61「もう限界です」
一頻りアリシアと抱擁を交わしたロボが、名残惜しそうに身体を離すと、サムの方を向いた。
「――俺の負けだ」
「そうだね。俺の勝ちだね。でも、死にたがっていたみたいだから、どこまで本気だったのか怪しいけど」
「俺は本気だった。獣として、戦いで手を抜くことはしない」
「ならいいけどさ」
「お前は俺よりも強かった。それだけのことだ。それにしても、納得できる。この娘……」
「アリシアですわ!」
「アリシアの番なだけあるな」
「……番って」
ロボは先ほどの殺意と敵意を抱いたときと違い、柔らかな雰囲気を纏っている。
彼女の家族であろう少女の生まれ変わりであるアリシアと出会えたからなのかは、サムにも判断しかねる。
ただ、かつてレプシーが変化を求めたロボが、今、変化したことは喜ばしい。
(きっとレプシーも喜んでいるだろうね)
「まあ、間違っていないけどさ。ありがとう」
「では、あとは任せた」
「――ん?」
ロボの言葉の意味をサムは理解できず、首を傾げた。
「あちゃー」
友也が顔を覆うが、なのことだかわからない。
すると、ロボが説明してくれた。
「俺は負けたんだ。獣の国はお前のものだ」
「――いらないですぅー! なんのために魔力注ぎ込んで回復したと思っているんだよ! そういう面倒なことを避けたいからじゃん!」
サムが絶叫すると、今度はロボが困った顔をした。
「……しかし、獣の国は力がすべてだ。俺は放置していたが、獣たちは俺よりも強いお前に平伏するだろう」
「やーめーてー!」
「前々から鬱陶しかったので誰かに放り投げたいと思っていたのだが、ちょうどいい」
「ぶっ飛ばすぞ、お前!」
サムは勘違いしていた。
ロボを殺してしまうと、獣人たちが悪い意味で集まってくることを知り、慌てて回復させたのだが、勝利は勝利ということは変わらないようだ。
つまり、ロボに勝利した事実がある以上、ロボの生死はさておき、獣人たちはサムをロボの代わりに王と認識する可能性が高い。
「友也君、話が違うんですけど!」
「すみません。僕も慌てていたので……勝ちは勝ちですものね」
「俺、人間だし」
友也も、ロボが死にかけている状況で珍しく慌てていたせいで、勘違いしていたようだ。
サムは、せめてもの抵抗として、自分は獣人ではないと主張してみるも、
「なにを言っている? お前は人間だったが、今は魔族であり魔王だろう? どちらかと言うと吸血鬼に近いぞ。獣人は強者の種族は気にしない」
ロボに一蹴されてしまう。
「ちくしょう!」
サムがその場に膝をつき、項垂れる。
なんとかこの面倒ごとを回避する術はないのか、と脳を必死に回転させた。
「あの、ロボ様」
「ロボでいい、アリシア」
話が中断してしまったところで、アリシアが躊躇いがちに手をあげた。
仮にも魔王であるロボに、様付けして名を呼んだのだが、他ならぬロボが様付けの必要がないと言った。
「では、ロボちゃん」
「う、うむ」
まさかのロボちゃん呼びに、魔王ロボを知る魔族の面々が驚愕を浮かべた。
今までロボを、そんな可愛く呼んだ者などいない。
しかも、ロボも満更ではない顔をしているのだから、二重に驚いた様子だった。
「ロボちゃんは、これからどうするのですか? 王様をやめてしまっては、いろいろ困るのではありませんの?」
アリシアの問いかけに、ロボは不思議そうな顔をした。
「あ、嫌な予感がする!」
サムが顔を上げて、叫んだ。
そして、その予感は的中した。
「俺はアリシアのそばにいる。お前の子も、孫も、子孫も、すべて守ると誓おう」
「――ぐはっ」
ことの成り行きを見守っていた一同の中にいたジョナサンが、胃を押さえて倒れた。
「アリシアの父親の胃も守ってあげてよ!」
サムの悲痛な叫びを無視して、ロボはジョナサンに目を向ける。
「……お前が、アリシアの父親か。ロボ・ノースランドだ。世話になる」
「……あ、はい」
「よし」
反射的に返事をしてしまったジョナサンに、ロボは満足そうに頷いた。
「お義父様! そこで返事をしたら駄目じゃないですか!」
「……ぽんぽんいたい」
倒れたまま動かなくなったジョナサンにサムが駆け寄り、叫んだ。
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