51「衝動です」③
「おのれ、まさか変態に助けられるとは!」
「随分なお言葉だね、ゾーイ君。そして、ボーウッド君、女神エヴァンジェリン様、ご機嫌麗しゅう。――素敵な夜這い日和だね」
「意味がわからん!」
ゾーイのツッコミを受けたギュン子は、気にせず前に出る。
「サムがずいぶんと興奮しているようだね。なにがあったのかな?」
「……まさか、貴様、本当に何も知らずにきたのか?」
「知らないもなにも、サムに夜這いをかけようとこっそりやってきたら、なにやら騒いでいるからね。僕抜きでパーティーでもしているのかと」
「そんなわけがあるまい! サムは今、吸血衝動に陥っているのだ!」
「ああ、なるほど。つまり、魔王レプシーの置き土産が、今になってサムを吸血鬼にしようとしているわけだね」
「……なぜわかる」
「サムのことならすべてわかるのさ! ――愛ゆえに!」
夜中にもかかわらず、声高々のギュン子にサムが襲いかかる。
吸血衝動を満たそうというよりも、敵と認識して襲いかかった感じだった。
「残念だが、この結界は一味違うよ。サム」
音を立ててサムが結界に激突すると、雷がサムの全身を襲う。
「雷はおまけだが、この結界は君の夜這い用に開発した僕の結界術の中で最も硬い結界さ! まともな状態な君でも――おや」
自信満々に結界を誇るギュン子であったが、雷を浴びながらサムが拳を振るうと、結界に亀裂が入る。
スキルこそ使っていないようだが、単純な腕力で砕かれるほど、柔な結界ではない。
「さすがに僕も動揺が隠せないよ。スベテヲキリサクモノを想定して作った夜這い用結界を、拳だけで砕こうとするだって――さすが愛しのサムだ!」
「駄目だ! この変態は役に立たん、下がらせろ!」
「おい、ギュン子! お前は私の加護があるんだから、魔力面でも強化されているはずなんだぞ! もっと根性見せろ! 私だと、ダーリンを殺しちまう!」
「ふっ、女神様の手を煩わせる必要などありません。ようは、サムがリーゼの血を吸わなければ良いのでしょう?」
「そりゃそうだけどよぉ」
にやり、とギュン子が勝ち誇った顔をすると、結界を破壊しようとするサムの目の前に立った。
「おい、何をするつもりだ!」
ゾーイの疑問に、振り返り、にやり、と笑みを浮かべると、ネグリジェをめくった。
「リーゼの血を吸うくらいなら、僕の血を存分に吸いたまえぇええええええええええええええ!」
「馬鹿野郎ぉおおおおおおおおおおおおおおおおお! 吸血したら、兄貴が吸血鬼になるんだぞぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」
ボーウッドが叫ぶが、もう遅い。
ギュン子はリーゼの身代わりに、吸血される気満々だった。
しかし、
「――あ、なんか治った」
急に、サムが正気を取り戻してしまった。
「なぜだぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?」
ギュンターの絶叫がウォーカー伯爵家に木霊した。
サムは気まずそうにギュン子に視線を向けると、
「なんかごめん、すっごく萎えた」
「だから、どうしてぇえええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」
なにはともあれ、ギュン子のおかげでサムの吸血衝動は治ったのだった。
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