57「ロボの過去です」②
白銀の狼にロボと名付けたのは、少女だった。
少女が読む、物語の中に出てくる狼の名だという。
ロボは、その名前を受け入れ、名を呼ばれることに喜びを覚えた。
いくら人間が憎くとも、家族を奪った人間と自分を助けた人間が違うことくらいはわかる。
ロボは少女を恩人として慕うのだった。
ロボが保護されたのは、小さな集落だった。
まるで隠れているように、森の中に存在する自給自足と狩りで生活が成り立っている村だった。
この村でロボは歓迎された。
長い放浪で弱ったものの、少女の甲斐甲斐しい世話のおかげで元気になったロボは、数ヶ月で大きく成長した。
かつては得意でなかった狩りに参加しては、誰よりも早く、遠くの獲物を見つけ狩ってみせるほどだ。
人語を理解し、村を守り、狩りに出ては戦力として申し分ない。
気づけば、種族を超えて村の一員として認められていたのだ。そして、ロボもこの村の人たちを家族だと認識しており、恩人の少女は姉のような存在だった。
ロボにとって、少女は特別だ。
ゆえに、村の中で唯一自分の背に乗ることを許している。
少女はどこにいくにもロボを連れていき、ときには背中に乗り、ときには一緒に走り、ときにはロボをおんぶしたいと困らせたりした。
ロボは少女のベッドで一緒に眠る。彼女の体温が、失った家族を思い出させてくれる心地のよいものだったこともあるが、本当に少女が好きだったのだ。
ようやく手に入れた安寧がずっと続くことを祈った。
――しかし、ロボの願いは叶わなかった。
ロボが村に居ついて三年が経とうとした頃だった。
北部に国を構えていた人間が、襲ってきたのだ。
最初こそ、銀狼である自分を狩りにきたのかと思ったが、違った。
目的は、恩人である少女とその家族たちだった。
襲撃者たちの言葉から、少女とその家族が、ロボの家族を奪った人間の国の王族だということがわかった。
王位争いで敗北し、逃げ隠れして生活をしていたようだが、ついに場所を突き止められてしまったようだ。
いつか王位を狙いに戻ってくるのではないかという猜疑心から、根絶やしにするように兵士たちは命令されており、忠実に働いた。
ロボは村人を守るために、かつて家族を守れなかったことを悔いていたこともあり、懸命に戦った。
何人もの兵士の首を噛み切り、倒していった。
だが、ロボも所詮ただの狼でしかない。
矢を受け、剣で抵抗され、少しずつ傷つき、その身体は死に体となった。
ならばせめて少女だけでも背に乗せて逃げようと、女子供が避難している小さな教会に急いだ。
――そこで待っていたのは、剣に貫かれている少女と、絶命している村人たちだった。
ロボは少女にかけより、なんとかしようとするも――狼の身ではなにもできないのだと思い知らされることになる。
少女は傷ついたロボに手を伸ばし、いつものようにそっと頭を撫でると、
「……よかった。早く逃げて……逃げて、生きてね」
その言葉を残して、息を引き取った。
また人間に家族を奪われた。
また同じ国の人間が、家族を奪った。
ロボは絶望と怒りに支配された。
同時に、自分があまりにも弱いことを嘆いた。
なぜこんなにも弱いのか。
見てくれのいいだけの狼ではなく、魔獣のようなもっと強い生物に生まれていれば、家族を守れたのに。
悲しみ、嘆き、そして――憎んだ。
家族を二度も奪った人間が憎い。憎くて憎くてたまらない。
「おぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおんっ!」
世界を恨むように遠吠えをしたロボは、憎しみを抱き復讐するために兵を襲った。
命を捨てようとは思わなかった。
恩人であり大切な家族が言い残した言葉が「生きて」だったから。
しかし、家族を奪った者に報いを与えなければならなかった。
ロボは、ひとり、またひとりと襲いかかり、確実に兵を殺していった。
雄叫びを上げ、爪で引き裂き、牙で噛みちぎり――雷で焼き殺した。
襲撃者を全て殺し尽くすと、ロボは自分が変化していたことに気づいたのだ。
「――なんということだ」
初めて、ロボは言葉を発した。
「あの子を失って、家族を失って、今更力を手に入れてなんになる!」
ロボは、強すぎる憎しみを抱えたがゆえに、狼から魔獣に進化していたのだ。
「家族のいない世界になにがあるというのだ!」
ロボは、少女のあとを追いたくなった。しかし、他でもない少女が生きろと言った。
ならば、生きなければならない。
彼女たちのためにも、家族のためにも、生きなければならない。
だが、家族も誰もいないひとりぼっちの世界で、孤独を抱えて生きていかなければならないかと思うと――ゾッとした。
だが、まずは復讐をしようと、決める。
自分のことなどあとでいい。
なによりもすべきことは、家族を二度も奪った人間たちを同じ目に合わせてやる。
ロボは、少女が名乗っていた家名ノースランドをもらい、ロボ・ノースランドを名乗って、少女の故郷であり敵である国を滅したのだった。
◆
そして、時間は流れ、荒ぶる魔狼として誰もがロボを恐れ、大陸西側にある大国のひとつ神聖ディザイア国に懸賞金をかけられながら、何度も冒険者や討伐部隊を返り討ちにしていた頃だった。
「――君が、荒ぶる獣の王ロボ・ノースランドかな?」
魔王レプシー・ダニエルズと出会ったのだった。
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