49「決闘の後始末」①
巨腕で握りしめていた三人を解放し、地面に放り投げる。
「――つまらない奴らだった」
勝敗などどうでもいい。
そもそもまともな勝負にすらなっていなかった。
ドルガナたちが反則をした時点で、決闘をする意味がなかったが、エリカに不意打ちをしたことだけは許せなかった。
紆余曲折があったものの、結果が出た以上、ドルガナたちに待っているのは奴隷となる未来だ。
「……貴様っ。このことがパパの耳に入れば、貴様などただではすまないぞ! わかっているのか!」
「もう黙っていいよ」
決闘の間、抱き抱えていたエリカをそっと地面に横たえると、降伏したにもかかわらず足掻こうとするドルガナの顎を爪先で容赦無く蹴り上げた。
声をあげることなくひっくり返ったドルガナはぴくりともしない。
気絶したようだ。
「最後までうるさい奴だったな」
これ以上、わがままな子供に付き合うだけ時間の無駄だとサムは判断した。
いまではすっかり静かになりせいせいする。
「そんなことよりも、エリカ様を医者に見せないと」
もうドルガナたちに興味をなくしたサムが、エリカを再び抱き上げて医者を探そうとする。
「あの!」
すると、サムの足元にドルガナの従者である少年少女が揃って膝をついた。
「邪魔なんだけど、どいてくれる?」
冷たく言い放つサムに、ふたりは揃って地面に額がつくほど深々と頭を下げた。
「どうか、どうかお許しください!」
「今回の決闘をなかったことにしていただけないでしょうか!」
平伏しながらも、そんなことを言い出す従者たちにサムは呆れた。
「今更、なに言ってるの? まさか自分たちが降伏していないから負けてないなんていうなら、もう一度戦ってやってもいいんだよ?」
サムは苛立ちを隠さず睨む。
エリカを早く医者に見せたいのに、邪魔をするふたりに殺意すら湧いた。
もし、ふたりが性懲りもなく決闘を望むのなら、時間をかけず命を奪おうと考えた。
「い、いいえ! 私たちではあなたに勝つことはできません! 敗北を認めます。ですが、奴隷だけはお許しください!」
「なにを調子のいいことを」
決闘に負けて奴隷になることが決まっていながら、それを不服と訴えてくるふたりを相手にするだけ無駄だと判断し、エリカのために医者を探そうとする。
しかし、ふたりはサムを逃さんとばかりに足にしがみ付いてきた。
「邪魔だ!」
「わ、私はリジー・マイケルズです! マイケルズ男爵家の娘です! こちらは従兄弟のロイドです! 私たちは父に命じられてドルガナ様の従者をしていただけなのです!」
「だからなんだって言うんだ?」
「ドルガナ様の横暴をお止めできなかったことは心から謝罪致します! しかし、最悪の事態になる前にお止めするつもりでした!」
「止めなかったじゃないか。もういい、さっさとどいてくれ」
うんざりだった。
リジーとロイドは好き好んでドルガナに従っていたわけではないのかもしれない。
だが、後から止める気があったなどと言われても、彼女たちは止めなかった。
止めなかったから決闘となり、敗北したのだ。
「いいえ! 誤解です! 決闘後に、ドルガナ様をお諫めするつもりでした!」
「あのさ、してもいないことの話をされても困るから。あんたたちは負けて奴隷になる。それで終わりだ」
ジリーの腕を払い、サムが立ち去ろうとする。
「――貴族を敵に回すおつもりですか?」
すると、背後からそんな声をかけられ、サムは足を止めて、振り返った。
「脅しか?」
「事実です。あなたが私たちを奴隷として扱おうとしても、いずれは助け出されるでしょう。そのときに後悔されるのはあなたのほうです。これは、あなたのためを思って言っているのです」
(いい加減、面倒になってきたな)
馬鹿な主人のせいで自分まで奴隷になりたくないのだろうが、そんな主人を止めなかった責任は彼女にもある。
そもそも奴隷だなんだと言い出したのは相手側で、サムはこんな鬱陶しい三人などほしくもなかった。
だからといって奴隷にしない、と言ってしまえば彼女たちはつけ上がり、反省をしないだろう。
ならば、選択肢は限られる。
「じゃあ、後腐れなく殺したほうがいいかな」
明確な殺意を持ってサムがリジーを睨みつけると、彼女は大きく体を震えさせた。
「――ひっ!? そ、それこそ、貴族を敵にします! お金を払います! 誠意を尽くしますので! どうか、奴隷だけはお許しください!」
奴隷はいらないが、エリカを傷つけたジリーらを許すつもりは毛頭ない。
だが、リジーも必死に食い下がってくる。
いい加減、サムの我慢も限界だった。
このままエリカを医者に見せることができず、時間ばかりが過ぎていくようなら、口を開けなくしてしまうほうが早い。
(別にそれでもいいか)
エリカを害した奴らに時間が割くのが惜しい。
サムは三人を始末する選択をした。
魔力を高め、身体を強化する。
そして、片腕を足元ですがりつくリジーへと向けた。
「おぼっちゃま、おぼっちゃま! 少しお時間をいただけないでしょうか?」
「――ん?」
背後から明るい声をかけられてしまい、サムの殺意が霧散してしまう。
誰だ、と思い振り返ると、恰幅の良い中年男性が笑顔を浮かべて立っていた。
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