59「兄妹」
――時間は少し遡る。
魔王遠藤友也がサムの吸血衝動を察し、声のみで介入する前のことだ。
友也が所有する小さな島の砂浜に、ふたりの男女が立っていた。
ひとりは、不機嫌そうな顔をした長身の青年だ。
ブロンドの髪を短く刈り込み、つり目がより一層彼の不機嫌さを強くしている。
もうひとりは、同じくブロンドの髪を伸ばした美女だった。
癖毛を指先で弄りながら、青年と同じややつり目を気怠そうにしていた。
濃い化粧と相まって、陰鬱な雰囲気を醸し出していた。
両者とも、男女の違いはあれ、年齢と端正な顔立ちが実によく似ていた。
はっきり血縁関係があるとわかる。
そして、知るものが見れば、もうひとり二人に似ている存在がいることを思い浮かべただろう。
「ねぇ、レーム兄さん」
髪をいじりながら、女性が呼ぶと、レームと呼ばれた青年が表情を動かさずに返事をした。
「どうした、ティナ?」
女性はレームにティナと呼ばれ、ふたりが兄と妹であることがわかった。
「サミュエル・シャイトをどう思う?」
「これから会うのだ。考えずともよい」
妹の問いかけに、兄が素っ気なく返事をする。
ティナは兄の返答が気に入らず、唇を尖らせた。
「でもさ」
「お前の気持ちはわかっている。レプシー兄さんを倒したサミュエル・シャイトに俺も思うことはある」
「だよね!」
兄の本音は同じことを確認すると、ティナが喜ぶ。
レームがレプシーを兄と言ったことからわかるように、ふたりは魔王レプシーの兄妹だった。
兄と慕っているというわけではなく、血の繋がった実の兄妹なのだ。
そして、吸血鬼でもある。
「しかし、レプシー兄さんの最後はあれでよかったのだ。義姉上を亡くし、娘まで……あんなに小さくて可愛かった子を……」
「人間なんて滅んで当然だよ」
「兄さんが怒りに支配されたのも十分理解できる」
「あんなに怖かった兄さんは初めてだったもん」
「本当なら俺たちもレプシー兄さんと共に人間どもに復讐するべきだった。したかった。だが、他でもないレプシー兄さんが関わるなと言ったんだ。俺たちは、兄さんに従った」
「うん」
兄妹は当時を思い出すだけで今でも怒りがこみ上げてくる。
すでに義姉と姪を奪った国は存在しない。
それでも、大陸の各地に人間の国は存在し、兄妹が住まう大陸西側にも人間の国がある。
元人間である兄妹だが、それでも大切な兄から家族を奪った人間たちを許せなかった。
それは現在でも変わらない。
「スカイ王国からレプシー兄さんを解放することだってできたが、友也様、ヴィヴィアン様、エヴァンジェリン様がお止めになられた。その理由はわかるだろう?」
「また兄さんが暴走しちゃうからだよね」
「そうだ。レプシー兄さんは強すぎた。同じ魔王様たちでも止めることができないほど強かった。それ以上に優しすぎた。レプシー兄さんは解放されてしまえば、再び復讐を始めるだろう。もう復讐する相手などいないのに」
家族を理不尽に奪われたのだから、レプシーの怒りは正当に思える。
首謀者の人間たちも、兄の妻が魔王の恩恵を受けていることへの嫉妬や妬みから暴挙に走ったと聞くが、真相は定かではない。
「私さ、人間が嫌い」
「俺もだ」
「だから、レプシー兄さんを解放してくれたサミュエル・シャイトに感謝はするけど、絶対好きになんてなれない」
「それでいい。友也様も、俺たちの感情をぶつける機会をくださったが、実際はサミュエル・シャイトを成長させるための餌にしかすぎん」
兄の言葉に、面白くなさそうに妹が鼻を鳴らした。
「ふん。人間の子供なんかが魔王に至れるのかしら」
「それを見極めるのが俺たちの仕事だ」
「でも、殺していいんでしょう?」
「構わないと言われている。俺たちに殺されるのであれば、魔王に至れずそのうち死ぬだろう。遅かれ早かれだ」
だが、とレームは続けた。
「もし、サミュエル・シャイトが本当に魔王に至れるのであれば――俺たちの兄さんに相応しいだろう」
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