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58「ロボの過去です」③




 目の前に立つ青年を前に、ロボは久しく忘れていた恐怖という感情を思い出した。

 同時に、ようやく待ち望んでいた日が訪れたのだと歓喜した。


「私はレプシー・ダニエルズという。魔王、などと大それた肩書きを持っているが、どこにでもいる吸血鬼だ」


 友好的に自己紹介を始めるレプシーに、ロボは話など聞く気がないと襲いかかった。


「こちらの話を聞く気がないか……それも良い」


 レプシーが牙を覗かせて笑い、拳を握る。

 数分後、地形を変えるほどの圧倒的な暴力を受け、手も足もでずに地面に無様に這いつくばっているロボの姿があった。

 あまりの力量差に愕然としているロボを他所目に、レプシーはなにか思うことがあったのか、途中で手を止めた。


「すでに力は魔王級だが、若く、荒く、なによりも――君には生きる意志を感じない」


 不思議そうなレプシーに、ロボは身体中を襲う痛みに耐えながら、言葉を吐き捨てた。


「殺せ」

「君はなぜ戦う?」

「殺せ」

「……察するに、死にたいのかな?」


 レプシーがロボの腕を掴み、仰向けにした。

 いささか乱暴であったため、ロボに鈍痛が走る。

 痛みを堪えながら、ようやくこの時が解放されるのだと信じて、レプシーに語った。


「俺は生きろと言われた、だから自分では死ねない。だが、こんな世界では生きていたくない、頼む、殺してくれ。俺を、家族のもとに送ってくれ」


 ロボはずっと死にたかった。

 家族のいない、絶望しかない世界で呼吸をしたくなかったのだ。しかし、かつて姉のように慕った少女は事切れる前に言った「生きて」と。

 だから、自殺せず、戦い続け、いつか自分を殺してくれる者を待ったのだ。


「……理解した。君は、死を求めて戦っていたのか。だが不幸なことに強すぎた」

「お前なら、俺を殺せる……ようやく俺よりも強い奴に会えた、だから、頼む」


 レプシーはしばし沈黙し、残酷な言葉を吐いた。


「申し訳ないが、断らせてもらおう」

「……な」

「君にどのような理由があって死を願っているのか、私は想像することしかできない。だが、君に生きていてほしいと願った者がいることはわかる」

「やめてくれ、頼む」

「死者の言葉は重い。きっと君にとっては呪いのように苦しいだろう。だけど、考えてみるといい。その言葉は、生きろ、と君に言った誰かの言葉は、本当に君を苦しめるものだっただろうか?」


 そんな問答をしたいわけではなかった。

 頼む、とロボが手を伸ばすと、レプシーはその手を握った。


「今回、君に会いにきたのは、あの忌々しい人間至上主義の神聖ディザイア国が君を倒すため大掛かりな討伐部隊を編成しているからだ。君があの程度の人間たちに殺されるとは思わないが、ここに来るまでの間に、奴らは他の魔族を殺して回るだろう。なんせ人間以外の種族は害悪だと決め付けている狂信者だからね」


 手を握ったまま、レプシーは「君に提案がある」と言った。


「実を言うと、魔王の席が空いている。……違うな、本当の意味で魔王を名乗れる者が必要だ。そして、君と同等か、それ以上の強さを持つ者が現時点で五人いる。私たちは、友であり、兄妹のような存在だ。君の孤独を、私たちが癒せないだろうか?」


 と、そこで言葉を切る。


「駄目だ。私には勧誘は向かない。友也、どうせ見ているのだろう。さっさとこの場に現れて、彼女を魔王に迎え入れろ。世界を知らぬまま死なすには惜しい」

「はいはい」


 レプシーが空に向かい、ぶっきらぼうな言葉を放つと、どこからともなく胡散臭そうな少年が現れた。


「お前のことだ、彼女の過去も知っているのだろう?」

「まあ、一応は」

「……なぜ言わなかった。殺すつもりで戦ったのに、殺せなくなってしまった」

「きっと理由を知れば、レプシーは殺せないと思いましたので」

「私はお前のそういうところが嫌いだ、友よ」

「反省しています」


 胡散臭い少年はロボに近づいてきて、なぜか何もないところで転び、ロボの胸に顔を埋める。


「……友也」

「体質が憎い。こんな時でも発動してしまうラッキースケベが憎い!」


 ロボにはよくわからないやりとりをしていたが、もう殺してもらえないのだと落胆していたのでどうでもよかった。

 そんなロボに、レプシーが囁く。


「ロボ・ノースランド。死にたいなら、いつでも殺してやる。君程度を殺すくらい、赤子の手を捻るよりも容易い。だが、その前に考えろ。なぜ、生きろ、と言われたのかを」

「……なぜ、あの子は俺に生きろなんて言ったんだ?」

「その答えを自分で探すといい。それでも、まだ死にたいのなら、いつでも私の元に来るといい、殺してやろう」


 不思議と、ロボはレプシーの言葉が胸の真ん中に入ってきたのを感じた。

 そして、彼の言う通り、あの子はなぜ自身が死ぬ間際に、自分に生きるように言ったのか、どうして笑顔だったのか、考えることにした。


 こうしてロボ・ノースランドは魔王の一角となる。

 しかし、あの子のことを考えれば考えるほど答えは出ず、苛立ちをぶつけるために暴れまくる日々を送る。

 時にはレプシーに「やりすぎだ」と殴られることもあった。

 だが、いつか答えが出るかもしれないし、出ずとも自分を殺してくれる存在がいることはロボの心をわずかに軽くしていたのだ。


 しかし、この数年後、レプシーは妻子を奪われ暴走し、長い時間復讐の鬼となった挙句、封印された。

 そして、今もなお、ロボ・ノースランドは答えを見つけていない。





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