33「エヴァンジェリンの今後です」①
デリックが用意してくれたお茶を飲んで一服するサムたち。
帰国してからようやく一息つくことができたサムに紅茶の甘味が染み渡る。
しかし、いつまでものんびりしていられない。
ゾーイとボーウッドをリーゼに任せたままだし、セドリックとルイーゼの件を含めてクライドに報告しに行かなければならない。
キャサリンが報告するために王宮に一足先に向かってくれたのだが、もう少ししたら自分もいかなければ、と思う。
「つーか、こんな立派な屋敷があるのに、なんでダーリンは人の家で暮らしてんの?」
「人の家っていうか、奥さんの実家なんだけどね」
「あー、リーゼロッテだっけ?」
「知ってるの?」
「一度だけ会ったぞ。うん、いい奴だった」
「そういってもらえると嬉しいよ」
いつどこで会ったのか不明だが、自分の愛する女性を「いい人」と言ってもらえて嬉しくなる。
立花も同意するように頷いた。
「リーゼは良い娘だ。私も、娘たちも世話になっている」
「――そういえば、お前はダーリンと同棲してるんだよな」
「……姉様。その言い方だと誤解を招いてしてしまいます。私はウォーカー伯爵家に家族で世話になっているのです」
今ではすっかりウォーカー伯爵家の一員となった灼熱竜一家は、伯爵家で住まう人々と打ち解け親しくなった。
それでも、なんだかんだで一番気を許しているのはアリシアかもしれない。
とくに子竜たちの懐きっぷりはすごい。
「アリシアと子竜たちも仲がいいしね」
「そうだな。アリシアのおかげで、子供たちもいろいろな意味で成長した。あの様子だと、そろそろ人化するだろうな」
「へえ、楽しみだな」
「とくにメルシーが早そうだ」
メルシーとは、アリシアが名付けた子竜であり、三姉妹の長女だ。
サムにもよく懐いてくれている、元気いっぱいの子だ。
子竜三姉妹が、どんな姿になるのだろうかと、今からワクワクしてしまう。
あとでアリシアにも教えてあげようと思う。
「成長が早いことはいいことだわ。私は人化するのに結構時間かかったんだから」
「私は早かったですね」
「個体差があるんだねぇ」
「それはさておき、なんだけど、ダーリン」
「うん?」
ティーカップを置いて、少し真面目な顔をしたエヴァンジェリンがサムをまっすぐ見つめた。
「ヴィヴィアンと友也のボケに会ったでしょ?」
「うん」
「本当はふたりに会う前に教えてやりたかったんだけど、ま、いっか」
どうやら彼女は魔王に関してのアドバイスをサムにしてくれようとしていたらしい。
彼女の気遣いに感謝する。
「ヴィヴィアンは基本的にいい奴だから、普通に付き合っていていいと思う。なにか企むような性格じゃないし、むしろ企む前にちゃんとお願いしてくるから信用していい。友好関係を築くには、一番の魔王でしょ」
「俺もそう思うよ」
エヴァンジェリンの言うように、ヴィヴィアンは魔王らしくない方だった。
レプシーの親でありながら、サムに悪い感情を持たず、むしろ礼を言ってくれた。
サムの気持ちが楽になったのは言うまでもない。
なによりも、水樹の妹であることみのために魔道具まで用意してくれた。
今頃、水樹は魔道具をことみに届けているだろう。
できることなら、サム個人はもちろん、スカイ王国と夜の国でも友好関係を続けていくことが望ましい。
「たーだーし! あの変態魔王は警戒しておけ! あいつは、いっつも誰かを利用したり、操ったり、小馬鹿にしたりって、腹黒いんだよ! 私にラッキースケベした挙句、――勘違いさせたら悪いから言っておくけど好みじゃないんだごめんねって、こっちだってテメーなんか好みじゃねえよ!」
ヴィヴィアンに対し、遠藤友也にはいろいろ思うところがあるようだ。
「腹黒くても、ダーリンを騙して陥れたりはしねえだろうけど、厄介ごとに笑顔で巻き込んでくるタイプだから注意しといたほうがいいぞ。私とレプシーが、何度あいつに振り回されたか!」
「あはははは、苦労しているようで。意外といい魔王だったよ」
同じ日本出身だしね、とは言わなかった。
サムはいいのだが、友也が情報を開示していない可能性もあったので、この辺りは黙っていようと思う。
「……ダーリンがそう言うならいいんだけどさ。私も別に腹が立つし、警戒はしてるけど、嫌いじゃねーし」
なんだかんだと言ってエヴァンジェリンは友也と仲がいいのだろうと思うサムだった。
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