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18「デライト様と訓練です」




「――う、嘘、だろ?」


 シナトラ家の中庭。

 使われなくなって久しい訓練場に立ったデライト・シナトラは、まだ成人も迎えていない弟子の忘形見の実力を目の当たりにして、驚きを隠せずにいた。


「どうですか?」

「……あ、ああ、てめぇにそれだけの実力があれば、アルバートの野郎を前にしてビビらねぇのも頷けるぜ」

「ありがとうございます」


 サムは、朝食の席でジョナサンからアルバートとの決闘が国に認められて、一週間後に国王の御前で行われることを知った。

 驚きはしたが、不安はなかった。

 ただ、リーゼをはじめ、エリカやアリシアがサムの身を案じてくれたのは嬉しかった。

 そんな彼女たちに「心配要りませんよ」と言っていると、フランチェスカから使い魔が飛んできた。


 彼女は父親の代理で、サムに「決闘が決まったのなら、すぐに来い」とデライトが言っていることを教えてくれた。

 断る理由もないので、朝食を済ませたサムはそのままシナトラ家に向かったのだ。

 そして、挨拶もそこそこにサムの実力をデライトが確認することになり、現在に至る。


「ギュンターと戦った話を聞いてどこかおかしいと思っていたんだが、納得できたぜ。ウルも随分と偏った弟子の育てかたをしやがる」

「どちらかというと、ウルではなく、スキルのせいなんですがね」

「てめぇも難儀なことだな。剣がまるで使えねえのに切ることに特化したスキルとは、よほど神様はてめぇのことが嫌いなんだろうさ」

「ですが、俺は神が存在するなら心から感謝しますよ」

「あ?」

「だって、俺にウルと出会わせてくれましたから」


 この世界に神がいるかどうかわからない。

 異世界転生したときでさえ、神に会ったことがないのだから、その存在を疑いもしている。

 だが、もし、神がどこかにいるとして、自分の運命に介入していたというのなら、ウルと出会わせてくれたことだけは心から感謝したい。


 ウルと出会ったことで、サムは新しい世界を開くことができた。

 彼女と過ごした四年の月日は、掛け替えのない宝物となった。

 ウルが亡くなったことは残念であり、悲しすぎることだが、彼女の家族に暖かく迎えてもらうことができた。

 そして、今は、ウルの師匠と共にいる。


「はっ、てめぇもギュンター予備軍かよ」

「あれと一緒にしないでください」


 いくらデライトの言葉でも、聞き逃せなかった。

 ギュンターの結界術は素晴らしいの一言だが、あの変態さと執着心を持つ青年と一緒にされるのはごめんだ。


(俺は変態じゃないし)


「まさかとは思うが、てめぇもウルの下着を隠し持ってねえだろうな?」

「…………」

「…………おい」

「違います、誤解です。俺が持っているのは、ウルが冒険中に使っていた私物すべてです!」

「――そのほうがやばくねぇか?」

「そうじゃなくて! アイテムボックスごと受け継いだので、ウルの私物もそのまま受け取ってしまったってことですよ!」


 よく考えれば、ご家族に渡すべきだった。

 私物といっても、衣類や食器、彼女の読んでいた本などばかりだから、すっかり忘れていたのだ。


「まあ、そういうことにしておいてやる。さて、話をてめぇのことに戻すが、残念だが、俺が教えてやれることはねぇ。悔しいが、てめぇのほうが俺よりも強い」

「……デライト様」


 まさか彼に、実力が上だと認めてもらえるとは思いもしなかった。

 喜びよりも困惑の方が大きい。

 戸惑うサムに、デライトは続ける。


「経験もかなりある。ウルと各地を転々としながら修行していたのは、てめぇを鍛えるのにいい経験になったんだろう。そんなてめぇに、今はリーゼロッテが体術を教えているのもいい。だから、だ。俺にしてやれることはひとつだけだ」

「ひとつ、ですか?」

「構えろ、サム。飲んだくれの俺が、今から全力でてめぇを殺しにいく」


 デライトから凄まじい殺気が放たれ、サムは思わず身構えた。


「それでいい。魔法を教えてやることはできねえが、これから一週間、嫌になる程対人戦に付き合ってやる。――いくぞ!」


 デライトから魔力が立ち昇る。

 彼が身体強化魔法を使ったことがすぐにわかった。

 ずっと飲んだくれていたとは思えないほど、自然に身体を強化したことに技術の洗練さを垣間見た。

 サムは歓喜する。

 これほどの人と手合わせできるなど、そうそうないことだ。

 にぃ、と唇を釣り上げ、闘争心を高めると大きな声を張り上げた。


「――よろしくお願いします!」


 次の瞬間、サムとデライトが渾身の力を持って激突した。




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― 新着の感想 ―
[良い点] つまり、サムはウルとギュンターのハイブリットってことだな
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