一生ニートでいるわけにも行かないのは頭でも分かっていた。それでもしみついてしまったひきこもりは接着剤で部屋に貼り付けられたようにここから動けなかった。

 そんな時にあの黒ずくめの男が「アナタのような方を探していました」といきなり部屋に入ってきたのだ。

 机についてインターネットをしていた竜司は、キーボードに指を置いたまま暫し固まっていると、舞香もその後ろから現れてチラシを竜司に渡した。

「これお兄ちゃんにピッタリの仕事じゃない」

 ニタニタとわざとらしい笑みを浮かべている。この黒ずくめの男は舞香が連れてきたに違いない。

 急に腹が立ちながらチラシを見れば、ランプのイラストと一緒に『魔法使い募集』の文字がでかでかと書かれているのが目に入る。

「僕が魔法を使えるわけないじゃないか。バカらしい」

 広告を突き返す。

「いえいえ、大丈夫です。三十過ぎて童貞の男性ならこのランプの中に入ると魔法使いになれるんです。特にひきこもりの方には天職です。声が掛かるまでずっとこのランプの中ですから。イヒヒヒ」

 黒ずくめの男は不気味に笑う。

「なんだよ、それ。ちょっと待ってくれよ」

 馬鹿げた話に呆れ、聞き捨てならない言葉にカチッとする竜司。

「もう待てない。お兄ちゃんにはうんざりなんだよ。三十になっても仕事もせずにずっと部屋に篭りきり。いい加減にしなよ」

 舞香が竜司を非難する。父が再婚したあとに生まれた腹違いの妹。鬱陶しい舞香が憎い。

「これはお仕事ですので、報酬があります。働き次第でそれはよくなりますので、アナタは救われます。魔法のランプの妖精になればアナタは変われます。どうですか、なりますか?」

 どこを見ているか分からないようなぎょろりとした目を向けられ、竜司へと迫ってくる。身の危険を感じるもどう対処していいのかわからない。

「勝手に連れてって下さい」

 痺れを切らした舞香が言えば、黒ずくめの男は「そうですか、わかりました」とあっさりと承諾した。

「おい、勝手にそんなことしていいと思っているのか」

 竜司が抵抗するが、黒ずくめの男は竜司が手にしていたチラシに指を向けた。

「ここを読んで下さいね」

「ずっとひきこもっている場合、本人の同意なしに家族の許可が得られれば勝手に連れて行くこともできます……って、おい!」

「お兄ちゃん、これね、ひきこもりがいる家族を助けてくれるんだよ。お兄ちゃんにはパパもママも 困ってるの。いい加減にこの家から出て行け」

 舞香が叫んだ後、突然眩い光に包まれ、気がついたら竜司はドアがない部屋の中に居た。

「おい、ここから出してくれよ」

 竜司は不安になる。辺りを見回せば、机の上に分厚いマニュアル本が乗っていた。すぐにそれを手に取り、脱出する方法を探せば、魔法使いをやめる方法の項目を見つけた。それを見て竜司は肩を落とした。

 何度叫んでも誰も応答してくれない。そのうち疲れてベッドに寝転がれば、それはいつもと変わらない自分の日常であることに気がついた。快適な自分の空間になるにはさほど時間はかからなかった。そのうち自分がランプの中にいるということも忘れてしまった。

 そんな時にとうとう未樹によって出てくる羽目になってしまったというわけだった。

「ほら、何を恥ずかしがってるの? ちゃんと教えてくれないと竜司をランプから解放できないじゃない」

 未樹によって強引に顔を引き寄せられ、竜司は赤くなりながら未樹を見つめた。未樹が自分を気に入っているのは嬉しかったが、素直にそれを受け入れられない。

「いいんです。僕は一生ランプの中で過ごします」

「そんなのダメ。竜司はそこから解放されるべき。私が絶対救ってあげる。だからどうすればいいか教えて」

 何度も未樹に聞かれるが、竜司はどうしても答えられないでいた。竜司がランプから解放されるということは魔法使いをやめるということだ。

 自分が魔法使いになれた条件が三十過ぎても童貞だったからと言えば、未樹ならきっとその意味を分かってくれるに違いない。魔法使い=童貞ときたら、脱童貞となれば魔法使いではなくなる。すなわちそれはアレだ。そんなの気軽に口にするのも恥ずかしいし、ましてやお願いなんてできるわけがない。

