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471/2011

8「これからのお話です」




 ハンバーガーとポテトに舌鼓を打ちながら、レモンが入った炭酸水で喉を潤す。

 戦いの後で空腹と喉の渇きを覚えていたサムには、友也のもてなしがありがたかった。

 なによりも、前世の学生時代、友人と過ごした放課後を思い出すメニューであることも嬉しい。

 社会人になって縁が切れてしまった友人たちは元気だろうか、と思う。


「ふふ、こうしてハンバーガーを食べていると、料理も作ってくれない親の置いて行った少ないお金で毎日お店に通っていたことを思い出します」

「……………」


 学生時代の思い出を口にしないでよかった、と心底思った。


「さて、個人的なお話ばかりしてしまいましたが、君にはお礼が言いたかったんです」

「お礼ですか?」


 ハンバーガーを皿に置いた友也は、少しだけ憂いを帯びた表情を浮かべてサムに頭を下げた。


「レプシーを解放してくださってありがとうございました。彼は、こんな僕が信頼することのできた数少ない友人だったんです。もっとも、体質のせいで彼には警戒されていましたが」

「レプシーにラッキースケベしたとかですか?」

「いいえ。彼の奥さんと娘さんにラッキースケベをしました」

「そりゃ警戒されるよ! というか、レプシーが警戒した魔王とかいうから何者なんだとビビっていたのに、そういう意味での警戒かよ!」

「それに対しては不満もあるんですよ」


 再びハンバーガーを食べ始めた友也はサムのツッコミを受け流して、過去を思い馳せるように語った。


「僕がいたからレプシーとアイリーンは結婚できたんですけどね。アイリーン……レプシーの妻は、僕が支援していた町で育った子でしてね。働き口を探していた彼女に、レプシーの住まいの掃除と食事の世話を斡旋したんです」

「就職場所が魔王の住まいとはその子も思わなかったでしょうね」

「よくおわかりで。とてもびっくりしていましたが、明るい良い子でしてね。あっという間にレプシーと相思相愛になり子供ができました。……幸せだったんですよ。本当に、そのときは」


 友也の声が暗くなったことで、レプシーの結末を思い出す。

 レプシーは最愛の妻子を人間に殺されてしまい、復讐に走ることとなる。

 そして、異世界の勇者に討伐され、長い時間封印されることとなる。


「正直、僕のせいでレプシーがあんなことになったんじゃないかと悩むことがあります」

「――それは」

「アイリーンだって、レプシーと一緒にならなければ死ななかった。僕がふたりの縁を結んだことで、ふたりが、いいえ、子供を含めた三人が不幸になってしまった。責任を感じずにはいられません」


 残された側の辛さを噛み締める友也は、ありえない可能性を口にした。


「君のように、レプシーがどこかの世界に転生し、アイリーンと娘のデイジーと笑って生活できれば……なんてことを考えます」

「わかります。俺も、そうあってほしいです」


 サムも同じだ。

 レプシーたち家族だけじゃない、若くして亡くなってしまったウルもどこかの別の世界で、元気で暮らしていたら――考えてしまう。

 前に進もう、くよくよするな、そう思っても、残された人間は死者を想うのだ。


「すみません。お礼を言うはずが湿っぽい話になってしまいましたね」

「ですね」

「話を変えましょう。ゾーイにはすでに会っていますよね?」

「ゾーイ? ええ、よくしてもらっています」

「彼女はアイリーンが保護した子で、吸血鬼にこそなってしまいましたが、元人間です。いろいろ辛い目に遭って、人間嫌いでしたが……慕っていたアイリーンと可愛がっていたデイジーを失い、尊敬するレプシーが復讐に狂ってしまったせいで、人間嫌いに拍車がかかりました」


 ゾーイが人間嫌いなことは知っていた。

 主人とその家族を殺されたのだから嫌って当然だと思っていたのだが、他にも理由があるようだ。


「そんな彼女が君と仲良くしてくれているのなら、僕も嬉しいです」

「ゾーイとは親しいんですか?」

「あははははは。僕は妹のように思っているんですが、顔を合わせるたびにラッキースケベをかましてしまうので、いつも邪険に扱われますよ」


 彼曰く、かつては「遠藤様」と呼び敬意を払ってくれていたのだが、ラッキースケベを何度かするようになると「友也」と扱いを下げられてしまったようだ。

 しかし、友也はレプシーに続き、ゾーイに気を許しているようだ。


「最初にゾーイと出会ったとき、彼女の態度は悪かったでしょう?」

「ええ、まあ」

「良くも悪くも君に興味を持っていると思います。ゾーイは基本的にドライな性格をしていますから、興味を持たなければ平気で無視されますよ」


 初対面のときのゾーイの敵意を思い出すとゾッとする。

 先ほど戦ったボーウッドよりも早く、恐ろしい存在だと冷や汗を流したのを覚えている。


「そんなゾーイを見ていればわかると思いますが、他にもいるレプシーの眷属は君を認めないでしょう」

「……はい。でしょうね。気持ちは分からなくもないですが」


 サムだって、慕っていた主人を人間の小僧が倒したなどと言われても納得しない。

 人間と吸血鬼では根本的な地力の差があるのだが、レプシーに至っては魔王でもある。

 成人してもいない人間の子供が本来ならば倒せる相手ではないと思うのが普通だ。


「僕が保護している子もいれば、爵位をもらい他の魔王の配下になっている子もいます。もちろん、ヴィヴィアンのもとにもね。その大半が、君を見定めようとしたいはずです」

「……困りましたねぇ」

「ですが、その筆頭のゾーイが君と親しくしているなら、さほど大きな問題になりません。せいぜい決闘を申し込まれるくらいです」

「それはそれで大変な気もしますけど」

「はははは、ゾーイほど強い眷属はいませんので。今の君なら倒せますよ。もっとも、相手が無事ですむかどうかはわかりませんけど」

「そこは気にしましょうよ」


 遅れを取るつもりはないが、レプシーの眷属であり魔王の配下である吸血鬼たちを斬り裂くわけにはいかない。

 しかし、魔法と肉弾戦で応じれば勝率が下がってしまう。

 サムの大きすぎる力は、敵を確実に傷つけ、容易く命を奪う死神の一撃にもなる。

 魔族とはもちろん、ヴィヴィアンの配下であるレプシーの眷属とはできるだけ揉めたくないと思いながら、サムは残っていたポテトを口の中に放り込むのだった。





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