55「魔王の説明と驚きの事実です」①
「――俺は」
「あえて、意地の悪いことを言いましょう。リーゼロッテ様だけではなく、他の奥様まで危険に晒す気ですか?」
「――っ」
サムの声に被せて告げられた友也の言葉に、言い返すことができなかった。
彼の言う通りだからだ。
異変に気づいてくれたゾーイたちがいたからこそ、サムは吸血衝動でリーゼを襲わずに済んだ。
しかし、二度目、三度目の吸血衝動が訪れたとき、都合よくゾーイたちが傍にいるかわからない。
なによりも、衝動に襲われるたびに彼女たちの世話になることもおかしい。
ならば解決する手段を探すのが最善なのだが、現状、その手段こそサムが魔王に至ることだった。
「吸血鬼になれば数十年から数百年ほど血を吸って生きなければなりません。いずれ血がなくとも平気になりますが、正直、それが何年後という保証がない。君も、誰かの血を飲んで生きたくはないはずです」
「それで、魔王に?」
「はい。人間から吸血鬼に転化する前に、人間の殻を破り魔王に至りましょう。そうすれば、少なくとも表面上は今まで通りに生活ができます」
「待って!」
サムと友也の会話に割って入ったのはリーゼだった。
「リーゼ殿?」
「サムが魔王になるのは別にいいわ。種族が変わったくらいで、私たちの関係は変わらないもの」
「僕だって変わらないさ!」
「――素晴らしい。しかし、あなたはなにか疑問があるのでしょう?」
「サムが魔王になったら、寿命はどうなるの? ゾーイたちだって、私たちの数倍生きているのでしょう?」
「もちろん、彼の寿命も大幅に伸びるでしょう。僕の知る魔王はみんな千年経っても若々しい。僕を含めて、しばらくは老いで死ぬことはないでしょうね」
「それでは、サムがひとりぼっちになってしまうわ!」
リーゼの台詞に、友也は姿こそ見せていないが、驚いたような気配が伝わった。
「サムが吸血鬼になっても、魔王になっても、私は、私たちの愛情は変わらないわ。でも、老いることがなければ、サムは間違いなくひとりぼっちになってしまうじゃない! それは許せないわ! 亡きお姉様にも申し訳ないわ!」
リーゼと同意見なのだろう。
ステラたちも、頷いている。
サムは目頭が熱くなった。
リーゼたちは、なによりも自分のことを考えてくれている。
もっと他にも気にすることはあるはずなのに、まずサムのことを考えてくれた。
不謹慎だが、嬉しくてたまらなかった。
「正直、何よりも先にサムのことを第一に思ってくれる奥様たちがいる君はとても幸せものですね」
「――幸せでしたが、今、もっと幸せになりました」
涙を見せないように、サムは目元を拭った。
「リーゼ殿、しかし、サムが死ぬよりはいいでしょう」
「どういうことですか? サムは吸血鬼にならないように魔王になるのでしょう? 死ぬ理由があるのですか?」
「残念ながら可能性としてあります。吸血鬼になった場合、サムが吸血を拒めば渇きに狂うか、吸って後悔に苛まれるでしょう。そのくらいなら、まだいいのですが、吸血鬼という種族ではサムの大きな力には耐えられない」
「どういうことですか?」
「今、サミュエル・シャイトという人間は、大きく成長過程にあります。肉体が成長期だから、魔王レプシーから力を譲り受けたから、強い敵と戦って成長したから、理由はたくさんあるのですが、すくなくとも人間のままではいずれ自身の力に苛まれて肉体が持たずに死を迎えるでしょう。そして、残念ながら吸血鬼になっても同じ結末が待っているでしょう」
「だから、魔王に?」
「ええ、サムを死なせないために魔王にします」
友也の言葉からは友愛が感じられた。
同じ日本出身のサムを気遣ってくれているのか、それとも他になにかあるのか。
もちろん、友也の言葉をそのまま受けいれることのできない者もいた。
ゾーイ、エヴァンジェリン、ボーウッドだ。
「待て、サム、リーゼ。私の知る遠藤友也ならなにか企んでいる可能性がある」
「可能性つーか、絶対なにかくだらねぇことを考えてるに決まってる!」
「兄貴、姉貴、油断は禁物ですぜ」
「……君たちねぇ。まあ、僕も善意だけで行動するのは百年ぶりだから疑われるのも仕方がないけど、そうだね。なら亡き親友レプシーに誓ってサムの魔王化を善意だけで提案していると誓おう」
「いや、お前の誓いなど、薄っぺらいにもほどがある」
「ゾーイ……さすがに、そろそろ泣くよ」
信頼度がまるでない魔王に、張り詰めていた空気が少しだけ和らいだ気がした。
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