38「招かれざる客が来ました」③
「クライド陛下。あなたは各国のパワーバランスをお考えにならないのでしょうか? スカイ王国は少々戦力が過剰すぎます。まさかとは思いますが、大陸東側を統一するおつもりですか?」
「そんなことには興味がない。実にくだらん」
ティサーク国の悲願は、大陸東側の統一であることを知っているクライドは、あえてくだらないと吐き捨てた。
これにはザカリアだけではなく、彼の背後に控える宮廷魔法使いと騎士の顔も不愉快に染まる。
「我が国の悲願をくだらぬとおっしゃるか!」
「涙が出るほどくだらぬよ。私は常々疑問だったのだが、なぜティサーク国は大陸東側だけを統一しようとする? 大陸全てを統一ではないのか?」
「それは?」
「魔族が怖いのだろう。そして、魔王たちがいるかぎり、統一など逆立ちしてもできぬことをわかっているのだ」
「だからこそ、サミュエル・シャイトを寄越せ! 奴は魔王となったと聞いた! そして、他の魔王とも渡り合えると! ならば、偉大なる我が国の悲願のために力を使わせるのだ!」
「……愚かな」
ティサーク王国は、決して裕福な国ではない。それでいながら、民に圧政を敷くので国として傾きかけている。
侵略は失敗し、近年ではクーデターを起こそうとしている人間もいるようだ。
そんな国が、大陸を支配するなどできるはずがない。
武力もなければ、支配した民を食わせる能力もない。
単純に、自分たちよりも豊かな国を支配したいだけだ。
「魔王殿たちは大陸統一など気にしておらぬよ。そしてサミュエル・シャイトも」
「所詮は十四の小僧だ! 我々ならうまく扱ってみせようではないか!」
「愚かな……サムは誰にも扱いきれぬよ」
「はっはっはっ! 聞けば、その少年は好事家であると! すでに彼のために美男美女を集めているのですよ。覚えたての子供ならば、奴隷遊びにもはまるでしょう! 我々も馬鹿ではない、良い思いも存分にさせるつもりですよ!」
クライドは爆笑したくなったが舌を噛んで我慢した。
さりげなく美女だけではなく美男も用意されているのは、おそらくギュンターのせいだろう。
サムが普通の年頃の少年ならば、美男はさておき美女を集められていると聞けば揺らいだかもしれない。
だが、サミュエル・シャイトにはその程度の誘惑などないに等しいだろう。
リーゼ、ステラ、アリシア、フラン、花蓮、水樹をはじめ、エヴァンジェリン、ゾーイ、カル、竜王炎樹、ジュラ公爵親娘、霧島薫子と魅力的な女性が周囲を固めている。最近では、魔王ダグラスの娘も候補になったとかならないとか。
彼女たちを超える魅力的な女性を集められるものなら集めてみろ、と思う。
(仮にどれだけ美女を集めても、そこに愛がなければ意味がないのだよ。哀れな)
ティサーク国では、奴隷の扱いが悪い。スカイ王国にも、犯罪奴隷や、一般的な奴隷はいるが、あくまでも人として扱う決まりがある。
だが、ティサーク国での奴隷は――物扱いだ。
そんな国にサムが赴いたとして、よしとはならないだろう。むしろ、国王から貴族まで平等に斬り裂かれる未来しか見えない。
「こちらも穏便に事を済ませたいのです。最後ですよ、サミュエル・シャイトをお渡しください」
「断る。そなたたちのようにビンビンのかけらもない国にサムを渡さん!」
「……ビンビン?」
ザカリアは、あまり聴き慣れない言葉に首を傾げたが、すぐに醜悪な笑みを浮かべた。
「そういえば、最近、陛下は狂ってしまったという噂がありましたあ、本当のようですね。ビンビンなどと意味のわからないことを」
「――ほう。ビンビンを馬鹿にするのか?」
「いえ、馬鹿にはしていませんが? 意味がわからぬことを申す陛下がどうかと、と言っているのです」
「つまりビンビンを馬鹿にしているのではないかぁああああああああああああああああああああああああああ!」
「な、なぜ急にお怒りに!? あれだけサミュエル・シャイトに関しては平然としていらしたのに、ビンビンという意味のわからぬことばにどのような思い入れがあるというのか!?」
ビンビンを理解できないザカリアは、クライドの激昂に困惑を隠せない。
「やはり狂っているのは本当のようですな! サミュエル・シャイトを寄越さないのであれば無理やり奪っていきましょう! 我が国最強の魔法使いが、単身で彼の身柄を抑えに行っています。噂で存じているかもしれませぬが、我が国は魔族とも少なからず関わりがある。我が国最強の魔法使いは、魔族殺しなのですよ! わかりますかな! 魔王であろうと、我が国の最強には勝てますまい!」
「…………」
「ふははははは、驚きのあまり声も出ませぬか!」
「あ、いや、そうじゃなくてね。そなたの国の最強の魔法使いが、サムを確保しに行ったの?」
「そうですとも!」
「ウォーカー伯爵家に?」
「ええ!」
「サムだけじゃなくて、魔王とか準魔王とか竜王と竜がいるあの家に行っちゃったの!?」
「……意味がわかりかねますが?」
クライドはどうしよう、と震えた。
もしかしたら、ウォーカー伯爵邸が消えて無くなる可能性がある。
イグナーツ公爵は苦笑いし、ウォーカー伯爵は胃を押さえながら胃薬を飲んだ。
ザカリアたちは、自分たちがなにをしたのか理解できていない。
そんな時だった。
「失礼致します! 火急の件ゆえ、ご報告させていただきます!」
近衛騎士のひとりが、はっきりと顔色を悪くして飛び込んできた。
「申せ」
「はっ! ティサーク王国宮廷魔法使いであらせられるアーグネス殿が、ウォーカー伯爵家に侵入し――」
騎士は言葉を途中で止めた。
本当に口にしていいのかと悩んだのだ。
「構わぬ、申しなさい」
「は、はい! 魔王様たちに喧嘩を売り、女体化させられ、破廉恥な目に遭い、お姉ちゃんに目覚めたようです!」
「うむ、意味がわからぬ!」
クライドの言葉に、イグナーツ公爵とウォーカー伯爵もうんうん、と同意した。
自慢の最強の魔法使いに何が起きたいのか理解できないザカリアは、間抜け面しかできなかった。
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