「竜司、黙ってたらわかんないよ」

「あの、少し待って下さい」

 竜司は未樹に懇願する。

「少しって、いつまで待てばいいの?」

「ありのままの僕を本当に好きと思ってくれるまでです」

 未樹が自ら迫ってくるのを待つしかない。

「今だって十分大好きだよ」

「いえ、まだ時間が必要だと思います。その時がきたらきっとお嬢様も僕のためにと必要な、その、儀式というものをやってくれると思います」

「儀式? それって難しいの? 私にもできるかな」

「多分、大丈夫です……」

 とはいいつつ、竜司は答えに困ってしまう。

「わかった。その時、きっと力になるって約束する」

 感情極まり胸を張って竜司のためを思う未樹。その胸の膨らみに竜司は目が行ってしまう。モジモジとしながら体が熱くなっていた。未樹に大丈夫といいつつ、自分はどうなのかと考えると自信がない。

 未樹は竜司よりも年下なのにしっかりとした大人の女性だった。童貞を卒業するには未樹はいい存在になる。その時は魔法使いではなくなり、ランプからも解放される。それで本当にいいのだろうか。

 竜司は自問自答しながら、それも悪くないと心の片隅で思っていた。面倒見のいい未樹が世話をしてくれたら、一緒に暮らすのも悪くはない。自分さえ我慢すれば――。

 竜司は立場上、未樹のいいなりになっているが、未樹が優しくしてくれるとはいえ、竜司にとっては好みの顔じゃなかった。竜司はもっと童顔のかわいさを好む。要するにロリコンだ。未樹はシャープなキツイ顔つきをしている。化粧をするとそれがクールビューティに変身するのだが、すっぴんとなると少々残念に思えた。

 ただ、それなりにお金を持っており、竜司の趣味のゲーム機や好きな食べ物、その他リクエストしなくても、未樹の好みで選んだ服を買い与えられる。

 竜司のために惜しみなくお金を使う未樹は、仕えている身分なのに竜司の方が大切にされている。それは竜司にとっても都合がよく素直に好意を受け入れている。そのうちゲーム感覚に段々それに慣れてきて、未樹が何を望んでどうしてほしいか分かってくると、まるでホストにでもなったように振舞えた。劣等感の塊だった自分が変われるかもしれないと感じると、竜司は無理してでもいい男を演じようとする。

 未樹が願ったひとつ目の願いは、竜司もまたそれに相応しく行動させられた。普段の自分ではどうしていいかわからないが、あのように体験すると女性を喜ばすテクニックが身についた気にさせられた。

「お嬢様、僕の胸にどうぞ」

 竜司は腕を広げ未樹を誘う。

 未樹は火に魅入られた虫のように竜司の胸に飛び込んだ。

「僕の事をもっと好きになって下さい」

 耳元で甘く囁けば、未樹はその雰囲気に飲み込まれていった。

「ああ、竜司と一緒に旅行したいな」

「はい、仰せの通……」

「あっ、ちょっと待って。まだ今はいい。今度ね」

 安易に願い事を言えば、またすぐにどこかに飛ばされるかもしれない。それにこんな願いは竜司に叶えてもらわなくても未樹が自分で出来ることだった。

 願い事はあとふたつ。いざと言う時まで使わないようにすべきだと未樹は思った。

「ねぇ、竜司はどういうところに旅行したい?」

「そうですね、歴史ある街や景色の綺麗なところに行ってみたいです」

「それって曖昧すぎて、余計にわからないね」

 未樹にとって竜司と一緒に場所を決めるだけでも楽しいものだった。いい旅行にしたい。それには休みを取らないといけなかった。しかしそれが一番のネックだった。江角課長が簡単に有給を取らせてくれそうもない事を未樹は思案していた。

 旅行先が決まった時、特別キャンペーンでいいホテルに格安で泊まれるコースを見つけた。値段は安いが、日程がすでに迫っている。その日を逃せばかなり高くなり未樹はどうしてもそのコースを選びたかった。

 電話で問い合わせれば、一組分しか残ってなく有給が取れるかどうかも分からないのに咄嗟に予約を入れてしまう。

 きっとなんとかなると思っていたが、その日は運悪く江角課長が有給休暇を取る予定と重なってしまった。中々有給休暇が取れない雰囲気がこの会社にはあるのに、江角課長はあっさりと取り、未樹は自分が取れないことに憤りを感じていた。

