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7「一年後」




 ――一年後。




 ラインバッハ男爵領の小さな町に、ひとりの少年がいた。

 彼の名は、サミュエル・ラインバッハ。

 ラインバッハ男爵家の長男だ。

 しかし、彼は家族から『無能者』として不遇な扱いを受けている。

 とてもじゃないが、貴族の長男としての扱いを受けておらず、そのことはラインバッハ男爵領に住まう領民ならば誰でも知っていた。


 しかし、領民でサムを馬鹿にするものは少ない。

 むしろ、サムは領民たちから慕われていた。

 その理由は――十歳という幼い少年の、左右の腕に握られているワイルドベア二体だ。

 サムは、小柄な身体の倍以上もある、モンスターをたった一人で運んでいる最中だった。


 ワイルドベアは、男爵領にある森に生息し、人を襲うことはもちろん、ときには街の中にまで入り込んでくることもある、危険なモンスターだった。

 毎年何人もの冒険者や領民が犠牲になることは珍しくなく、危険指定されているモンスターでもあった。


 そんなワイルドベアを十歳の少年が引きずっている光景は異様だった。

 しかも、そのワイルドベアには頭部が存在していない。

 まるで鋭利な刃に切り落とされたようだった。


 領民たちはそんな、サムを目にすると、驚くことなく、むしろ笑顔を浮かべた。


「サム様! 今日もお疲れ様でした!」

「サム様! お怪我はありませんか?」

「さすがサム様じゃ。今日もワイルドベアを退治してくださった。ありがたいことじゃ」

「サム様かっこいいー!」


 道ゆく人たちが、サムに声をかけ、手を振る。

 サムも笑顔で返事する。

 そして、彼は『冒険者ギルド』の建物の前で足を止めた。


「すみませーん。今日の分の査定をお願いしまーす!」

「はーい! あ、サムくん、今日も凄いわね」


 建物から出てきたのは、二十代半ばの女性だった。

 彼女の名は、メリア。亜麻色の髪をポニーテールにした愛嬌のある美人だ。

 冒険者ギルドの制服に身を包んだ彼女は、サムの担当受付でもあった。


「えっと、ワイルドベア二体でいいの?」

「あ、森にあと三体いますから、いつも通り誰かに取りに行ってもらえると助かります」

「任せて。すぐに暇な人たちを行かせるから」


 ウインクするメリアに、サムは頭を下げる。


「いつもありがとうございます」

「なに言ってるのよ。お礼はこっちが言わないといけないわ。ワイルドベアはE級冒険者か、D級冒険者のチームが死に物狂いじゃないと倒せないのよ? だから、なかなか討伐依頼を受けてくれる人がいないのに、サムくんは毎日ひとりで数体も倒してくれるから、町も安全よ」

「好きでやってることですから」

「もう、そんなこと言って。サム君が、メイドさんを連れて冒険者登録に来たときは正直驚いたし、反対もしたけど、君の熱意に負けてよかったって今は思っているの」

「あはははは、あのときはご迷惑をおかけしました」


 サムは、約一年前のことを思い出す。

 身体強化魔法を取得し、ワイルドベアを倒した一件は包み隠さずダフネとデリックに報告した。

 ふたりは驚き、そして大いに怒った。

 そんな危ないことをしてはいけません、なぜ逃げなかったのですか、と魔法の練習していたことはさておき、モンスターと遭遇して逃げなかったことを責められもした。


 ひとしきり、サムに説教したふたりは、少年を力強く抱きしめて涙を流し、無事を喜んでもくれた。

 同時に、九歳ながら大人の冒険者に匹敵する実力を持っていることに喜んでくれたのだ。


 その後、三人で話し合った結果、サムは冒険者になりたいと言った。

 無論、ふたりは反対する。

 いつか冒険者になることは反対しないが、せめて成人してからでも遅くないのではないか、と。

 特に、サムの身を案じるダフネは大いに反対した。

 何度も話し合った結果、サムの実力をふたりに見せると約束し、ふたりの目の前でワイルドベアを瞬殺して見せた。

 結果、渋々ではあるが、冒険者になることを認めてくれたのだった。

 以後、ダフネは、依頼を受けにいくサムを過保護に心配している。

 それがサムにはくすぐったく、でも嬉しかった。





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― 新着の感想 ―
[気になる点] 人の口に戸は立てられぬ、という諺もあるし。 ギルドで活躍なんてしていたら父親の耳に入って面倒な事になりそうだけど。
[気になる点] あまり気にするものではないかもしれませんが一応。 「サム様! 今日もご苦労様でした!」 ご苦労様、は日本では目上の人が下の人を労うときに使う言葉ですので、様付けで呼ばれる人に使っている…
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