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71「事後処理です」③




 ボーウッドの申し出をサムは呆気なく断った。

 よくわからないが、忠誠を誓われても困る。

 こちらは一介の宮廷魔法使いだ。

 そういうことは魔王にしてほしいと思った。


「は? いや、ここは、その……受け入れる場面ではないのか?」

「そうなの?」


 サムは困った顔をして、ゾーイとダフネを見た。


「まあ、ボーウッドなりのけじめなのだろう。魔王には相応しくないが、丁稚にはちょうどいい。忠誠をもらっておけ」

「ぼっちゃまがこちらで行動することを考えると、部下がいることはいいことです」


 と、魔族ふたりはボーウッドを受け入れるべきだと言う。


「でもなぁ」


 王でもなんでもない自分に、忠誠を誓われても、なにをすればいいのやら、というのが素直な感想だ。


「あなたは俺よりも強い。俺の右腕を斬り落としたこともそうだが、あのヴァルザードの首を刎ねるなど、俺には真似できない」

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、別に忠誠はいらないよ。俺は別に偉い人じゃないんだから」

「しかし!」


 ボーウッドがサムを「あなた」と呼び出したので、頭痛がした。

 先ほどまで、「貴様」「お前」「小僧」だったのに、なぜそうなる、と。

 戦って力を認めてもらったのは嬉しいが、それなら友人でいいじゃないかと思う。

 サムに忠誠を受け取ってもらおうと諦めないボーウッドを、ヴィヴィアンが止めてくれた。


「まあまあ、サミュエル殿にはこれから用事があるのだから、その話はあとにしましょう」

「え?」


 しかし、ヴィヴィアンの言う「用事」にまったく心当たりがないサムが、問おうとすると、足元に魔法陣が展開された。


「ちょ、これ――」

「奥様たちは私が責任を持ってお預かりするから、安心してね」


 微笑んだヴィヴィアンが手を振る。

 サムが腕を伸ばすが、それと同時に――転移してしまった。


「どこだここ? ていうか、暑い!」


 肌寒かったヴィヴィアンの領地と比べ、転移先はまるで南国のように暑かった。

 サムは思わず上着を脱ぐ。

 そして、潮の香りと、波の音に気づき、自分が浜辺にいるのだと知った。


「海って……どこだよ、ここ」


 海に来るなど久しぶりだ。

 ウルと各地を転々としていた以来だろう。

 この世界では海水浴というものがない。

 海にモンスターが出るからという最大の理由があるが、どちらかと言うと、湖などで泳ぐことが好まれている。

 貴族は別荘を湖畔に持っているし、一般人も有名な観光スポットである湖には夏になるとバカンスに出かけることもある。

 サムもリーゼたちと行こうかという話になったが、なにかと慌ただしい日々を送っているので見送りとなったのは記憶に新しい。


「ようこそ、サミュエル・シャイト殿。お待ちしていました」


 夜の海を眺めていると、背後から声が聞こえた。

 サムは驚かなかった。

 声に聞き覚えがあったのもそうだが、わざわざ自分を転移魔法で呼ぶような者はそういないだろう。

 なによりも、ヴィヴィアンが笑顔で見送ったことから、彼女の知り合いが転移魔法の主だとわかる。

 というよりも、転移魔法を飛ばして対象だけを転移させるなんてことができる者な数える程度だろう。

 そして、そんなことが可能なのは現状でひとりしか、サムは知らない。


 おもむろに振り返ると、サムが予想した人物がいた。

 サムとあまり年齢が変わらなそうな外見の、黒髪の少年だった。

 学生服を連想させる、黒い詰襟をこの暑い中着こなしている。

 日本人の顔立ちをしているかれは、まるで友人でも迎えるように微笑んだ。


「直接会うのははじめましてですね。僕は遠藤友也――魔王です」





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