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59「介入はしません」




 突然すぎる殺戮を目の前に誰もが呆然としていた。

 ボーウッドだけが、屋敷の外壁に頭を突っ込んでコミカルに気絶している。アーリーが引っこ抜こうと奮闘中だ。


「えっと、あのさ、どうする?」


 同じく呆然としている友也に尋ねるも、「さあ、どうしましょう?」と、友也も困惑を隠せないようだ。

 敵が襲ってきたまでは予測の範疇だったが、まさかロボが現れて全員八つ裂きにしてしまうとは思いもしなかった。


「――サム。僕の愛しい少年よ」

「なんだよ」


 女体化してドレスまで身につけているギュン子が、気障ったらしく前髪をかき上げると、椅子に座って内股でワインを飲んでいる女体化した元おっさんアーグネスを指差す。


「忘れているようだが、彼女もティサーク国の人間だ。それも宮廷魔法使い筆頭という立場だよ。なにか情報を持っているのではないかな?」

「あ、うん。でも、なんか関わりたくなかったんだよね」

「背に腹はかえられませんよ、サム」

「俺が聞くのかよ! あー、アーグネスさん?」


 名を呼ばれたアーグネスが、椅子から立ち上がるとサムに深く一礼してからチェキをした。

 ぶっ飛ばしたくなる衝動に駆られる。


「……あんたが知っているティサーク国の内情っていうか、ぶっちゃけ元魔王との関係は?」

「申し訳ございません。わたくしにはわからないのです」

「宮廷魔法使い筆頭なら、国王からの信頼も厚いんじゃ?」

「いいえ。ティサーク国国王マードク・ティサークは、誰も信用も信頼もしていません」

「なんでまた?」

「マードクは、小心者なのです。しかし、自己顕示欲が強く、支配欲も強い。優れた人格者だった兄弟に毒を飲ませて殺し、腹違いの姉妹を慰み者にした挙句殺したような男です。いつ、自分が他の誰かに同じことをされるのか気が気ではないのでしょう。実際、わたくしも隙あらば殺そうと思っていました」


 宮廷魔法使い筆頭が王の命を狙っていたという告白に、サムの顔が引きつる。

 話として聞いただけでも、ティサーク国国王がおぞましい人物だとわかる。決して王になる器ではない。


「そんな状態で王が務まるのか? 相談する相手もいない、命を狙われて、ビビっている状況で」

「実際、ティサーク国の現状はひどいです。わたくしが言う資格はありませんが、貴族が民を虐げるのが当たり前です。わたくしもそれなりの悪事を重ねてまいりました。民は決起しようとしていますが、貴族は魔法使いばかりです。おそらく鎮圧され、よりひどい目に遭うでしょう」

「言っておきますが、介入なんてさせませんからね」

「友也?」


 感情を消し、淡々と言葉を吐き出した友也に、サムが少し動揺した。


「まず、サムは魔王に至ったものの、スカイ王国の人間です。君が動けば面倒になる。だからといって、僕たちも動きません。冷たい言い方をしますが、もともとあってもなくても影響がないと判断してティサーク国は放置していました。いくら元魔王がいるからといって、国を救ってやる必要はありません。元魔王を殺して、あとは人間が勝手にやればいいんです」

「あのさ、ダーリン。私もこんなこと言いたくわねーけど。魔王は人間にとって強すぎるんだ。スカイ王国はあんま気にされてねーけど、他の国など下手したら王や王族よりも崇められちまう。下手すると信者だ。なによりも、関わるだけ無駄だって。貴族っていう同じ人間に虐げられても生きてきた奴らは、支配するのが元魔王でも、変わらない。そんな奴らに、私たちの時間を割く必要なんてねーんだよ」


 友也だけではなく、エヴァジェリンも関わらないことに賛成のようだ。

 準魔王のカル、ダニエルズ兄弟、そして壁から解放されたボーウッドも同意見だと頷いている。


「……なるほど」

「ただし、元魔王オーウェンは憂いなく殺しましょう。それでティサーク国の民が変わるきっかけになればいいですし、ならなくても今までと変わりませんよ」

「元魔王をぶっ殺すのは賛成だ。あいつは屑野郎だが、それ以上に小蝿のように鬱陶しい奴だからな。駆除しておかねーと」


 サムとしては、ティサーク国の民を救うぞ――とは考えていない。

 冷たいようだが、貴族に虐げられるのなら歯向かえばいい。できなくても国をでるなりできるはずだ。それをしない理由もあるのだが、赤の他人をわざわざ助けてやろうとは思わない。

 もちろん、自分の目に付くところに困っている人がいれば、手を差し伸べるし、そこに悪党貴族がいればぶっ潰すだろう。

 サムは、世界平和を掲げているわけではない。

 暴力反対でもない。

 強者が弱者を虐げるのには不快を覚えるが、歯向かうことのできない人間にも思うことはある。

 とはいえ、なにもしないのも若干の抵抗がある。


「わかった。じゃあ、元魔王オーウェンとその仲間をぶっ潰そう。あとは、ティサーク国の人たち次第だ」


 サムには大切な人たちがいる。

 故郷と思える国がある。

 優先度は、そちらが上だ。

 ティサーク国の顔も知らない誰かよりも、優先すべき人がいるのだ。


「だけどさ、元魔王をぶっ潰すならこっちからいかないといけないんじゃない?」

「おそらくはそうでしょうけど、きっと向こうから招待がきますよ。あの屑は、プライドだけは人一倍ですからね。部下が全員倒されたと聞けば、怒りに震えて――ほら、使い魔が飛んできましたよ」





本日、コミカライズ第5話公開です!

ぜひご覧になってください!


新作「異世界から帰還したら地球もかなりファンタジーでした。あと、負けヒロインどもこっち見んな。」もよろしくお願い致します!

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