53「人魚さんを領地に誘いました」①
サミュエル・シャイトはウキウキしていた。
異世界に転生し、大変なこともあった。人を愛し、別れ、辛い経験もした。
愛する家族と出会い、子供もこれから生まれてくる。
そろそろ落ち着くときが来たのかと思っていた。だから、領地を拝領し、婚約者に丸投げしようと思ったが、協力して領地を良いものにしようと決めた。
――だが、異世界はまだサムをワクワクさせてくれる。
転生前の日本では存在そのものが架空とされていた、河童、竜、魔族、魔王と出会った。
サム自身も魔法を使い、戦い、多くの経験をした。
だがしかし、河童と人魚までいるとは思わなかった。
「怖いっぺ! あの子、めちゃんこ怖い目で私のこと見てるっぺ。きっと剥製にされるっぺよ。いいや、燻製にされちまうっぺ!」
人魚と半魚人と出会った翌日。
サムたちは改めて、港にきていた。
目的は言うまでもなく、人魚と南の海の人魚を統べる半魚人と話をするためだ。
「ははははは、人魚様にそんな失礼なことをするわけがありません!」
「目が笑ってねーっぺ! せめて瞬きをしてほしいっぺよ!」
話をすると言っても、テーブル等を準備したわけではなく、人魚と半魚人は海に、サムたちは地面に腰を下ろして話をしていた。
「サミュエル様、お話が進まないのですが」
「ごめんごめん。人魚様に拝謁できて感動が隠せなくて」
「……気持ちは理解できますが、人の目もありますので程々にお願いしますわ」
「うん」
「では、お話を進ましょう。バルト様、アプル様」
サムがおとなしくなると、咳払いをしたオフェーリアが話を始めた。
「まず、改めまして、シャイト伯爵領の民のために手助けしてくださったことお礼申し上げます」
「どうもありがとうございました」
オフェーリア、サムだけではなく、近くにいた領民たちも半魚人と人魚に頭を下げる。
とくに町長ガインと漁師のまとめ役ロックスは涙を浮かべて感謝している。それだけバルトとアプルたちに助けられてきたのだとわかった。
「お礼はいいのねん。海で困っている誰かを見つけたら助けるのは当たり前のことなのねん」
「父ちゃ……おほん、父の言う通り、私たち人魚は海で困っている方々を見捨てません。私たちが魔族で、あなた方が人間だったとしても変わりないのです。種族など、海では些細な違いなのですから」
半魚人と人魚は迷うことなくはっきりと言った。
彼らがこの町の人間とうまくやっていけている理由は、高潔だからだろう。
人間だから、魔族だから、と気にせず、困っている人は助けることを当たり前にできる彼らを尊敬する。そして、同じように魔族の彼らを受け入れることができた町民たちも尊敬できた。
「お礼をしたいのですが、バルト様たちのお住まいはどこにあるのでしょうか?」
金銭的なお礼をするとしても、人間の通貨を渡しても仕方がない。
彼らは礼はいらないと言ってくれたが、礼をする側が、はいそうですか、とは言えないのだ。
「僕たちに国はないのねん」
「私たち人魚は海に住まう一族です。海が国であり故郷であります」
「……そうでしたか」
「実は、君たちにお願いがあるのねん」
半魚人バルトの「お願い」にサムとオフェーリア、そして町長たちが耳を傾けた。
「ドワーフたちを領民として迎えると聞いたのねん? それは本当かなん?」
「はい。ドワーフたちを受け入れる準備はできています」
「ガロンさんたちがいなかったら、この町もやばかっただろうし、感謝しかないんです。だから、蒸留所に隠れているんじゃなくて、この町でちゃんと住人としてみんなと生活してほしいって思います」
「素敵なのねん。サム少年ん。ううん、サミュエル・シャイト領主どの、オフェーリアどの、お願いがあるのねん。どうか、僕たち人魚もこの領地に迎えていただきたいのねん」
バルトの願いに、サムとオフェーリアが目を見開いた。
だが、次の瞬間、迷うことなくふたりで頷く。
「実は、こっちから打診しようと思っていたんです」
「人魚の国があるかどうか不明でしたので、もしなければ、ぜひと考えていました」
サムとオフェーリアは事前に人魚たちを領民として迎える話をしていた。
もちろん、国があるのなら無理にできないし、誘ったら失礼になる。
だが、人魚たちが国を持たず、海で生活しているだけなのなら、ぜひ領地に招きたかったのだ。
「ありがとうなのねん。これからよろしくお願いしたいのねん」
握手を求めてきたバルトの手をサムが握る。
ねちょっとしたが、彼の手は海にいたとは思えないほど温かかった。
「これからよろしくです!」
「良い関係を築くために、ぜひアプルを嫁にもらってほしいのねん」
「――は?」
聞こえないふりをしたかったが、できなかった。
人魚さん関連で一波乱ある。
サムは確信した。
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