21「最強を賭けた決闘です」①
――一週間後。
サムは王宮にいた。
「よくぞ集まった! 今日は、我が国最強の座を賭けた戦いが行われる!」
スカイ王国国王クライド・アイル・スカイのよく通る声が、王宮内にある魔法軍の訓練場に響き渡る。
クライド国王は、青みのかかった銀髪を伸ばした四十代半ばの男性だった。
近寄りがたい厳しさを持つ印象があり、あまり親しみやすさはない。
そんな国王だが、善政を敷き民のことを常に考えてくれることから、国民からの人気は高い。
「我が国最強の魔法使いアルバート・フレイジュに挑むのは、驚くことにまだ若き少年サミュエル・シャイトだ」
急遽造られた王族用の観覧席から、国王が決闘を見るために集まった一同を見渡す。
誰もが国王に最大の礼をしたまま声を聞いていた。
サムたちも例外ではなく、訓練場に備わる四角いリングの上で、アルバートと共に膝を着き頭を垂れていた。
この場には、国王をはじめ王族や、公爵家をはじめとする貴族が集まっている。
その他にも、騎士団員や魔法軍の面々も決闘を一目見ようと多くいた。
そして、もちろん宮廷魔法使いも全員ではないがいる。
彼らだけではなく、王宮で働く文官やメイドたちも、建物の窓や遠巻きから決闘を見守っていた。
もちろん、サムを応援すべく足を運んできてくれたウォーカー伯爵家の人たちもいる。
魔法軍副団長のジョナサンはもちろんのこと、彼の妻のグレイスをはじめ、次女リーゼ、三女アリシア、四女エリカが正装をして貴族席にいた。
その隣には、元宮廷魔法使いだったデライト・シナトラとその娘であるフランもいる。
長年、屋敷に引きこもり酒浸りになっていたデライトの登城は、かつての同僚たちをはじめ事情を知る人間を大いに驚かせてもいた。
「アルバート、面を上げよ」
「――はっ」
国王の言葉に従い、アルバートが顔を上げる。
彼の瞳にはこれからはじまる決闘への闘志がギラギラと宿っていた。
すでに魔力が威圧するように高まっている。
「最強の名にふさわしい戦いを期待している」
「もちろんです」
短くも、自信にあふれるアルバートの返答に、クライド国王は満足そうに頷く。
そして、王は視線を横にずらす。
「サミュエルよ」
「はい」
雲の上の存在とも言える国王に名を呼ばれても、サムは冷静に返事をした。
「若きそなたが最強に挑む姿を、しかと見届けさせてもらおう」
「ご期待にお応え致します」
「うむ。では、前置きはこのくらいにしておこう。素晴らしい戦いになることを期待している!」
国王が声高々にそう言い、頷くと、審判役の人間がリングの上に登った。
鍛えられた体を藍色の軍服に身を包んだ四十代手前ほどの男性だった。
「審判は、国立魔法軍隊長であるリュード・オルセルフが務める! さあ、決闘の時間だ。両者、立ち上がれ!」
リュードの声に、サムとアルバートが立ち上がった。
両者の視線が合う。
サムは落ち着いた様子だが、対するアルバートは顔を歪めて獰猛に笑みを浮かべていた。
「ガキが後悔してももう遅ぇぞ? てめーはこれから俺に遊ばれて無様に死ぬんだからなぁ」
「アルバート! 私語は慎め!」
「おいおい、だが、事実だろ? この決闘じゃガキを殺しても咎められねぇ。生意気に俺様に楯突きやがったクソガキの末路なんて誰もがわかっているはずだ」
いやらしい笑みを浮かべて挑発するアルバートだが、サムは顔色を変えずに無視している。
相手にするだけ無駄だとわかっているからだ。
「だが、俺も悪魔じゃねえ。最期の言葉くらい残させてやるよ。てめぇが死ぬのを見守ってる伯爵家の奴らに挨拶する時間をやってもいいんだぜ?」
「アルバート、いい加減にしろ! ……サミュエル・シャイト、アルバートの提案に賛成するわけではないが、この決闘では命のやり取りが認められている。もし、棄権したいのなら今が最後のチャンスだ。決闘が始まれば、誰も君を守れない」
「お気遣いありがとうございます。ですが、なにも問題ありません」
リュードの気遣いには感謝するサムだが、恐れていないとばかりにアルバートに笑みを浮かべて見せる。
それが気に障ったのだろう、アルバートの顔が不愉快に歪んだ。
「本当にいいんだな? ならば、俺からはもうなにも言わん」
「馬鹿なガキだぜ。最強の魔法をたっぷりと味合わせてやるよ。おもしれえことに、ここには負け犬のデライトとフランチェスカまで来ていやがるじゃねえか。てめーの首を土産にして、フランチェスカを俺の女にしてやるよ」
「言葉を慎めと言っているだろう、アルバート!」
「へいへい。ま、とっとと始めようぜ」
注意されるアルバートは反省の色も見せない。
自分の勝利を疑っていないのはわかりきっていた。
「サミュエル、決闘を始める。いいな?」
「もちろんです。お願いします」
「ではスカイ王国最強の魔法使いの座を賭けた決闘を始める! 両者、構え!」
これから決闘を始めることに恐怖などあるはずがなかった。
サムの心に宿るものは、ようやく一歩を踏み出せるという喜びだけ。
サムも自らの勝利を疑っていなかった。
傲慢かもしれないが、ウルという最高の師匠に鍛えられた四年は、サムに大きな自信を与えてくれたのだ。
「――始め!」
リュードの声が大きく響く。
観客たちが固唾を呑んだ。
刹那、喉からこれでもかとアルバートが声を張り上げる。
「おらぁああああああああっ、俺が最強と謳われる所以をたっぷりと見せつけてやるぜぇええええええっ! これが俺の――」
魔力を限界まで高め、魔法を解き放とうとするアルバート。
遠巻きにしている観客たちにもはっきりわかるほど、高濃度の魔力が吹き荒れる。
そんなアルバートに、
「スキル解放――キリサクモノ」
サムは静かに右腕を横に一閃した。
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