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3「ウルの師匠の話を聞きました」③




「ところで木蓮殿の名が聞こえたけど?」

「宮廷魔法使い第一席の方の話を聞いていたところだよ」


 ギュンターはソファーに腰を下ろすと、優雅に足を組んだ。


「木蓮殿はお優しい方だ。代々王家をお守りになってきた優秀な魔法使いの一族出身でもあるんだよ。私もとてもお世話になった」


 ギュンターが「殿」をつけて名を呼ぶのだ。

 よほどの人なんだろうとサムは思う。


「そうだ、ギュンター。今、サムと話をしていたんだが、宮廷魔法使い推薦者にデライト殿を考えているんだが、君はどうかな?」

「……おじさまの考えに賛成です。サム、デライト様には会っておいた方がいい。ウルリーケに魔法のいろはを教えたお方だ。しかし、おじさま、いいのですか?」


 なにやら含みのあるギュンターの問いかけに、ジョナサンはおもむろに頷いた。


「本音を言えば、サムと会わせていいものかと悩むが……デライト殿の影響力は今も健在だ。推薦者にできるならしておきたい」

「あの?」


 サムが話についていけず、躊躇いがちに声をかける。

 すると、ギュンターが笑顔で応じた。


「おっと、すまないね、サム。妻の話なのに君を置いてきぼりにしてしまうとは」

「いや、妻じゃねーし」

「私やおじさまだけではなく、リーゼもエリカも知っていることだが、デライト様は確かに素晴らしい魔法使いだよ」

「あんたが言うなら相当なんだろうな」

「デライト様が全盛期であれば、僕の結界を破っていた可能性だってある」


 実に興味深い。

 ギュンターの固い結界を破るのは一苦労だ。

 実際に戦い、ウル以外に結界を破壊できなかったと聞き納得できるほど強固なものだった。

 そのギュンターの結界を破れる可能性がある魔法使いに興味を抱かないわけがない。

 なによりもデライトはウルの師匠なのだ。

 それだけでサムにとっては重要な人物である。


「今は無理なのか? お年を召しているとか」

「全盛期ではないと言ったけど、老人というわけでもないよ。ただ」

「ただ?」

「どう言えばいいのか、迷うね」


 歯切れが悪い。

 気づけば、ギュンターだけではなく、ジョナサンも、リーゼとエリカも難しい顔をしていた。


「デライト様は、宮廷魔法使いの地位を追われて以来……酒に溺れているんだよ」

「ギュンター。言い方が悪いわ。あのね、サム。デライト様はお酒の量が増えて、魔法も使わなくなってしまったの。今は娘のフランチェスカが世話をしているわ」

「……あの、それって」


 補足するようにリーゼが教えてくれるが、サムにはデライトが酒に溺れているようにしか思えない。


「かつては多くいた弟子も、今はひとりもいない。普段は決して悪い方ではない。むしろ、気難しいところはあったが、魔法に熱心な方だったよ。しかし、酒が入ると少々手のつけられないところがある」

「昔は、お酒を飲んでもそんなことはなかったわ。でも、お辛いことがあったから、少しお酒に頼ってしまうのよ」

「気持ちはわからなくもないですけど」

「最強の座と宮廷魔法使いの地位を奪われた後も、お弟子さんたちはデライト様を変わらず慕っていたのだけど、少しずつみんな離れていったわ。そんな内、唯一残った弟子が」

「――ウルですか?」

「ええ」


 しかし、そのウルも今はいない。


「どうする、サム? 今の話を聞いて、君が判断したまえ。無理をしてデライト殿に会う必要もない。推薦者の候補は他にもいる」


 ジョナサンがそう言ってくれるが、サムは悩む。

 ウルの師匠に会わないというのも失礼な話だ。


「ですが、旦那様たちは俺にデライト様と会ったほうがいいと思っているんですよね?」

「本音を言わせて貰えば、デライト殿が一番可愛がっていたウルの残した弟子であるサムと会うことで、彼に変化が訪れることを祈っている」


 どうやらジョナサンたちは、自分がデライトの立ち直るきっかけになってくれればいいと思っているようだ。

 サムとしても、ウルの師匠が飲んだくれになっていると聞かされて放置はできない。


「わかりました。じゃあ、会います。ウルの師匠なら、俺にとっても師匠のような存在です。ご挨拶させてください」

「ありがとう。声をかけてくれれば、いつでもデライト殿の屋敷に馬車を出そう」

「では、明日にでも早速お願いします」

「わかった」


 こうして、サムはウルの師匠デライト・シナトラと会うことを決めたのだった。





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