53「全力を始めます」③
右腕を失った女は痛みに怯むことも、悲鳴をあげることもなく、唇を吊り上げた。
そして、そのまま肘から下を無くした右腕をそのまま振り下ろした。
刹那、サムを雷撃が襲う。
「――お」
サムが反応するよりも速く、殺意がこもった白き雷が視界一杯に広がった。
「うん、でも、この程度ならどうってことないよね――クライツクセ」
襲いかかるすべての雷をレプシーから継承した能力ですべて食らった。
「――な」
これには女も驚いたようで目を見開く。
続いて、大きく距離を取った。
「そうそう。言っておくけど、あんたがどこの魔王か知らないけどさ、俺はなりたての魔王だけどレプシーの力を継承している。そして人間を超えたウルの力もだ。新米魔王をひとり相手にしていると思っているなら、舐めんなよ?」
「――そうか。ウルという人間は知らんが、レプシーを倒しただけではなく力を継承しているのは本当のようだな。ならば、俺も楽しめる」
「おっと、まだ全力じゃありませんでした発言。でもね、俺も全力は出しているけど、すべてを出したわけじゃないからね」
そう言ってサムは、頬や腕、そして大きな裂傷がある胸に触れた。すると、巻き戻しのように傷が癒えていく。
「――超速再生か」
「正解。腐っても魔王に至っているからね、このくらいはできるさ。といっても条件があってね、魔力を喰わないといけないんだよ」
竜王候補玉兎と戦ったときはまだ力の全てを理解していなかったのだが、サムにも条件付きだが超速再生が備わっていた。
魔王として成長すれば、条件なしで超速再生も可能になるはずだが、まだその時ではない。
「あんたもやれば?」
「言われずとも」
女が右腕を動かすと、結界内に落ちていた腕が飛んで戻ってきて繋がった。
便利で羨ましい、と思うサムの視線を受けながら、手を握り、感覚を確かめた女は頷く。
ちゃんとくっついたようだ。
「俺はお前を侮っていた。今まで退屈な日々ばかりだったので、眠っていたのだが……ようやく目が覚めた。礼を言っておく」
女の魔力がはっきりと変わった。
今までは荒れた海の如く暴れていた魔力が、凪いだ海のように安定した。
同時に、不安定だった魔力が、サムと同等の魔力で安定する。
(おっと、これはこれは――まずいぞぉ!)
どうやら女は本当に寝起きだったようだ。
身体能力はすべて上回られ、魔力も同等になってしまった。これはなかなか危機的状況だ、とサムが唇を吊り上げる。
こんな危機に陥ったことはあっただろうか。
未だ鮮明に覚えている初めてモンスターに遭遇した時よりも、恐ろしい。
(さあ、この状況を乗り越えて、俺はもう一歩強くなろう!)
サムの中で、襲撃された際の怒りが消えた。
苛立ちも消えた。
残ったのは、この戦いを楽しもうという感情だけ。
「俺の名を刻んで死んでいけ。俺は――ロボ・ノースランド」
「ああ、あんたが、獣の王とか言われている魔王か」
「魔王の地位などどうでもいい。お前も名乗れ。死にゆく者の名を覚えておいてやろう。久しく現れた強者のひとりとして」
「いやいや、お前が俺の名を刻んで死んでしまえ――サミュエル・シャイトだ」
戦いの終わりが訪れた。
女――魔王ロボは、腰を低くして構え、牙を剥き出しにして唸る。白い雷が彼女の魔力に反応するように踊り、魔力が高まっていく。
サムは静かに右腕を掲げ、すべての魔力を注いだ。
「さらば幼き強敵――雷迅」
ロボの魔力が限界に到達した瞬間、雷鳴が轟いた。
劈くような音が響き渡り、そして痛いほどの静寂が訪れた。
ロボの姿が消える。
刹那、――サムの腹部をロボの右腕が貫き、背後の結界をも破壊する。
サムの腹部から血が溢れ、吐血した。
(速すぎて反応できなかった――あーあ、もっと全力で魔法を試したかったなぁ)
羨望を覚えるほど速く、鋭い一撃を受け、サムは満足そうに笑った。
「――スベテヲキリサキクラウモノ」
そして、渾身の魔力が込められた右腕を解き放った。
次の瞬間、魔王ロボの右腕、胴体が綺麗に両断された。
〜〜シリアスさんからのお言葉〜〜
決着は次回にて。
一応補足として、サムは慢心もおごりもしていません。
全力を使える相手に全力をぶつけて楽しんでいただけですのでご理解ください。
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