 旅行はキャンセルするしかないと諦めかけた時、すでにキャンセル料が発生する時期だった。慌てて予約したのがいけなかった。竜司のために色々とお金を使って貯金を崩していたこともあり、素直にキャンセル料を支払うのを躊躇ってしまう。

「じゃあ、僕が魔法でなんとかしましょう」

 竜司が提案するが、未樹は首を横にふる。魔法をこんなことに使うのももったいない。

「大丈夫、この日は予定通り旅行に行きましょう」

「会社は無断欠勤ですか?」

「この日は田舎のお祖母ちゃんが危篤ってことにする」

 嘘をついて強行で休む。未樹はそれが簡単に出来るとこの時思っていた。


 そしてその当日。未樹は会社に電話して計画通りに嘘をついた。未樹が思っていた通り、それは仕方のないことだとあっさりと事が運んだ。この調子で未樹と竜司は旅行鞄を持って旅行へと旅立つ。

その途中で、未樹は友達の恵を見かけた。建物から慌てて出てきたところだった。今日は仕事が休みなのだろうか。だけどそんなことはどうでもよく、これはいい機会かもしれない。竜司を見せて自分も楽しい日々を送っていると見せつけたいと、しょうもないプライドに心躍らされた。

 未樹が近寄ろうとしたその時、同じように男性が建物から出てきて恵の腕を取って引き止めた。ふたりはお互いを見つめながらも複雑な心情を抱きながら何かを言い合っていた。

 未樹は驚きすぎて口をあんぐりさせていた。まず、ふたりがいる場所がラブホテルの前であり、ちょうどふたりはそこから出てきたところだった。しかもそこにいるのは江角課長であり、恵も既婚者だ。まさか不倫? そんな馬鹿な。それに恵は男だ。未樹は確かめたいとふたりに近づく。

「恵、一体何をしてるの」

「えっ、未樹」

 恵はびっくりするが、側にいた江角課長もいやなところを見られたといわんばかりに顔をしかめていた。

 未樹はふたりを交互にじろじろと見てしまう。

「お嬢様、電車の時間が」

 未樹がプレゼントした高級腕時計を見ながら竜司は小声で知らせ、未樹をこの場から遠ざけようとした。

 恵も江角課長も気が動転して未樹に出会ったことで言葉を失っている。

 よく考えたら、未樹もまた江角課長に見られては都合が悪い。自分が有給休暇をとりたかった日に、しっかりと旅行鞄を手にして竜司と一緒にいるところを見られてしまったのだ。

 だが、この場合江角課長にとっても都合が悪いのではないだろうか。未樹は頭の中で計算し自然と答えが導かれた。お互い見なかったことにすればいい。きっと江角課長も暗黙の了解で取引きしてくれるだろう。

「恵、とにかくまた今度ね」

 未樹はさりげなくその場を去ろうとすれば、江角課長が声を掛けてきた。

「会社はどうした。今日は休みじゃないだろう」

 自分の立場よりも部下の事を気にする江角課長に未樹はむっとする。

「私のことよりも、そちらの恵益男(めぐみますお)とご自身の事を気にかけてはいかがでしょうか?」

 未樹は対抗した。恵のフルネームを言うことでよく知っている仲だと強調する。

 江角課長には高校生くらいの娘がいて、もちろん既婚だ。それなのに男の恵とラブホテルから出てきて痴話喧嘩中。未樹の事を気にしている暇などないだろうに。

 しかし、江角課長は未樹に腹を立て更に怒りを募らせた。

「何を生意気に。そっちこそ会社をサボるのなら、お前は首だ」

「はっ? 自分こそ、男とラブホテルから出てきたくせに何をえらっそうに」

 未樹も普段の不満から江角課長を見下してしまう。

 未樹と江角課長がいがみ合えば、その隙をついて恵が走って逃げていく。

「おい、待て、まだ話は終わってない。くそっ!」

 江角課長はその後を追いかけた。

「何なの、恵も課長も」

 未樹は何をどう考えていいのかわからなかった。

「お嬢様、これからどうしますか。会社には嘘ついて休むことばれてしまいますね」

 未樹は考え込んだ。

「仕方がないわ。江角課長に会ってしまったからには会社に行くしかないかも。でもどうせ今から行っても遅刻なんだからもう少し遅れてもいいかもしれない。急に祖母の体調がよくなったので引き返して来ましたと言えばなんとかなるだろうし」

