72「ヴィヴィアンの予感です」①
転移魔法で何処かに飛ばされてしまったサムを見送ったゾーイは、魔王遠藤友也が連れていったことを確信していた。
あれほど簡単に人をほいほい転移させる奴など、西大陸広しとはいえ奴だけだ。
「彼は、すごいわね」
「ヴィヴィアン様?」
尊敬する主人の呟きに、ゾーイが反応してしまう。
ヴィヴィアンが、小さな手のひらでゾーイの頭を優しく撫でた。
「お疲れ様、ゾーイ。大変だったでしょう」
「いえ、私は口ばかりで役に立ちませんでした。まさかあれほどの存在が無名でいるとは……もしや、ヴィヴィアン様は奴らをご存知なのですか?」
ゾーイの疑問に、ヴィヴィアンは曖昧に首を横に振るう。
「心当たりがないわけじゃないけど、確証がないわ。でも、もし私の思っている通りなら、まさかこんなところで魔王として現れるなんて思ってもいなかったわ。サミュエル殿たちはもちろん、貴方やダフネにも申し訳ないことをしたわね」
「いいえ。私はヴィヴィアン様の剣です。私が朽ち果てるその日まで存分にお使いください」
「あら。私は貴方のことを剣と思ったことは一度もないわ。とても大切な、お友達よ」
「もったいないお言葉です。ところでサムですが、やはり魔王遠藤友也が?」
「ええ、そうよ。友也が個人的に話をしたいそうよ」
やはり、とゾーイは納得する。
友也が声だけとはいえ、サムに接触してきたときからなんらかの興味があることは気づいていた。
ゾーイにとって、友也との付き合いはヴィヴィアンと同じように長い。
かつてゾーイがレプシーの妻アイリーンに保護され、手厚い介護を受け、住まいを与えられたときにはすでに友也は友人としてそこにいた。
レプシーの一番の親友であると同時に、最強の魔王と言っても過言ではない主人に最大の警戒をされていた人物である。
友也はゾーイにも、フレンドリーに接してきたが、彼のその本質を知ると言うまでもなく敵意を抱いた。
レプシーが警戒する理由も、妻と娘を極力近づけようとしない理由も理解できた。
それでも現代まで付き合いは長いのだが、ゾーイにはいまだに友也の考えていることがわからない。
彼がなにを目的にしているのか、なぜ魔王の地位にいるのか、なぜサムに興味を抱いたのか、わからないことだらけだ。
まあいい、とゾーイは思考を切り上げた。
友也がサムにどのような用事があろうとも、すでに転移で連れ去られてしまったあとなのでどうすることもできない。
なにかあれば相談に乗ってやろう。そんなことを思った。
「きっと彼らには、積もる話があるでしょうから、今はそっとしてあげましょう」
「積もる話、ですか? まさか知人か何かですか?」
「いいえ、そうじゃないけど……男の子にはいろいろあるのよ」
「はぁ」
要領を得ない言葉に若干の不満を覚えるも、ヴィヴィアンがこういう発言をするときは、はっきりなにかを教えてくれないのだと知っているので、追求しなかった。
ゆえに話題を変えた。
「ヴィヴィアン様」
「なぁに?」
「サムの、サミュエル・シャイトの力をご存知でしたか?」
ゾーイは、サムの力を読み違えていたことを痛感していた。
単純に戦えば、自分が勝つだろう。
それは間違いないだろうし、そもそも根本的な地力が違いすぎる。
しかし、本気の、それこそ、周囲の被害も犠牲も考えずに殺し合ったとしたら――勝者はサムだろうとも思う。
サムが、ボーウッドの腕を斬り飛ばしたとき、ゾーイは彼の動きを追えなかった。
速度を最大の武器としているゾーイは、動体視力も相当なものだ。しかし、それでもわからなかった。
なによりも、ボーウッドの腕を斬ったとき、それ以上にヴァルザードの操った死体の群れを焼き斬ったとき、サムの魔力は自分以上に――違う、そんなものではない、間違いなく魔王級だった。
それこそ、心から慕うレプシー同等と言っても過言ではないほどだった。
この目で、身体で、サムの力の一端に触れながらいまだに信じられなかった。
「サミュエル殿にあれほどの力があるとは思ってもいなかったわ。実際、ヴァルザードの首を斬り落とした瞬間と、哀れな死者を斬り裂いた瞬間――間違いなく私たち魔王と同等の魔力量を感じたわ」
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