21「女体化したそうです」②
「ど、どどどど、どいうことだ!? 女体化ってなに!? どうしてそんなことになったの!? ていうか、どうやったの!?」
ギュンターがわざわざ嘘をつくとは思えないので、本当に女体化したのだろう。
リーゼたちがあえて黙っていたのも、納得だ。
彼女たちからギュンターが女体化したと聞かされても、首を傾げて終わっていただろう。
しかし、なぜ女体化したのか、どうやって女体化したのか、女体化した結果なぜ舞台女優なのか、と疑問は尽きない。
「まあ、落ち着きたまえ。ちゃんと説明をしよう。僕はね、先日、女神様と出会ったのさ!」
「女神だって?」
「彼女は僕に祝福してくれたのだよ! そうして、生まれ変わった! 今の僕は、正真正銘の女性! ギュン子さ!」
「いろいろ突っ込みどころはあるんだけど、その名前はなんとかならなかったのかな」
ギュン子ってなんだギュン子って、どうして西洋風のスカイ王国で、わざわざ「子」を名前につけるのかわからない。
「サム! お前はなにを言っているのだ! 名前などどうでもよいだろう! この国では、奇怪な女装クリーチャーがいるというのに、女体化さえ普通に行えるような技術があるというのか!?」
声を荒らげたのはゾーイだった。
彼女にとっても、女体化などそうそうできないらしい。
「いや、普通じゃないでしょう。はじめて聞いたよ、女体化なんて」
「ならば、なぜ」
「ところで、ギュンター」
「ギュン子と呼んでちょうだい!」
めんどくせー、と嫌そうな顔をしたサムは、咳払いをした。
「ギュン子さんや」
「なにかな、サム」
「一番の疑問なんだけど、女神様って誰?」
サムの記憶が正しければ、女体化をさせてくれるような女神などいない。
スカイ王国にある教会も「神」を崇めているが、漠然とした神を対象にしており、女神ではない。
ならば、誰だ、と疑問を浮かべるのは無理もないことだった。
サムの問いかけに、ギュンター――いや、ギュン子は、劇場の窓の外を指差した。
「ああ、今もあちらの神殿にいらっしゃる」
「神殿? ――え? 嘘、なにあれ? 出発前にはなかったんですけど!」
窓の外には、サムたちが結婚式を挙げた教会に負けず劣らない神殿が建っていた。
純白の建物と、大きな鐘が目立つ。
しかし、サムの記憶にはあんな建物存在していなかった。
「わたくしが主体になって、王都のみんなと一緒に建てたのよん!」
「お前の口調にゾッとするんですけど! え、待って、神殿建てちゃったの?」
「もちろんさ。女神様を奉る僕たちが本気になれば、容易い容易い!」
「――待て」
自慢げに神殿を数日で建ててしまったことを誇るギュン子に、ゾーイが割って入った。
「なにかな、かわいらしいお嬢さん」
「子ども扱いするな。私は貴様よりも年上だ」
「ふむ。そうなのか――ま、まさか、サムが新しい妻を連れてきたのではないだろうね!?」
「ば、馬鹿なことを言うな! 誰が誰の妻だ! そういうことは時間をかけてだな、まずは文通を百年ほどだな……」
ギュンターの「妻」発言に、ゾーイの頬が真っ赤に染まった。
「はっはっはっ、初心なお嬢さんだね!」
「黙れ! ――いや、そんなことはどうでもいい。女神とはなんだ? この世界に女神など、いや、神などいないはずだ!」
ゾーイが睨みつけると、ギュンターは髪をかき上げて、鼻で笑った。
「――ふっ。無知とは恐ろしい。だが、恥ずかしいことではないよ」
「なんだと」
「なんでお前はそんなに上から目線なんだよ」
ギュン子の言葉遣いに、ゾーイが苛立ったのがわかったので、サムが間に入ろうとするも、彼女の勢いは止まらなかった。
「心して聞くといい! 先日、スカイ王国に愛の女神様がご降臨なされたのだ!」
「愛の女神、だと?」
「その名も、エヴァンジェリン・アラヒー様さ!」
「魔王じゃねえかぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」
思い返せば、魔族の土地で一度も顔を合わせなかった魔王が、まさかスカイ王国で女神扱いされていることに、サムはもちろん、ゾーイも絶叫したのだった。
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