63「新生魔王たちとの戦いです」
誰よりも早く仕掛けたのは水樹だった。
音もなく馬人族のバッカスの間合いに踏み込むと、目にも留まらぬ速さで抜刀する。
刹那、金属音と火花が散り、鮮血が舞った。
「ひひぃぃぃいいいん。やりますなぁ! しかし私も負けてはいませんぞ!」
「あははははははははっ! この馬、強いなぁ!」
両者が歓喜しながら刀と剣を振るう。
剣撃が繰り返され、血飛沫が何度も飛び散り、ふたりは裂傷を作りながら楽しそうに剣と刀を繰り出し続ける。
水樹が強いことは知っていた。
以前、オークニー王国の剣士との戦いで、一瞬にして相手の腕を奪って戦闘不能にしたのを覚えている。
しかし、魔族の剣士と、それも大剣を軽々振り回す剛力の相手と戦えたのは驚きだ。
魔族は人間よりもスペックが高いと聞いていたが、水樹は魔族に引けをとらないほどの実力があった。
「ひひぃいいいいいいいいいいいいいん! 素晴らしい! 人間にこうも強い剣士がいるとは! 私感激しました!」
「君も馬のくせにやるね! ――その首を斬り落として父上と妹の土産にするよ!」
水樹の実力を認め感激しているバッカスに対し、水樹は物騒なことを口にしていた。
彼女は普段は常識があり、物事にもよく気づく気遣いができる優しい女性だ。しかし、剣を握り、一度スイッチが入るとこうだった。
「あらあら、水樹ちゃんったら。せっかくのよそ行きの格好をしてきたのに……でも楽しそうでなによりだわ。じゃあお姉さんたちも戦いましょうか!」
魔法少女キャサリンが、虎族のアムルににっこりと笑顔を浮かべた。
しかし、未だ地面に尻餅をついていたアムルは、魔王を名乗ったとは思えないほど情けなく首を全力で左右にぶんぶんと振るっている。
「い、いやだ、吾輩が、紳士たる吾輩は、もっとちゃんとした相手と戦いたい」
「わがまま言っちゃダメよ。めっ」
キャサリンが子供を嗜めるように、太い指でアムルの額にデコピンをする。
すると、どんっ、と音がして、アムルの巨体がひっくり返った。
「お姉さんね。大切な親友でもある陛下がずっと魔王のことで苦しんでいたのを知っているから、友好関係を築いてくださるヴィヴィアン様側でいたいの。あなたたちみたいな血気盛んな坊やは嫌いじゃないけど、ごめんなさいね。お姉さんには戦う理由があるから――本気で行くわね」
――ふんっ! と、キャサリンが魔力を高め、ポージングすると、彼女の身体中の筋肉が隆起した。
「――ぴっ」
倒れたままのアムルが小さな悲鳴を上げる。
魔族からしても、未知でしかない魔法少女の全身肥大に、ただただ怯えることしかできないでいる。
その間にも、キャサリンの身体が肥大していく。
筋肉がこれでもか、と膨張し、魔法少女の可愛らしい衣装が悲鳴を上げんばかりに引き伸ばされていく。
「――なんとおぞましい」
遠目で見ていたゾーイが、顔を青くして呟く。
そして、キャサリンの体格が二回りほど大きくなった。
魔力なのか、汗なのか、彼女の身体からは湯気のようなものが立ち上っている。
ズン、と一歩進むと、地面が揺れた。
「いくわよぉ。お姉さんの身体強化魔法と、愛のステッキ!」
肥大した身体に対し、彼女が右手に持つステッキはまるでおもちゃのようだ。
キャサリンは気にすることなく、ただ茫然と眺めていることしかできないアムルに向かい、ステッキを握りしめた腕を容赦無く振り下ろした。
「――ラブラブアターック!」
ステッキが振るわれ、轟音が鳴り響いた。
地面が爆発を起こし、大きな揺れを起こす。
そして、アムルは吹っ飛び、近くの建物を貫通していった。
壁に開いた大穴を覗くと、遠い向こうでぐったりとして動けなくなっているアムルの姿が確認できた。
「これが魔法少女の力よ!」
ぬらぬらとてかる肉体でポージングしたキャサリンが、まるで自慢するように筋肉をびくんびくんと動かした。
「まさかの肉弾戦でした! どうもありがとうございます!」
「――おえ」
さすがにサムが突っ込みを入れ、ゾーイがえずくのだった。
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