47「決闘です」②
冒険者ギルドの職員が、立会人としてサムたちとドルガナたちの間に立った。
「それでは、冒険者ギルド立ち合いの決闘を――」
立会人が、いざ決闘の始まりを宣言しようとしたときだった。
「――食らえぇええええええええええええっ!」
合図がまだにもかかわらず、先制攻撃とばかりにドルガナが魔法を放ったのだ。
無論、これはルール違反、反則だ。
これにはサムが反応できなかった。
まさか、立会人まで立てた正式な決闘で、こんな暴挙を行う馬鹿が実際にいるとは思っていなかった。
この時点で、ドルガナの反則負けである。
しかし、問題はそこではない。
ドルガナが放った無数の水魔法の槍がエリカに襲い掛からんとしているのだ。
「エリカ様! 逃げてください!」
「――っ!」
サムは自らがエリカを守るには間に合わないと判断し、叫んだ。
大声に反応したのか、茫然としていたエリカが弾かれたように魔法障壁を張る。
しかし、
「きゃあぁあああああああああああああああああああああっ!」
魔法障壁のおかげで水の槍がエリカを突き刺すことはなかったが、勢いまでも殺すことはできず、彼女は大きく後方に吹き飛ばされてしまう。
そのまま、二度、三度、地面をバウンドしながら転がっていく。
「エリカ様っ!」
サムが急ぎ駆け寄った。
「エリカ様っ、大丈夫ですか? エリカ様!」
「う、うぅ」
小さく呻き声を上げるエリカを抱き抱える。
見たところ、流血はしていない。
視線がこちらに向いているが、頭を打ったのか、意識が朦朧としているようだった。
「はははははは! 油断していたな! これで貴様たちは僕の奴隷だ!」
「ドルガナ様! これは反則です! ギルドの立会人としてあなたの勝利を認めるわけにはいきません!」
勝ち誇るドルガナに冒険者ギルドの立会人が抗議するも、彼は太々しい態度で知らぬと言う。
「黙れ! たかがギルド職員程度が僕に意見するな! 殺されたいのか!」
「あなたこそ、このような暴挙がまかり通るとお思いですか!」
さすがに冒険者ギルド側もドルガナの蛮行を認めなかった。
しかし、ドルガナはギルドの声など気にも留めていない。
「――結局、お前は決闘するつもりなんてなかったってことか?」
「当たり前だ! なぜ貴族の僕が、貴様たちのようは平民と対等に戦わなければならないのだ!」
「じゃあ、もういい」
「なにを言っている! 早くその女をよこせ! さっそく可愛がってやろう! おい、あの女を回収しろ!」
「はっ!」
「はい!」
ドルガナの命令に、従者たちが近づいてくる。
奴らはエリカを手に入れた後、間違いなく奴隷として扱うのだろう。
――それは認められなかった。
意気揚々と従者の後からこちらに向かってくるドルガナに向けて、サムはエリカを守るように抱きしめると、腕を掲げる。
そして、三人に向い、掌を向けた。
「貴様、なんだ、その態度は?」
「――よくもウルの妹を……ウルの大切な家族を傷つけたな」
サムは怒りで頭がどうにかなってしまいそうだった。
今にも暴れ狂いたい衝動を必死に堪え、冷静になれと自らを叱咤する。
その上で、大切な師匠の家族を馬鹿にした奴らに罰を与えろと、心が叫んだ。
「まさかとは思うが、従者如きが僕と戦うとでもいうのか? いいだろう。ならかかってこい! 僕の華麗な魔法で貴様を串刺しにしてやる!」
「馬鹿馬鹿しい。相手の実力も見抜けない、ただ魔法が使えるだけのガキが、ウルの大切な家族を奴隷にするだと? 俺を串刺しにするだと? ――笑わせるな」
サムは三人に向けていた掌を、力強く握りしめる。
「――ゴーレムよ、あいつらを拘束しろ。握り潰しても構いやしない」
刹那、地面から巨大な腕が生えた。
「うわぁあああああああああああっ! なんだっ、なんだっ、この腕はぁあああああああああ!?」
絶叫するドルガナと唖然とする従者ふたりを、巨腕が唸りを上げて動き握りしめ、拘束したのだった。
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