 旅行を諦めるのは残念でならないが、会社を首にされるよりはましだった。ブラックな職場とはいいつつ、次の仕事をすぐに探すのも大変だし、まだこの会社でこそこそと思うようにやれることもあった。

 江角課長もただイライラしていて弾みで言ったに違いない。思うようにならないといつも八つ当たりをするような人だから、気持ちが爆発した後はまた落ち着くだろう。

 やるせない思いを抱えながら、未樹は目の前のラブホテルを見上げる。スタイリッシュに街に溶け込んだお洒落なビル。予約していたホテルを思い浮かべ、それを諦めないといけないヤケクソさから気持ちを発散させたくて入ってみたいと思い始めた。

「ねぇ、竜司、ここに少し寄っていこうか?」

「えっ、ちょっと待って下さい。それって」

「こういうのって勢いが大切だと思うの」

 竜司が戸惑っている間に、未樹は腕を引っ張って中へと入っていった。

 入ればフロントで支払いをしている女性がいる。それをちらりと見た後、部屋の紹介がされているパネルから空いている部屋を探した。

 積極的になっている未樹の隣で竜司は目を見開いてドキドキしていた。そして部屋に入れば竜司は欲望に抗えなかった。

 この事がきっかけで、まだあとふたつ願い事が残っているにも関わらず、未樹は知らずと竜司を魔法のランプから解放することになってしまった――。


「と言うわけで、これがひきこもり魔法のランプの一部始終です」

 黒マントの男の話を全部聞いた佐奈は放心していた。あまりにもそれは佐奈には刺激が強すぎた。

「これって、一体何の話というのか、どうしてこんなことに」

「思うところは色々あると思います。そこは自由に感じて下さい。さてと、私はここらで失礼します。後は全てアナタで処理して下さい。よかったら、これ空ですけど、ランプもどうぞ」

 黒マントの男は佐奈にランプを押し付けた。それを手にして佐奈は渋い顔つきになっていた。

「あの、あなたは何が目的で私にこんな話を」

「別に何の目的もないです。それよりも知っておいた方がいいかもと思って」

 その時、急に黒マントの男が立ち上がった。

「おっと、またあのジャーナリストが嗅ぎつけてきた。彼に会うのはまだ早い」

 ハンチング帽を被った男がこっちに向かって走ってくる。佐奈はどこかで見たと思っている間に、黒 マントが佐奈の側でひらりと翻り、気がつくと黒マントの男が消えていた。

 驚いている暇もなく、ベンチに座っている佐奈の目の前にハンチング帽の男が立ちはだかった。少し息を切らして佐奈に問いかけた。

「お嬢さん、大丈夫かい?」

「えっ、大丈夫ですけど?」

「何か変な事をされたり、大切なものを盗まれたりとかしなかったか?」

「いえ、全くそんなことは」

 盗まれるどころか、ランプを押し付けられたと手に持っていたそれに視線を落とした。

「いや、あの男はお嬢さんを傷つけたに違いない。あいつはそういう奴なんだ」

「一体あなたは誰ですか?」

「俺は安治(あじ)(てい)()。事件の真相を暴くジャーナリストさ。あの男が関わった事件の真相を追ってるところだ」

「事件?」

「そうだ。事件さ。お嬢さんも関わっている事件だ」

「私は何も……」

「心当たりはあるはずだ。あの男から『ひきこもり魔法のランプ』の話を聞いたんだろ。あれはお嬢さんが主人公なんだから」

 そんな事はないと佐奈は言い返したかった。どこにも自分はあの物語には出ていない。だけど佐奈は物語の隠れた真相に気がついていた。

「お嬢さんはあの男の話を聞いてよかったと思うかい? あの男は何がしたかったと思う?」

 そんな事を聞かれても佐奈には分からなかった。だが心の中ではもやもやしていた。

 安治はあまり信用の置けない雰囲気を隠さず、ギラギラした野心と手段を選ばなさそうなずるがしこさが強く佐奈を見つめる目に表れていた。佐奈はそれから逃れたくて視線をそむけた。ふと見たその先のホームの向かいのベンチで、小太りの男が覇気なく座っているのが目に入る。あの小太りの男も長いこと駅のホームにいた。

