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8「ウルの師匠デライト・シナトラと会いました」②




 部屋に残されたサムとフラン。


「ね、ねえ、サムくん」

「はい?」


 ウルの師匠と戦えることを喜んでいるサムに、フランが戸惑いと喜びの混ざった声をかけた。


「君ってすごいわ。どんな魔法を使ったのかしら」

「えっと……どういう意味ですか?」

「父は魔法をもう何年も使っていなかったの。魔法への情熱なんてとっくに失っていたと思っていたのに、君と戦うなんて言い出して、お酒まで抜くって……信じられないわ」


 どうやらフランは、飲んだくれの父親がサムと戦おうとするなど夢にも思っていなかったようだ。


「きっとサムくんの中にウル様の残したなにかをみたのかしら? でも、ありがとう。あんなに生き生きと話す父は初めてだわ」


 そう言って、フランは涙を流す。

 サムは首を横に振った。


「デライト様は、きっと魔法に対する情熱を失っていなかったんですよ」

「そう、かしら?」

「俺にはなんとなくわかります。挫折してしまったかもしれませんが、それでも魔法を捨てられなかったんですよ。だからこうして、魔法書が開きっぱなしなんです」

「――っ」


 最初にこの部屋に入ったとき、酒の匂いにも驚いたが、部屋中に溢れる魔法書の量にも驚いたものだ。

 すべて読んだ形跡がある。

 手垢がつき、繰り返しページをめくったと思われる本だってある。


 魔法への情熱を失った人間が、わざわざ魔法書を読むことなどするはずがない。

 デライトは、まだ魔法を捨てていないと推測できた。

 実際、彼の魔力に衰えを感じなかった。

 そして、彼はサムの実力を見るために、自ら相手をするとまで言った。

 酒に逃げて魔法を捨てた男なら、そんなことを言うわけがない。


「本当に魔法を捨ててしまったのなら、魔法書が溢れたこの部屋に居たくないでしょう。きっとデライト様は、フラン様が見ていないところで――」

「魔法書を読んでいたの?」

「推測ですが、もしかしたらアルバートに勝とうとしていたんじゃないでしょうか」

「――そう、そうだったのね、お父様。まだ魔法を捨ててなかったのね。よかった」


 フランはぼろぼろと涙を零す。

 父が立ち直れるかもしれないと希望を抱き、張り詰めていたものが緩んだようだ。

 サムは少しぎこちなくハンカチを彼女に差し出した。


「ふふ、ありがとう」

「いいえ」


 彼女はハンカチで目元を拭い、笑顔を見せてくれた。

 女性の泣いているところを見ていたくなかったサムは、フランが落ち着いてくれたことに安堵する。

 そんな時だった。


 ――どんっ、どんっ、どんっ!


 屋敷の扉が無遠慮に叩かれる音が響いた。


「誰かしら? 今日はサムくん以外に誰かが来る予定はなかったんだけど」


 サムにハンカチを返し、フランは未だノックを続ける誰かを確かめるため部屋を出た。

 彼女のあとをサムも追う。

 万が一、不審者だったら困る。

 玄関に近づくと、男の怒鳴り声が聞こえた。


「おいっ! いつまで待たせやがる! 俺を誰だと思っているんだ!」


 耳障りな怒声だった。


(――誰だ?)


 人様の屋敷にきて、怒鳴るような人間にサムは不快感を覚える。

 いくら王都の郊外にこの屋敷があるとはいえ、迷惑だ。

 大きなお世話だと思ったが、文句を言ってやろうと考えたサムがフランを伺うと、


「フラン様?」


 彼女は顔色を悪くして、身を硬らせていた。


「フラン様? まさか、お知り合いですか?」

「……ええ、今は最も会いたくない人間よ」

「誰ですか? ん? 最も会いたくない人間って――っ、まさか?」

「そのまさかよ」


 フランと会話している間にも、扉の向こう側から怒鳴る不愉快な声が聞こえ続けた。


「俺を! この国最強の魔法使い! アルバート・フレイジュ様をいつまで待たせていやがる! さっさと扉を開けやがれ!」


 自らアルバート・フレイジュと名乗ったことで、招かれざる客の正体が判明した。

 スカイ王国最強の座に君臨する魔法使いが、シナトラ家に現れたのだった。





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― 新着の感想 ―
[一言] よし、サム、やったれー!
[良い点] サムの見せ場も見たいが、デライト師匠のリベンジマッチも見たいな~
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