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11「最強に喧嘩を売りました」③




「……俺が風呂に入っている間に、どうして決闘騒ぎになってるんだよ」


 さっぱりしたデライトが、腰にタオルを巻いたまま天を仰いだ。

 大きく嘆息したデライトは、いつもの癖のように酒に手を伸ばそうとする。

 しかし、娘のフランによって止められた。


「お父様、お酒はやめてください」

「ちっ、わかったよ! だが、飲みたくもなるだろ! どんな理由があれば、このガキとアルバートの野郎が決闘することになってるんだよ! 俺にもわかるようにちゃんと説明しやがれ!」

「その前に、お着替えください。お客様の前ですよ」

「着替えが見当たらないんだよ! 風呂場から何度もお前のことを呼んだのに、来てくれないからなにかあったんじゃねえかって思ったが、まさかアルバートの野郎が来ているとは夢にも思わなかったぜ!」

「着替えはそこに用意してありますよ」

「とってくれ」

「はい」


 服を受け取ったデライトは、素早く着替えてから、サムたちと同じようにソファーに腰を下ろした。


「とにかく最初からだ。どうして決闘になったんだ?」

「俺が決闘を申し込んだんです」

「……端折りすぎだろ。いや、そもそも、決闘を申し込むお前もお前だが、ガキ相手に受ける方も受ける方だ」


 呆れていいのか、怒るべきなのか感情を持て余したデライトは、足をゆすり始める。

 そんな父にフランが申し訳なさそうに言った。


「お父様、元は私が原因です」

「あ? どういうことだ?」


 フランは父に語った。

 数年前からアルバートに自分の女になるよう言い寄られていて、しつこかったこと。

 今でもそのしつこさは健在で、今日もまた屋敷にやってきたこと。

 そして、侮辱されたから引っ叩いてしまい、アルバートを怒らせ、殴られかけたところをサムに庇われた、と。


「……だから決闘ってなぁ」

「あんな男が宮廷魔法使いでいることも、ましてや最強を名乗っていることも許せませんでした」

「お前、馬鹿だろ」

「かもしれません」

「普通は、王国最強に喧嘩なんて売らないんだよ。だけど、まあ、なんだ……」


 歯切れ悪く、少しだけ照れ臭そうに、デライトは頭を下げた。


「娘を庇ってくれたことには礼を言う」

「――お父様」

「俺だって父親だ。嫁入り前の娘が引っ叩かれたなんて聞かされたら冷静じゃいられない。……ま、俺のような飲んだくれの世話を娘にさせている時点で、女に手をあげる奴と同類なんだろうけどな」


 そう言って自嘲するデライトに、サムもフランもかける言葉が見つからない。


「しかし、なんだ、よくアルバートもガキに喧嘩を売られて大人しく帰ったな?」

「不思議なことに、アルバートも乗り気でした。サムくんに首を洗って待っていろと言って……なにか企んでいると思います」


 フランの説明通り、アルバートは喧嘩を売ったサムが拍子抜けしてしまうほどあっさり帰ってしまった。

 しかも、決闘を受けると承諾して、だ。


 サムだって、アルバートが決闘を受けたことに驚いている。

 さらに言えば、楽しみだと言わんばかりに笑っていたのも気になる。


「というか、ガキ」

「はい」

「――いや、サムと呼んでやる。てめぇの実力はさておき、ビビらずあの野郎に喧嘩を売った度胸は認めてやる」

「ありがとうございます」

「で、勝算はあるのか?」

「まあ、なんとかなるんじゃないんですかね」

「……お前なぁ。いいか、宮廷魔法使いはおいそれと決闘なんか受けないんだよ。その地位を賭けて挑んでくる奴だって滅多にいない。仮にいたとしても、国が認めるかどうか……問題はそこじゃねえ。サムはアルバートから宮廷魔法使いと最強の座を奪うと言ったんだ、これで戦うことになったら、国王様の御前でだぞ!」

「えっと、なぜですか?」

「はぁ、やっぱりその辺は知らないみたいだな」


 ため息をついたデライトが説明してくれた。

 そもそも宮廷魔法使いの預かりは国王だ。

 戦争などが起きて派遣されることがあっても、王の許可なく出撃することはできない。

 とはいえ、国王が良し悪しを決める前に、魔法軍、騎士団、貴族たちで話し合われてから、国王が最終判断をすると言う流れだ。

 つまり、サムがアルバートと決闘したくても、まずは軍や貴族たちを納得させ、その上で国王に了承を得ないと戦うことさえできないのだ。


「逆に言えば、アルバートに勝てば、宮廷魔法使いの地位も最強の座も国王様に認めていただけるんですね」

「なんでそんなに前向きなんだよ! ま、許可が出て決闘が認められた上で、万が一てめぇが勝てばそうなるだろうな」

「なら好都合ですよ。俺があいつに勝てばいい、それだけです」


 自信があるとかないとかいう問題ではない。

 ウルの弟子として、後継者として、いずれ世界最強の魔法使いを目指す者として、宮廷魔法使いもこの国最強の魔法使いも通過点に過ぎない。

 ならば、こんな決闘など勝つのが当たり前なのだ。

 サムとしては、降って湧いたこのチャンスを逃すつもりはなかった。




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[良い点] アルバート君は何やら悪知恵働かせて、少しはサムをピンチにしてくれるのかな? 登場即退場じゃなく、少しは記憶に残る活躍してくれそうな予感(暗躍的な意味で)
[一言] 風呂で酒抜き、その後に酒を飲む。 TON「デライトさん、チョット、マズイですよ!」
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