「ああ、あそこに座っている太った奴もあの男の餌食になった犠牲者だ」

 ジャーナリストと名乗る安治は、すでにあの小太りの男から話を聞いている様子だった。そういえば佐奈がすれ違った時に八つ当たってきた女性と話をしていたのも安治だった。ハンチング帽で思い出した。

「あなたこそ、私にそれを訊いて一体何をしたいんですか?」

「そんなの決まってるじゃないか、真実を突き止めて記事にしたいんだよ。あの男に負けるわけにはいかない。だからお嬢さん、協力してくれないかな?」

 ニヤリとした笑みがいやらしく不快だ。

「私、何も話すことはありません」

「今のところはそうかもしれないな。とにかく、お嬢さんはあの男に少なくとも影響され、百八十度世界が変わっただろ。お嬢さんも結局は俺と思うことは同じかも。この状況を打破したいとかね」

 安治の言っていることは全くわからなかった。だけど気持ちは非常にイライラとして、何かに八つ当たらないと気がすまない。

 黒マントから聞いた話をどう思ってよかったのか分からなかったが、安治のせいで突然気持ちがかき乱されていく。

「まさかこのままで終わらせるつもりはないだろうね。見たところ世間知らずなお嬢さんみたいだし」

「あなたには関係ないでしょ」

 強く言い放った時、佐奈は無性にむかついた。

 一体自分はこの世界の何を見ているのだろう。自殺する予定だった佐奈だったが、自分の存在価値に少し目覚め、ホームの向かいの小太りの男を見つめた。そこにいるだけでイラッとするような好まれない風貌。見ているだけで気持ち悪いのに佐奈はあの男と話したくなる。あの男に罪はないけども、罪をきせたいくらいに。

 電車が到着するお知らせのメロディが流れ、やがて電車がホームに入ってきた。乗客の乗り降りで人が行き交う。佐奈は再び静かになるのを黙って待っていた。

「それじゃお嬢さん、せいぜい頑張ってな。俺はこれで失礼するよ」

 安治はいやらしい笑みを向けた後、入ってきた電車に乗り込んだ。

 佐奈は安治のことなどどうでもいいと、ベンチから立ち上がりゆっくりと歩く。行き先は向かいのホーム。あの小太りの男に会うためだ。佐奈はあの男が誰だか知っていた。

 ベンチに座っている小太りの男の前に立ち、佐奈は見下ろす。躊躇わずに男の名を呼んだ。

「桐崎竜司さんだよね」

 佐奈は演じるようにニコッと微笑み、手に持っていたランプを意味ありげに見せた。竜司は暫くそれを見つめ、これと言って何も反応を示さなかった。

 佐奈は竜司の隣に腰掛け、独り言のように呟いた。

「黒マントを羽織った男にね、『ひきこもり魔法のランプ』の話を聞いたんです。この中に竜司さんは入っていたんですよね。黒マントの男が言ってました」

 竜司は力尽いた遠い目をして黙って聞いていた。今となってはランプの部屋が懐かしい。

 未樹は成り行きながら竜司をランプから解放した。そこで竜司は童貞を捨てたことによって魔法使いの呪縛から解き放たれた。

 魔法使いだった竜司は強い魔力で自分自身の姿を無意識に変えていた。それはひきこもっているときのネットを通じて自分自身を美化していた時の姿。誰しもネットの中では自分を演じてしまう。魔法が解ければ現実の姿に戻ってしまっただけだった。それはイケメンとは程遠い、素の醜い姿。事情を知らなかった未樹は醜い竜司の真の姿に驚愕し、その直後憤った。そして竜司をあっさりと見捨ててしまった。

 その時の修羅場を竜司は思い出しながら目を潤ませた。

「もしかして、ずっと魔法使いのままでいたかったとか?」

 佐奈が訊いても竜司は答えなかった。いや、分からなかったと言う方が正しい。あのまま未樹に仕えている方がよかったのか、ランプから解放される方がよかったのか、それよりもあの場所で未樹に迫られてそれを拒むことなど竜司にはできなかった。どうにでもなれと勢いがそうさせた。その時は最高な気持ちだったことには変わりない。だけどその後はただ虚しい。それだけだ。竜司はまだ夢の続きを見ている様に佐奈に振り向いた。

