47「休日がなくなりそうです」②
「俺はサミュエル・シャイトだ。あんたの名前は?」
サムはゆっくり立ち上がり、笑顔で手を差し出した。
すると、女性は握手にこそ応じなかったが、名乗った。
「俺はアーリーだ。姓はねえ。魔王オーウェン・ザウィード様に仕える戦士だ」
「……まだ魔王いたの?」
「いえ、聞かない名です」
聞いたことのない名前をボーウッドに確認してみるが、彼も知らないようで首を傾げている。
「これだから新米どもはなってねぇ。もう何百年も前に君臨していた方だ」
サムの知る限り、魔王は今は亡きレプシーを含めて、ヴィヴィアン、遠藤友也、エヴァンジェリン、ダグラス、ロボ、フランベルジュ、そしてサムだけだ。
オーウェン・ザウィードという名は今まで聞いたことがなかった。
「主人から、隙があればてめえをぶっ殺すように言われた。ティサーク国の馬鹿どもがいい陽動になってくれたんでな。こうして簡単に近づくことができたぜ」
(……ティサーク国って、離れた国だよね? 街の外や王宮で少し騒がしい気配がしたけど、面倒なことになっているみたいだね)
「とりあえず、表出ろよ」
「おっと、意外だな。問答無用で襲いかかってくるかと思っていたよ」
「舐めんな。俺は戦士だぜ。女子供や非戦闘民は巻き込まねえ主義だ。ま、この辺が主人からは気に入られていねえんだが。おかげで、配下の中では一番下っ端だ」
なるほど、とサムは納得する。
戦士を名乗るだけあり、アーリーは接近することも隠さず堂々としていたし、口では「殺す」と言いながら殺意も敵意もない。単純に戦いを楽しみにしている、そんな感情が伝わってきた。
だが、魔王を名乗る人物からの刺客であることは間違いないので、相手をしようと席を立つ。
すると、ビールジョッキを片手に口周りに泡をつけてカルが馴れ馴れしくアーリーの肩を抱いた。
「懐かしい気配が近づいていると思ったら、アーリーさんじゃないっすかぁ。いやぁ、懐かしいっすね。てっきりクソみたいな主と一緒に死んだと思ってましたよ!」
「カル・イーラか。懐かしいな。主人はクソだが、てめぇのほうがよほどクソだろう」
カルはアーリーを知っているようだ。
「アーリー殿、ご無沙汰しています。まさかこのような人間の国のレストランで再会するとは思いませんでした」
「ははははっ、やっぱりジェーンもいやがった。相変わらず男女だな」
カルだけではなく、ジェーンもアーリーと知己らしい。
「私もいるぞ」
「おうおう! ゾーイ・ストックェルもかよぉ! なんだなんだ、ここは準魔王の集会場か! まさかとは思うが、変態クソエルフもいたりしねえよなぁ?」
ゾーイと、そしてここにはいないダフネもアーリーと知り合いらしい。
「ダニエルズ兄妹もいるぞ」
「ははははははっ! あのレプシー狂いの変態兄妹もいるのかよ! どんな国だよ!」
どうやら準魔王と一通り顔見知りのようだ。
とすると、彼女の主人であるオーウェンも本当に魔王の可能性がある。
「えっと、みんな知り合いのようだけど、アーリーも準魔王なの?」
「おうよ!」
「じゃあ、そのオーウェンとかいう人は魔王でいいの?」
「主人は元魔王だ。レプシーと愉快な仲間たちが魔王を名乗る奴らを八つ裂きにしてな。生きているのは数人じゃねえの?」
「一応、サムさんに説明しておきますが、アーリーさんの言う元魔王たちは、サムさんたちと違って至っていないのにちょっと強いからって魔王を名乗って調子に乗った奴らっすからね」
カルの補足は足りていないが、かつて増えすぎた魔王を粛清し、現在の魔王だけになったと聞いている。その時に生きながらえた魔王がオーウェンなのだろう。
気づけば、リーゼたちが心配そうに見ているので、問題ないと手を振って見せる。
「俺って、その元魔王になにかしたかな? 狙われるような覚えはないんだけど?」
「あー、えっと、確か、レプシーを倒して魔王になったてめぇをぶっ殺せば、改めて魔王として名乗れるっていうのが主人の考えだ。ついでに、最悪俺が倒せなくても手傷を負わせるか、弱点を探れればよしってことだ。ま、俺は捨て駒だ」
「そんな笑顔で自分を捨て駒って」
「主人はクソ野郎だからな。ただ、俺は主人に恩義があるから、死ぬまで尽くすと決めているんだ。というわけで、殺し合おうぜ!」
不思議とサムはアーリーを嫌いになれなかった。
オーウェンのやり方は好きではないが、サバサバとしたアーリーは好ましい。
どのような恩義があって忠誠を誓っているのか不明だが、この手の相手は本当に忠誠を全うするタイプだ。
「よし。じゃあ、やるか。ただ、場所は変えてからね」
「そうこなくっちゃ!」
「その前に、アーリー殿」
「あんだよ?」
乗り気になったアーリーに、ジェーンが声をかける。
出鼻を挫かれたように不満そうな顔をするアーリーに、ジェーンは静かに続けた。
「参考までにお伝えしておきますが。この国には遠藤友也様がいらっしゃいます」
「……え?」
アーリーの顔が真っ青になった。
「遠藤友也って、魔族を恐怖のどん底に陥れた変態のことか?」
「はい」
「老若男女問わず襲いかかってくる気持ち悪い奴のことか?」
「はい」
「多くの魔王の中で最悪の魔王と呼ばれている、レプシーよりも恐ろしい魔王のことか?」
「はい。その魔王様です」
「友也の評判悪すぎぃ!」
ラッキースケベのせいだろうが、さすがに涙が出そうなほど悪評ばかりだった。
アーリーと友也にどんな因縁があるのだろか、と疑問をサムが浮かべていると、青い顔をした彼女が震えながら口を開いた。
「きゅ、急にお腹が痛くなってきたから、今日は帰ってもいいですか?」
「どうぞー、とはならないだろぉ」
「いや、本当に漏れそうなほどお腹が痛いんだよ。な、今度酒奢るから、俺とは出会わなかったってことでひとつ」
「えぇー」
「あの変態に公開凌辱されるのはもう嫌なんだよぉ! 会う前におうち帰るぅ!」
「変態魔王に何されたんだよ!?」
元魔王の刺客は、この場にいない遠藤友也の名を聞いて逃げ出そうとした。
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