52「和解できました」②
馬車に揺られて時間が過ぎ、もう少しで日が変わろうとする頃。
サムとエリカはようやく王都に戻ってくることができた。
ダンジョンから王都までの道中、ふたりはいろいろな話をした。
そのほとんどがウルのことだった。
ふたりの共通点はウルと言う尊敬すべき魔法使いがいることだ。
彼女を慕い、憧れ、目標にしているサムとエリカは、一度打ち解けてしまえば自然と会話が弾んだ。
今ではすっかり良き友人として関係が成り立っている。
「あ、そろそろ屋敷に着くわね」
「きっと旦那様たちがお怒りですよ」
「……そうよね」
項垂れるエリカにサムは苦笑する。
王都に入ってすぐ、商人の配下が手紙を渡してくれた。
その手紙は、ウォーカー伯爵家当主ジョナサンのものだった。
どうやら一足先に、ウォーカー伯爵家に使いを出してくれたらしい。
ジョナサンはエリカの行動に激怒していた。
客人を勝手にダンジョンに連れ出したことはもちろん、決闘騒ぎを起こした挙句、負傷したこと。
その後始末をサムにさせてしまったこと、などをかなりお怒りだった。
結果的には何事もなく帰ってくることができたからよかったものの、なにかが間違えば、今ここにエリカがいなかった可能性だってあるのだ。
父親として正当な怒りだった。
エリカ自身も、悪いことをした自覚があるので大人しく伯爵からのお怒りを受けるしかないとわかっているようだ。
「ねえ」
「なんですか?」
「今日はありがとう。あと、今までごめんなさい」
「もう謝らなくていいんですよ」
「そ、そう? でも、その、あの、ごめんね」
なにか言葉を探して結局謝罪してしまうエリカに、サムが小さく笑う。
確かに、お世辞にもいい態度を取られたわけではないが、エリカがしたことなど目を合わせない、挨拶を無視するくらいのかわいいものだ。
そのくらいのことでいちいち腹を立てたりするほどサムも大人気なくない。
どちらかといえば、良くも悪くも感情的なエリカらしいと思えた。
今は反省してくれているし、サムとしてはもう謝罪してもらう必要を感じない。
「あ、あのね、サム」
「……エリカ様?」
サムはわずかに驚いた。
思い返せば、エリカが自分の名を呼んだのはこれが初めてだった。
「サムをウルお姉様の弟子として、いいえ、あたしたちの家族として認めるわ。だから、その、今度時間があったら、またお姉様の話をしてもいい?」
恐る恐る尋ねてきたエリカに、サムは笑顔を向けた。
「もちろんです」
「ありがとう」
「俺の方こそ、ありがとうございます」
ウルの大切な家族から、家族として認めてもらったことに、サムはどうしようもない喜びがこみ上げてくるのだった。
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