「君は誰だい?」

「私は江角佐奈。あなたの妹、桐崎舞香さんのクラスメートです」

「ああ、道理で舞香と同じ制服だと思った。そっか、舞香の友達か」

「いえ、友達じゃないです。舞香さんは私を虐める意地悪な人です」

「ああ、確かに舞香は意地悪な奴だ」

 竜司の鼻の息が漏れるような微かな笑いに、兄妹の絆の薄さを佐奈は感じた。

「未樹って女性も気の強い嫌な人ですね。すれ違った時、目が合っただけで八つ当たられました。これって、あなたのせいですよね」

 陸橋で佐奈に噛み付いてきた女。あれは竜司の真の姿に絶望して逃げて来た直後に違いない。

「未樹のことも知ってるの?」

「はい、黒マントの男が教えてくれました。『ひきこもり魔法のランプ』の話に出てくる登場人物たちは私にも関係がありました。私の父や学校の担任まで出てきていました。まさかふたりがゲイだったとは知りませんでしたけど」

「複雑だね」

「そちらこそ」

 佐奈と竜司は淡々と話す。そのうち虚ろだった竜司の表情に変化が現れ、自分に構ってくれる佐奈を意識し出した。

「黒マントの男は一体何がしたかったんだろう。僕は弄ばれたのかな」

「だったとしたら、腹を立てているんですか?」

「いや、そうではないけど、よくわからなくて。結局は部屋から出ることもできたし、女性とも付き合えたし、それって救われたのかなって見方を変えたらそうも思える。そういう佐奈ちゃんもあの男と長く話してたね。そっちも何かあったの?」

 名前をちゃん付けで馴れ馴れしく呼ばれ、竜司の救われたという言葉にざわつく佐奈。

「やっぱり私たちが話しているところを見ていたんですね」

「まだこの続きがあるのかと思ってたんだ。そしたら佐奈ちゃんが僕の前に現れた」

「続き?」

 佐奈はふと考え込んだ。ジャーナリストは『ひきこもり魔法のランプ』の話が事件だと言っていた。そして主人公が佐奈とも言っていた。

「これからどうするの、佐奈ちゃんは? 学校はサボったんだろう」

 問いかける竜司は何かを期待していた。佐奈がよき理解者とでも言わんばかりにすでに心許して佐奈と仲良くなった気でいる。竜司のいう続きはどうやらハッピーエンドのようだ。

 佐奈にもそれが伝わり、腹の底でニヤリと笑う。一度死のうと思った後で荒唐無稽な話を聞いた今、馬鹿な事をしてもいいと思えてしまう。

 佐奈はベンチから立ち上がる。

「えっ、佐奈ちゃん、帰っちゃうの?」

 竜司の眉が下がった困った表情は佐奈ともう少し居たいと物語っている。竜司が食いついてくると佐奈は思っていた。竜司は歳が若い女の子が好みだ。佐奈はそれが武器になると本能で感じていた。

「帰ってほしくなかったら、引き止めてみて。上手く引き止められたら、竜司さんに付き合ってあげる」

「それじゃ、もう少し側にいてほしい」

 竜司にお願いされたにも関わらず、佐奈は言葉を無視して歩き出した。

「あっ、佐奈ちゃん、ちょっと待って」

 竜司は慌てて立ち上がり、佐奈の腕を咄嗟に掴んだ。

 そして佐奈は躊躇わず大きな声で悲鳴をあげた。駅にいた誰もが振り返り、何が起こっているか確認する。すでに空気を読んだ傍観者はスマートフォーンを掲げていた。辺りは騒然となり、佐奈を救おうとする人が集まってきていた。


