5「特典をもらったそうです」
はぁはぁ、と突っ込みに疲れて肩で息をしてしまう
さっきから突っ込んでばかりだ、と魔王相手になにをやっているんだろうか、と頭痛がしてくる。
大きくため息をついたサムが、ふと気になり友也に尋ねた。
「じゃあ、女神様の役割ってなんなんですか?」
「異世界に行く僕に特典をくれることです」
「――っ」
漫画や小説でお馴染みの特典に、サムがわくわくしたのは内緒だ。
続きを待つサムに、魔王は続けた。
「――ダーツをしましたよ」
「まさかのダーツ!?」
「しかも当たったのは四駆の車で……異世界でどうしろと。中学生だし運転もできないと言ったら、なんと転移魔法をくれました」
「なにそれずるい!?」
特典がダーツで選ばれることや、車が当たったことなど、突っ込みたいことは山のようにあるのだが、非常に習得困難な転移魔法をもらえるのは素直に羨ましい。
車かどちらか選べと選択を迫られたら、サムなら悩むことなく転移魔法を選ぶ。
友也の使う転移魔法は自分だけではなく、他人もぽんぽん転移させることができるのだ。これほど便利なものを授けてくれるのは、さすが神だ、と感心する。
「その他にもいろいろもらったんですが、その話はまたの機会に。さて、転移魔法とラッキースケベを携えた僕ですが、最初から魔王に至れるほどの力があったわけではありません」
「そうだったんですか?」
「もちろんです。この世界に召喚されたときは、ラッキースケベな普通の男子中学生でしたから」
「それはそれですごいんですけどね」
少なくとも普通ではない。
口には出さないが、異世界側も召喚する人間を間違えた、と後悔した可能性だってある。
「最初はとにかく生きていくのが大変でした。しかし、僕はラッキースケベを利用して、敵を倒し、経験を積み、魔王に至りました」
「その過程が気になるんですけど。というか、ラッキースケベを利用した戦いってなに!?」
「はははは、すみません。長くなるのではしょらせてください。ラッキースケベをすると、みんながびっくりするじゃないですか。その動きを止めた隙に、転移魔法で背後に回ってサクッとやっちゃうんです」
「うわ、汚な!」
「あははははは! 勝てば官軍です!」
多くを語らなかった友也だが、いくらラッキースケベでも、転移魔法を持っていたとしても、中学生が身体ひとつで異世界に放り込まれたのだ。
想像を絶する苦労があっただろう。
(はしょられたけど――ラッキースケベと転移を利用して、さらに敵を屠ることができるくらいの力はあったわけだ)
不意打ちならば、一撃で決めないと次はない。
いくらラッキースケベで驚かそうが、せいぜい初見がいいところだ。
転移魔法だって、背後に回ってもそれなりの実力がある者なら対応だってできる。
つまり、友也はまだ何らかの力をもっているのだろう。
「ライトノベル百冊分ほどのイベントはありましたが、魔王になってこうして元気でやっていますよ」
「みたいですね」
「さて、ここからが話の本番なのですが――君は女神に会いましたか? 転生者だと分かっていても、神にあったかどうかは本人に聞かないとわかりません。できれば、偽りなく正直に教えてくださると助かります」
女神との邂逅の有無を尋ねてくる友也からは、今までと違い、焦りと、期待、そして不安が感じ取れた。
しかし、残念なことにサムは女神に会ったことなどない。
「残念ですが、女神と会ったことはありません」
「……そう、でしたか」
「なにか理由でもあるんですか?」
サムの疑問に、友也は空を見上げ、呟いた。
「もう一度女神様と会いたいんです」
「なぜ、と聞いても?」
「構いませんよ。僕は、ラッキースケベをなんとかして取り除きたいんです」
「――え?」
「え、と言われても。ラッキースケベを」
「大丈夫です、聞き逃していないです。ただ、理解ができなくて。なぜラッキースケベを捨てたいんですか? もう千年以上も持っているのに。言い方は悪いですけど、今更?」
不思議だった。
なぜ今になってラッキースケベを無くしたいのか疑問だ。
いや、きっと前々からその体質を忌避してきたのだろうが、もう千年も付き合っているのだ。対処法もあるだろう。
なによりも、その力を利用して魔王に成り上がったのなら、忌々しい体質でも手段のひとつだ。
失うのはどうか、と思う。
(もったいないとは言わないけど……いや、きっと彼なりに苦労などたくさんのことを経験して、もううんざりしているのかもしれないな)
問いただしておきながら、理由を聞いたのは野暮かなと思った。
「余計なことでしたね、すみません」
「いいえ、あくまでも僕の都合ですから。疑問もわかります。なぜ、今更か。確かにその通りですね」
幸いなことに、友也は気を悪くしないでくれた。
そのおおらかさに感謝したサムに、魔王はラッキースケベを捨てたい理由を語り始めた。
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