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30「竜の子供を取り戻します」①




 満身創痍のサムと灼熱竜は、休戦を約束すると、空路でスカイ王国王都の手前に降り立った。

 実を言うと、サムは当初、休戦の約束をしたものの、竜が王都に入った瞬間暴れるのではないかと不安だったのだが、「我は人間と違う! 約束を違えたりせぬ!」と激怒されたので信じることにした。

 もし、彼女の怒りが演技だったら、間違いなく人間不信になるだろう。


「ギュンター! ギュンター・イグナーツ!」


 王都の入り口で、街全体に結界を覆っているはずの術者の名前を呼ぶ。

 知り合いの中で、一番害が及んでも問題なさそうな男の名前を呼ぶと、一分もしない内に全力で走ってきた。

 ギュンターは当初笑顔だったのだが、血と泥に塗れているサムの姿を見ると、顔を蒼白にして膝をつき、天を仰いだ。


「ああ、ああっ、そんな! 僕のかわいいサムがこんなことに……やはり竜とひとりで戦わせるんじゃなかった! 神よ、なぜサムにこのような試練を科すのですか! やはり僕も行くべきだった、いや、それよりもまず手当だ。傷が化膿しないように僕の舌で」

「……相変わらず絶好調だなあんた……待って、やめろ、おい、やーめーろー! なんで舐めようとするんだよ! おい、こら、舌を伸ばしてくるんじゃない! 逆に膿むだろ!」

「――産む? 君が、僕の子を?」

「お前の耳、腐ってんじゃねえの!?」


 呼ぶ人間を間違えた、と心底後悔する。

 だが、ウォーカー伯爵家の人たちをいきなり竜と会わせるのは躊躇いがあった。

 竜を信じていたのではなく、あまりみんなに負担をかけたくなかったのだ。


「……なんだこの変態は」


 その結果、竜からも変態扱いされてしまうギュンター。

 サムは怪我を負っていないはずの頭が痛くなった。


「この国の宮廷魔法使いです。そして、公爵家の跡取りです」

「……こんなのが貴族とは、この国は我が滅ぼすまでもなく、近い将来に滅びを迎えるだろうな」

「だよね。――じゃなくて、ギュンター! ほら、まじめに話をするぞ! 頼むよ!」

「そうだったね。僕としたことがつい、冷静さを欠いてしまってしまった。恥ずかしいよ」


(お前はいつでも恥ずかしいだろ!)


 内心、言ってやりたいことは山のようにあったが、話が進まないので噛み殺す。


「紹介するよ。彼女は人化しているけど、灼熱竜だ」

「――っ、恐ろしいほどの存在感と魔力を感じると思っていたけど、まさか竜だとはね。君が戦っていたはずの赤竜だと考えていいんだね?」


 どうやらギュンターは、ふざけているようでちゃんと灼熱竜に気付いていたようだった。

 サムは頷き、肯定する。


「ああ、さっきまで戦ってた竜だ」

「よくわからないのだけど、なぜその戦ってた相手と一緒に王都に? ふたりの様子を窺う限り、本気で戦ったように見えるんだが?」

「この竜には王都を襲う十分すぎる理由があったんだよ」

「理由?」

「どうやら子供をアルバート・フレイジュとその仲間たちによって攫われたらしいんだ。それで、助けにきたところを俺と戦うことになったってこと」

「――なんてことを」


 ギュンターが絶句する。

 無理もないことだ。

 竜の子供に手を出すのは大陸法で禁止されている。

 大陸法によって罰せられる以前に、竜によって報復を受けるに十分すぎることをしでかしている。


 実際、サムが戦わなければ事情を知らないまま王都ごと焼き払われていた可能性がある。

 スカイ王国も抵抗しただろうが、その抵抗がどこまで通じたのかわからない。

 なによりも、極一部の欲に塗れた人間のせいで、ひとつの国が滅ぶなどあってはならない。

 しかも首謀者はすでに死んでいるという、まったく笑えない状況だった。


「アルバートなら確かにやりかねないね。奴には悪い噂がいくつかあるんだけどね、そのひとつが後ろ盾となっている貴族と一緒になって、魔物や幻想種を捕まえて好事家などに違法に売り捌いているらしい」

「本当に馬鹿な男だな」

「同感だ。まあ、火力だけは国で一番の実力だったから、裏ビジネスとして成り立っていたのかもしれないが、まさか竜に手を出すなんて……愚かとしか言えない」


 大きく嘆息したギュンターは、サムと竜を交互に見てから尋ねた。


「これからどうするつもりなのかな?」

「子供のだいたいの居場所はわかっているらしい。だけど、勝手に取り戻そうとして暴れたらまた問題になるだろ。だから国王様に事情をお伝えして、許可をもらった上で動きたいんだ。あと人員を貸してもらいたい」

「貴族と揉める可能性がある以上、国王陛下の許可をいただくのはいい考えだ。魔法軍も、竜と戦うことを考えれば、犯罪者の制圧の方がよほど楽だろうね」

「国王様にお前から伝えてくれないか?」

「任せたまえ」

「あと、結界を解いてくれ。中に入れない」

「おっと、そうだったね。君たちなら無理やり入ってくることもできるだろうが、そんなことをされたら僕たちが動けなくなってしまうからね」


 ギュンターが指を鳴らすと、王都の入り口だけ結界が解かれる。

 サムと竜は、王都の中に足を踏み入れる。


「国王陛下も許可する以外ないだろう。竜と事を構える事を考えたら協力するほうがいいだろうしね」

「できるだけ早く頼む。この人だって早く子供を助けたくてしょうがないんだ」

「わかっている。レディ。もうしばらくのご辛抱を」


 恭しくギュンターが灼熱竜に一礼する。


「では、サム、僕は一足先に王宮に戻ろう。君たちは後から来てくれ」

「わかった。灼熱竜もそれでいいよね?」

「かまわぬ。子供たちが王宮の方角にいる。だが、早くしろ」

「だ、そうだよ、ギュンター」

「任せたまえ。僕のサムへの愛の力を持ってすれば、国王陛下を殴ってでも首を縦に振らせて許可を得てみせるよ!」

「おい、こら」

「では!」


 ぶっそうなことを言いながら、ギュンターは王宮に走っていく。

 結界術に魔力も体力も奪われているはずが、どこにそんな気力があるのかあっという間に彼の姿は見えなくなった。

 はぁ、とため息をつくサムは、灼熱竜に声をかける。


「もう少しの辛抱だ。早く子供たちを助けられるといいな」

「――お前は変わった人間だな」

「そうかな?」

「そうだ。まあ、いい。約束通り、私は許可があるまでは暴れない。だが、それにも我慢の限界があることを覚えておけ」

「わかっているよ。じゃあ、王宮に向かおう」

「うむ」


 そしてふたりは王宮に向かって歩き始めるのだった。




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― 新着の感想 ―
[一言]  とりあえず。  ……竜にまで認められる変態(;´Д`)。  後は、魔王様にもドン引きされれば完璧ですね(?)。
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