 シャッターが下りた閉店後の店の前、薄明かりにぼんやりと照らされた黒マントの男は違法にその場所を陣取り、敷物を敷いた上に魔法のランプを並べて売っていた。

 ほろ酔い加減のサラリーマンや家路を急ぐ者たちがたまに前を通るが、誰も興味を示さず素通りしていく。まるで誰にも見えないかのように、存在を否定されているみたいだ。

 黒マントの男も特に声を掛けるわけでもなく、去っていく人々を気にも留めなかった。ただひとりの男を除いて。

 黒マントの男の前でハンチング帽を被った安治が足を止めた。

「よぉ、やっと会えたぜ」

「ああ、君か。待っていましたよ」

 黒マントの男はにやりと笑った。

 安治はジャケットのポケットに突っ込んでいた丸めた新聞を取り出し、それを黒マントの男に見せた。

「ここに書かれている記事を見たかい?」

「ジャーナリストの君が書いたんですか?」

「いや、俺が書いた記事は新聞には載らないさ。何せ、無名だから、誰も相手にしてくれない。書いても誰も読んでくれない。あんた以外はな」

「はいはい、わかりました。それで、新聞にはなんて書いてありますか?」

 黒マントの男は訊いた。

「佐奈のことさ。女子高生が駅のホームで変質者に執拗に追いかけられて暴行……といっても無理やり手首をつかまれたくらいだけど、そのせいで桐崎竜司は逮捕された。見ていた奴もいるし、動画も撮られて証拠もはっきりしていた」

「何か納得してないみたいですね」

「ああ、なぜそうなったかが書かれてないからね」

 安治はランプに視線を向けた。

「それじゃ君の見解を聞くとしましょう。今回はどこまで真相に迫れましたか?」

 黒マントの男の目が怪しく光った。

 安治は挑むように鋭い目を向けて対抗した。

 安治の言い分はこうだった。

 未樹はひきこもり魔法のランプを手にした後、イケメンの姿をした竜司を気に入って偶然にも竜司をランプから解放してしまう。一方で未樹は間接的に佐奈の担任と父親とも接触していた。

 それが友達の恵益男と上司の江角課長だった。ふたりはゲイだったわけだが、それが佐奈にも影響を及ぼしていた。恵と江角の関係が上手く行ってなかったために佐奈はとばっちりを受けて、担任からは私情を挟まれ冷たくあしらわれた。父親の性癖をうすうす感じていた母親との衝突が家庭崩壊に繋がって佐奈を悲しませていた。竜司もまた妹の舞香が佐奈のクラスメートで間接的に関係していた。気の強い舞香は兄に不満を持ち、そのはけ口として気の弱い佐奈が虐められていた。全てが繋がった時、佐奈はわざと竜司に自分を襲わせた。そうすることで佐奈は被害者となり、加害者が舞香の兄ということで、クラスで同情を買う事ができる。また舞香も兄の不祥事で肩身の狭い思いとなって立場が逆転してしまうことになる――。

「自殺まで考えていた佐奈だったけど、あんたの話を聞くことで救われたってわけさ。どうだ、俺の推理は正しいだろう」

 安治は自信たっぷりに言った。

「なかなかいい線いってますね。でもまだ取材が足りてませんね。いま一歩です」

「なんだよ、完璧じゃないのかよ。一体どこがおかしいんだ」

 安治は悔しがってつっけんどんになっていた。

「仕方ないですね。ではヒントを差し上げましょう。竜司のために使ったお金はどこから来たのでしょう? 佐奈の父親が有給を取ったわけは何だったのでしょう? 未樹と竜司がホテルに入った時にフロントでお金を払っていた女性は誰だったのでしょう?」

「なんだよ、それ、この事件に関係ないじゃないか」

「それがあるんです。未樹は会社でちょこちょこと以前から横領していて、懐を増やしていましたからね。佐奈の父親は自分の妻が佐奈の担任と怪しいと睨んでいて、その密会の日があの時だったから有給を取って乗り込みました。竜司と未樹がホテルに入った時、あそこで会計をしていた女性がいたはずです。あれが佐奈の母親ですよ」

