49「いろいろあったそうです」
魔王遠藤友也は、ウォーカー伯爵家で間借りしている部屋で、ひとつの腕輪を睨んでいた。
「まさかヴィヴィアンのスキル以外で、これほどはっきり魔法やスキルを押さえ込むような魔道具があるとは思いませんでした。国宝級ですよ、これ」
ティサーク王国宮廷魔法使いのアーグネスから受け取った腕輪に、友也は驚きを禁じ得なかった。
「もっともヴィヴィアンと比べると、不完全なものですが、それでも、これはすごい」
魔王ヴィヴィアン・クラクストンズは、対象のスキル、魔法を完全に封じ込めることができる。
同じ魔王でも、ロボやダグラスのように己の肉体を鍛え上げた実力者以外はほぼ無力化されるだろう。
そのふたりでさえ、肉体強化を魔力を使って行うので、全力は出せない。
対して、ヴィヴィアンは相手を封じ込めながら、自分は平然と魔法を使うのだ。
彼女が戦った相手は本当に少ないが、その全員が手も足も出ずに敗北している。
最強の魔王と謳われていたレプシー・ダニエルズさえ、ヴィヴィアンと戦っては勝てない。
「問題は――これを作ったのが誰か、ですが。今まで僕はひとりの元魔王が生きていると推測していましたが、確信に変わりました。オクタビア・サリナスが生きていますね」
真なる魔王を名乗る人工魔王ヴァルザードが、サリナスを名乗っていたときから「やはり」と思っていたが、似たような名前はどこにでもあるので確信はなかった。
世界中を探し回っても見つからなかったのだが、ひとつの腕輪でオクタビアの生存がはっきりした。
「人工魔王とか、封じの腕輪とか、あなた以外には作れないでしょう。もっとも、ここ数百年の積み重ねのおかげなんでしょうけど。あの日、確実に殺したと思ったのに、存外しぶといですね」
かつて、西大陸には魔王が多くいた。
友也のような至った魔王ではなく、そこそこ強いので調子にのって魔王を名乗っているような輩ばかりだった。
自称魔王共など放置しておけばいいと思ったのだが、やりたい放題だったのだ。
そこで、本当の意味で魔王である友也たちが、何日も相談した結果。――粛清を決めた。
粛清と言っても、自称魔王が全員悪党というわけではない。
魔王同士で戦争をする愚か者もいたが、その程度であれば殺す必要はなかった。
もちろん、殺してしまえば憂もなくなるのだが、話し合いの末、命を奪うのは最低限となったのだ。
もっとも、魔王と魔王の側近、幹部、その家族など、殺さなければならない者が多すぎたので、命を奪う行為に辟易していたという理由もある。
しかし、粛清は必要だった。
自称魔王たちの度重なる戦争、悪政のせいで大地が血で汚れていたのだ。
このままでは世界に影響が出てしまうほど、血に塗れていた。
世界に悪影響が続くことは望まなかったし、なによりも大地が汚れたせいで扉が開いてしまっても困る。
苦渋の決断だった。
だが、その粛清によってヴィヴィアン・クラクストンズ、遠藤友也、レプシー・ダニエルズ、エヴァンジェリン・アラヒー、ロボ・ノースランド、ダグラス・エイド、フランベルジュの名が轟いた。
この七人に逆らってはいけないと魔族たちは恐れ、二度と魔王を名乗る者は現れなかった。
そして、秩序が生まれ、小競り合いこそ何度かあったが、魔王たちが大陸西側の大半に影響を与えることとなった。
「全部終わったと思っていましたが、殺したはずの奴らが生きているのは問題です」
戦力としては驚異にならない者ばかりだが、オクタビアのように研究面に長けた存在だと見逃せない。
実際、人工魔王を産み出し、魔道具も作っているのだから。
「――おっと、お客さんがサムのもとに……これはこれは、アーリーとは珍しい。殺したはずの彼女が生きている以上、あの嗜虐趣味と自己顕示欲の塊の屑も生きているということですね。ティサーク国がちょっかいかけてきたタイミングで彼女が現れたのであれば、あの屑はティサーク国で好き勝手にしていると見ていいでしょう」
情報収集を第一に行なっている友也だが、全能ではない。
情報の精査に時間もかかるし、ティサーク国のように放っておけばいずれ滅びると判断していた国の情報は最低限だった。
まさか生き延びた元魔王がいるとは。
友也は自分の失態を悟った。
「アーリーには申し訳ないですが、痛めつけてでも情報をもらいましょう。彼女はあの屑に恩があるので寝返らないでしょうし。――とても残念です」
友也は一度目を伏せると、気持ちを切り替えて転移した。
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