35「竜の子供を救出しました」②
地下から外に戻ったサムたちを出迎えてくれたのは、魔法軍と騎士団、そしてクライド国王だった。
「サミュエル、ギュンターよ、すべて終わったようだな」
「――国王様」
「国王陛下」
サムとギュンターが揃って膝をつく。
「よい、畏るな。そなたたちは功労者だ、立ちなさい」
「はい」
「ありがとうございます」
ふたりが立ち上がったことを確認すると、国王は子竜を連れた灼熱竜の前に立ち深々と頭を下げた。
「灼熱竜殿、改めて謝罪致します。申し訳なかった」
「もういい。我が子たちは皆無事だ。サムたちも尽力してくれた。ならばこれ以上、事を荒立てるつもりはない」
「そう言ってくださると助かります」
明らかに安堵した様子の国王。
竜の脅威がスカイ王国に迫らないことを確認できたのだから、無理もない。
「それで、貴方はこれからどうするのですかな?」
「……サムとの戦いで負った傷を癒すため、どこか安心して暮らすことのできる場所に子供たちと移動するつもりだ」
「ごめんね」
「いや、言い方が悪かったな。我も貴様を傷つけた、気にすることはない」
灼熱竜の言葉にサムが謝るが、苦笑されてしまう。
「どこか当てはあるのですか?」
「ない。だが、世界は広い。どこかに安住の地はあるだろう」
「おいおい、それって、当てもなく世界をふらつくってことか?」
「そういうことだ。我では立ち入れない場所もあるので、限られてはいるが、どこか人のいない静かな場所で数年は過ごしたい。その間に、子供たちも大きくなるだろう」
「灼熱竜殿、ならば余に提案があります」
「提案だと?」
「我が国の領土に、それこそここ王都からそう遠くない場所に、人の手が入っていない山脈があります。そこにお住まいになってはいかがか?」
「どういう意味だ?」
「その土地を貴方に差し上げましょう」
クライドの言葉に、竜は目を丸くした。
「――正気か? 我らを、竜を、この国に住まわせるつもりか?」
「我々スカイ王国は灼熱竜殿たちとよい関係を築きたい。きっかけこそ我らの不始末ではありましたが、これから関係が修復していくことを余は望んでいます」
「…………」
「警戒する気持ちもわかりますので、返答はすぐにではなくても構いません。ですが、せめて怪我の手当てをさせていただきたい。この国には回復魔法に優れた魔法使いがいます。ぜひその者に手当てをさせてもらえませぬかな?」
「……わかった。貴様の申し出に感謝する」
住まいの提供こそ返事をしなかった竜だが、怪我の手当てには承諾し礼を言った。
彼女にとっても、傷を癒してもらえるのはいいことだ。
国王が申し出てくれなければ、サムが進言しようと考えていたくらいだった。
「では、手配を。――おっと、それまではどこかに滞在してもらわなければならぬな。ウォーカー伯爵!」
「はっ、ここに!」
魔法軍たちの先頭に立っていたジョナサン・ウォーカーが、国王に名を呼ばれて、一歩前に出た。
「そなたの屋敷で灼熱竜殿と、その子供たちを預かってもらいたい。構わぬか?」
「か、かしこまりました!」
構わぬか、と聞いているが、実質拒否権はない。
ウォーカー伯爵は引きつった声を承諾した。
(――旦那様、めっちゃ顔が引きつってます。いや、無理もないですけど)
天災と言われる竜とその子供を屋敷で預かるなど、ウォーカー伯爵家始まって以来の大事件なはずだ。
きっと、サムがウォーカー伯爵家に世話になっているから滞在先に選ばれたというのもあるだろう。
「サムよ、そなたの傷も完治させなければな。灼熱竜殿と一緒に治療してもらうのだぞ」
「お心遣いありがとうございます」
「後日、そなたとは改めて会いたい。構わぬか?」
「もちろんです」
「近いうちに使いを出そう。それまでは、灼熱竜殿たちのことをよろしく頼む」
「承知しました」
こうして灼熱竜とその子供たちは、ウォーカー伯爵家預かりとなった。
サムの視界の端で、伯爵が胃のあたりを押さえて引きつった顔をしているが、きっと気のせいだろう。
アルバートとの決闘から始まった一連の出来事に終わりが訪れたことに、サムはようやく肩の力を抜くことができたのだった。
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