「なんだって? じゃあ、佐奈の母親が担任とできていたってことか?」

「それも違います」

「はあ? 一体何がどうなってるんだ?」

 訳がわからないと安治は顔をゆがめていた。

 黒マントの男はやれやれという気持ちで語り始める。

「母親は佐奈がクラスで問題を抱え、担任とも上手く行ってない事を知っていました。そこでなんとかならないかと担任を誘惑して懐柔させようとしたのです。自分がもてると思っている恵は保護者であっても来るもの拒まずでした。そういう噂もあったのです。ちょうど学校の行事がある日は恵が抜け出すにはいいタイミングでした。その時に佐奈の母親とホテルで待ち合わせして会ったのです。一方で、父親の方は会社でお金の計算が合わない問題で責任を取らされようとしていました。仕事が上手く行かないことで妻に八つ当たり、それが喧嘩の元になっていたということです。佐奈の母は、夫への腹いせもあって計画したのです。担任と密会する日の証拠をわざと残し、夫が証拠を掴もうと現れたところで、娘が担任に酷い扱いをされていたことを話して、話し合いと称されて担任から仕方なく誘惑されたという方向に持っていきました。恵は自分が利用されて面倒なことになると悟ってホテルから逃げたときに未樹とかち合ってしまったのです」

「なんだよ、そのこじつけた理由は」

「そこまで裏がある事を読めなかったのはジャーナリスト失格ですね」

「そんなのわかるか」

「でもヒントはありましたよ」

「ヒントじゃなく引っ掛けだろ」

「そうとも言うかもしれません。恵という名前では女と思い込み、男ふたりがホテルから出てくればゲイという思い込み、人は勝手に憶測で判断してしまいがちですからね」

 黒マントの男はにやりと笑い、安治は不機嫌さを隠そうともせず「ちぇっ」と言った。

「それじゃ、その後の佐奈はどうしましたか?」

「どうもこうも、警察沙汰になった後、母親が迎えに来て大いに泣き叫んでたよ。後から自分の罪に怖くなったんだろうな」

「それも違います。母の教えが正しいとわかった安堵の涙です。母親から言われた『強かさは防御』の意味がわかったのです」

「はっ?」

 安治は混乱していた。

 黒マントの男はニヤリと笑った。

「他の圧力に屈することなく自分を守る。ずる賢くなるというダブルミーニングもあるのでしょう。佐奈は強かになって自分を守ったのです。強くなれたんです。そうじゃなければ自殺していたかもしれませんでした。それで母に会えて気が緩んで泣いたんですね。一気に浄化されたんです。そこまで読めないとはまだまだですね」

 黒マントの男の指摘に安治は苦虫を噛んだ顔つきになっていた。

「これって母親が一番の策士じゃないか。仕掛けた本人以外、そんなの分かるか。だけどさ、一体いつもあんたはそうやって何をしたいんだ」

「別に大した意味はありません。でも、混乱の中に一筋の希望があるのかは確かめたいですね。見方によれば状況はいつも変わりますから。そうやって佐奈さんは苦境から希望を見つけた人でした」

「何が希望を見つけた人だ。あんたは毎回色んな奴に会って世間を引っ掻き回してるくせに」

「引っ掻き回しているのはあなたも同類ですよ。真実を追いながら相手を煽る……」

 黒マントの男はため息を吐いた。どこからともなく取り出した小さな機械のボタンを押した。

「何で俺だよ……、俺は、ただ取材を……」

 安治の声がスローになったかと思うと、動きが完全に止まってしまった。

「あなたの名前は安治偵人。英語にすればagitate。引っ掻き回して扇動しているのは名前のごとくあなたですけどね。まあ、今回はこの辺にしておきましょう」

 黒マントの男は動かなくなった安治を見つめながらニヤリと微笑む。

「しかし、あなたを作ったのは私です。あなたがいるから私が引き立つ。私の名前もケィオス(CHAOS)ですから。日本語では別の発音になってますけど」

 黒マントの男、ケィオスはランプを片付け出した。布に包んだランプと動きが止まってしまった安治を両脇に抱え歩き出す。

「さて、次は何をしましょうか」

 雲に隠れていた月が顔を出したところで、月明かりの冷たい光が通りの店のガラス窓に反射した。ガラス窓を見つめ、そこに映し出された自分のシルエットにアイデアが閃いた。

「今度は『自分語り魔法の鏡』でも売りましょうかね。世の中は誰も聞いてなくても自分を語りたくなる人はたくさんいるものです。そこから繋がる何かがまた生まれる。この世は常に混乱状態なのですから。イヒヒヒ」

 建物の路地の間に置いていたゴミ箱を見つけ、飽きてしまった魔法のランプをガラガラと音を立てながらそこに捨てる。そして次の獲物を探しにケィオスはマントを翻し、小脇に抱えた安治と夜の闇へと消えていく。その時、夜空には星がチロチロと瞬いていた。




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