33「竜の子供を取り戻します」④
「そうよ! アルバート! わたくしたちにはアルバートがついているわ! 王国最強の魔法使いを敵にして、生きていられると思っているのっ!?」
立っているのは自分だけにも関わらず、胸を張って自信満々にできるのも、アルバートという王国最強の戦力を当てにしているからだろう。
だが、それはもう過去の話だ。
アルバート・フレイジュというかつて最強だった魔法使いは、もう塵さえ残っていない。
「……まあ、知らないのも無理はないけど。あのさ、おばさん。もうアルバートはいないよ」
「は? なにを言って」
「俺がさっき殺したんだ」
サムの言葉を聞き、夫人は甲高い声で笑い始めた。
「ふっ、ふふっ、おほほほほほほほほっ! なにを馬鹿なことを! お前のような子供が、アルバートを殺したですって? そんな迷いごとを誰が信じるものですか!」
まだ未成年のサムがアルバートに勝利したなどと夫人は微塵も思わないらしい。
サムとしては、丁寧に説明するつもりはない。
一応、違法売買に関わっているのか聞いてみたが、反応を見る限り黒だ。
あとの取り調べは国の人間がすればいい。
(面倒だから黙らせよう。あまり好き勝手に騒がせておくと、イラついている灼熱竜がキレそうだし)
子供を救出するために、自分勝手に動かない灼熱竜だが、侯爵夫人の振る舞いと甲高い声に眉間のシワを深くしていた。
子供の居場所も把握できているのに無駄な足止めを食らっていることをよく思っていないのだろう。
これ以上、彼女の神経を逆撫でして暴れられても困る。
サムは嘆息し、拳で黙らせようとする。
「ご婦人、そろそろ僕に気付いたらどうかな?」
すると、サムと夫人の間にギュンターが割って入った。
「おい、ギュンター」
「まあ、任せたまえ」
「え? ギュンター? まさか」
ギュンターの名前に聞き覚えがあったのか、夫人が真っ直ぐに彼を見つめた。
次の瞬間、夫人の顔色がみるみる青くなっていく。
「――あ、あなたはギュンター・イグナーツ? 公爵家の問題児で、宮廷魔法使いの? あのギュンターがなぜ?」
「問題児扱いは心外だが、まあ今はいいとしておこう。さて、ご婦人、なぜかと問われたら答えはひとつさ。宮廷魔法使いとして、国王陛下の御命令を受けて悪党を取り締まりにきたのだよ」
「陛下の命令ですって!? アルバートは? アルバートはなにをしていたというの!」
「ご婦人はご存知ないのかな? 彼は今日決闘だったということを」
ギュンターの問いかけに、夫人はハッとした。
「そ、そうよ、アルバートがウォーカー伯爵家が世話をしている子供と決闘って」
「その決闘相手が彼、サミュエル・シャイトさ」
「え? 嘘? じゃあ、本当に?」
「アルバート・フレイジュは亡くなった。実に、宮廷魔法使いに相応しくない最期だったよ」
「…………」
「さて、アルバートが亡くなったことを理解していただけたとして、それでご婦人はどうする? 倒れている兵士たちを起こして、宮廷魔法使いの僕と、最強の座を手に入れたサムと戦うのかな? 言っておくけど、その場合は命の保証はしないよ」
夫人は、その場に膝をついた。
「こ、降参するから殺さないで! 悪いのは夫とアルバートよ! わたくしは、見て見ぬふりをしていただけよ!」
「では、ゴードン侯爵の悪事を然るべき場所で証言してくれるかな?」
「もちろんするわ! だから、命だけは!」
「いいだろう。さて、ご婦人、屋敷の外を見てごらん。国王陛下のご命令を受けたのは僕たちだけじゃない」
屋敷の外に目を向けると、そこには魔法軍と騎士団がいた。
言うまでもなく、夫人をはじめ悪事に関わるものたちを拘束しにきたのだ。
「おい、ギュンター。お前、時間稼ぎしただろ?」
「魔法軍と騎士団にも手柄をわけないとね。僕たちだけですべて解決してしまうと、あとでやっかまれるよ」
「そんなことどうでもいいよ」
「そういうところまでウルリーケに似ているんだね。彼女は、配慮と言うものが欠けていた。まあ、そこがいいんだし、傲慢なウルリーケにもゾクゾクするけどね」
「お前なぁ……もういいや。さて、と。このおばさんたちを魔法軍に任せることができるのなら、俺たちは竜の子供たちを早く救出しよう」
「――ようやくか」
「待たせて、ごめん」
「人間とは面倒だ。すべて焼き払ってしまえばいいものを」
忌々しいとばかりに眉を潜める灼熱竜。
子供たちを助けたい気持ちを押さえ、人間側の行動に理解を示してくれたことに感謝しかない。
「今度はもう誰が出てきても強行突破だ! 行くぞ!」
「ああ、無論だ!」
三人は、屋敷の裏手にある建物に一直線に向かう。
そして、その建物の地下で、鎖に繋がれた竜の子供たちを発見した。
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