60「宮廷魔法使いと戦います」③
「それは、その魔力は――ウルリーケの!?」
「師匠の十八番だっ、食らっとけ! ――穿て、炎よ!」
高密度に凝縮された炎が、サムの腕から驚きに目を見開いているギュンターに向かって放たれた。
これはウルが得意とし、多用していた名も無い魔法だ。
魔力を高めた高密度の炎を、レーザーのごとく撃ち放つという凶悪な魔法だった。
単純な威力なら上位攻撃魔法と同等だ。
これで数々の危機を乗り越えてきたのだ。
竜王を名乗る千年生きた巨竜の障壁も、硬い鱗も。
不死の王を名乗る吸血鬼の首領の再生能力も。
大魔法使いを自称する凶悪な魔法使いの魔法も。
すべて、この魔法で破砕し、倒してきた。
サムやウルのように強大な魔力を持つ魔法使いだけに許された――高密度魔法砲撃。
それがこの魔法の正体だった。
「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」
視界が赤く覆われるほどの炎がギュンターの結界に激突する。
轟音を立ててぶつかった魔法が、音を立てて次々と彼の結界を砕いていく。
「ま、まさかこれほどとは」
驚きの目でこちらを見るギュンターにサムが言い放った。
「まだ終わりじゃないぞ」
「――まさか」
「ウルがそうだったように、俺も一度に何発も撃てるんだよ!」
サムの周囲に複数の火球が浮かぶ。
そのひとつひとつに強大な魔力と高密度の炎が凝縮されていた。
「ありえない!」
ギュンターが吠える。
「まさか君はウルリーケと同等の実力を持っているというのか!? その年齢で、すでにウルリーケに追いついているというのか!?」
「俺がウルと同等かどうかはあんたがその身で測ればいい。いくぞ、ギュンター・イグナーツ。ここは住宅街なんだから、周りに被害が出ないようにちゃんと受け止めろよ?」
「――待」
サムは返事を待たずに、更なる炎の閃光を撃った。
その数は、十。
高密度の炎が、四方八方からギュンターを襲っていく。
「ぐっ、くぅ! ああっ、ぐぁあああああああああああああっ!?」
結界を重ねるギュンターだったが、サムの炎熱砲撃の威力の方が上だった。
結界を次々と食い破り、ついにはギュンターを守る全ての結界を破壊し尽くした。
次の瞬間、ギュンターを中心に大爆発を起こしたのだった。
■
リーゼとエリカは、姉妹揃って大きく口を開けて茫然としていた。
爆発音が響き、地面が揺れた。
熱は結界のおかげで届かなかったが、二人と周囲を守っていたギュンターの結界はすべて粉々となり崩れ落ちてしまった。
「…‥嘘」
「信じられない。これが、サムの実力なの?」
リーゼたちは、サムが姉ウルの弟子であり、姉の全てを継承したことを知っている。
彼が得意とする身体強化魔法や、姉から受け継いだ技術、訓練を経て戦闘面での技術も次々に吸収していく姿も見ている。
そして、サムが宮廷魔法使いを目指していることも、最終目的が世界最強であることも、だ。
だが、姉妹はサムのことを過小評価していた。
まだ成人していない少年ではあるが、素晴らしい才能を秘めていて将来が楽しみだ、くらいにしか思っていなかったのだ。
実際に手合わせをしているリーゼですら、宮廷魔法使いになるのはもっと先のことだと考えていた。
宮廷魔法使い第五席のギュンターの自慢の結界を破壊するほどの実力をサムが持っているなど、夢にも思っていなかった。
ギュンターの結界術は、執務に出かける王族を守るのに使われるほど頑丈であり、ウルを除けば破った者はいない。
すでに何度も暗殺を防いだ実績も持っている。
そんなギュンターが誇る結界が、幾重にも展開していたにもかかわらず、すべて破壊されたのだ。
魔法に疎いリーゼでさえ、ありえないことだとわかる。
さらに恐ろしいことに、サムにはまだ余裕があるように見えた。
「ていうか、ギュンターは無事なの?」
エリカが思い出したように不安の声を上げた。
妹の声にリーゼがハッとする。
ギュンターからしかけてきた対決ではあったが、サムが彼の命を奪ってしまえば公爵家を敵に回す可能性がある。
あんな変態でも公爵家次期当主なのだ。
かわいい弟分に必要のない苦労をさせたくはなかった。
「回復魔法使いを呼んで! 国で一番の回復魔法使いを呼んでちょうだい!」
「あ、あたし、とりあえず、家にいる回復魔法使いを呼んでくるから!」
リーゼが控えていたメイドに叫び、エリカが走り出そうとする。
しかし、
「リーゼ、エリカ、君たちの気遣いに感謝するが、それには及ばないよ」
土煙の中から、落ち着きのある声が届いた。
「ギュンター?」
「心配させたようだね。しかし、私は無事だ」
体の至るところに裂傷を作った全裸のギュンターが、姿を見せたのだった。
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