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43「はじまりのダンジョンです」②




 ダンジョンの管理は、冒険者ギルドが行っていた。

 はじまりのダンジョンはスカイ王国の管理下にあり、冒険者ギルドの許可がないと挑戦することができない。

 受付があるのは小さな二階建ての建物で、そこを中心に、武器屋、道具屋、宿屋などが並んでいて小さな村のようになっていた。


「人気ダンジョンだから、もっと活気付いているかと思ったよ」

「ここのダンジョンで出店するのは国の許可が必要なのよ」

「へえ」

「お店こそ小さいけど、王都に本店を持つ王家御用達の店ばかりよ」

「なるほど。国が所有しているダンジョンだからその辺りはしっかりしているんですね」


 サムの呟きに、当たり前だとエリカが腕を組んで頷く。


「大陸中から、このダンジョンに人が集まるから、変な店に営業させるわけにはいかないでしょ」

「それもそうですね」


 仮にも国の所有物のダンジョンなのだ。

 周囲の店の評判はそのまま国の評判になる。


「でも、たしか、近々お店を増やす計画があるって聞いたわね」

「活気づくのはいいことですね。それに、冒険者たちに対して、店が少なすぎますよ」

「それは同感よ。でも、ダンジョンに出店希望があまりにも多すぎて簡単に決められないみたいよ」

「国も大変ですねぇ」


 大陸各地で見てきたダンジョンの周辺は、こことは違いどこも賑わいを見せていた。

 ダンジョンを中心に街を作った、ダンジョン都市というものもあった。

 ダンジョンは人々の生活を潤してくれる。

 その一方で、定期的にダンジョン内でモンスターが異常発生することもあるので、危険を伴うこともある。

 それでも人々がダンジョンから離れないほど、リスクよりもリターンが多いのだろう。


「さ、受付をするわよ。……今日も混んでいるみたいね。あんた、冒険者登録はしてる?」

「もちろんしていますよ」


 そう言って、エリカに冒険者カードを渡す。

 彼女は冒険者カードを見ると、舌打ちをした。


「……あんたBランクなのね。生意気だわ」

「エリカ様は?」

「――Cランクよ……ちょっと、なによその勝ち誇った顔は!」

「いいえー、別にー。俺の方がランク上かー、なんて思っていないですよー」

「あのね! あたしの年齢でCランクって結構凄いことなんだからね!」

「つまり、エリカ様より年下の俺がBランクなのはもっと凄いってことですよね?」

「うぐぐっ」


 その通りらしい。

 実際、サムの年齢でBランク冒険者になることのできる人間はそういない。

 サムだってなにも苦労せずBランクになったわけではない。

 何度も死にかけ、死線を潜り抜けた上で、Bランクまで至ったのだ。


「まあまあ、そんな気にしないでください。ランクが全てじゃないですから、ね」

「だったらそのドヤ顔やめなさいよ! ムカつく! ムカつくんだけど! ちょっと、本当にそのドヤ顔やめてよ! 腹立つ!」


 こんなやりとりができるのだから、エリカから心底嫌われているわけではないと思う。

 サムもエリカの気持ちがわからないではない。

 憧れ慕っていた姉が、知らないところでどこの馬の骨ともわからない少年を弟子にしたあげく、自分の全てを継承させてしまったのだ。

 同じ境遇ならば、エリカでなくても腹立たしいことだろう。


「それにしても、混んでますね」

「それだけ、はじまりのダンジョンが人気ってことよ」

「初心者向けだからってだけだとこうも人気にはならないでしょう?」

「はじまりのダンジョンに生息しているモンスターの素材はいつだって需要があるからね。ダンジョン内には質のいい薬草だって生えているし、戦いが苦手でもちゃんと稼げるのよ」

「至れり尽せりですね」


 冒険者にとって、理想的なダンジョンのようだ。

 これで、深く潜れば上級者でも死を覚悟するほど難易度が上がるのだから、このダンジョンに挑み続けるだけで生涯を使い果たすことになるだろう。


「私もこのダンジョンで経験を積んだわ。ときどき、ウル姉様と一緒に挑んだこともあるのよ」

「ウルと仲が良かったんですね」

「姉妹だからね。でも、ウル姉様は宮廷魔法使いだったから忙しそうだったわ。それでもたまの休みを使ってあたしの面倒を見てくれたりしたのよ」

「ウルらしいです」


 ウルの面倒見のいいところは、昔からのようだ。

 サムもウルに多くのことを教えてもらったことを思い出す。


「……だから姉様が急に姿を消したときには不安になったわ」

「無理もありません。大切な家族が急にいなくなってしまったんですから」

「そうじゃないわ。あたしたちのことが嫌になったんじゃないかって、なにか気に触ることをしたんじゃないかって」


 実際、ウルが家族のもとを去ったのは、病気を隠すことと後継者を探すためだ。

 しかし、その理由を知らされていなかったエリカたちは、さぞ心配だっただろう。

 エリカがマイナスなことを考えてしまうのも理解できる。


「ウルが家族を嫌ったりしませんよ」

「わかってるわよ! そのくらい! あんたが姉様を語るな!」

「――失礼しました」


 せっかく続いていた会話も、ここで途切れてしまった。

 サムとしてはエリカを慰めようとしたのだが、逆効果になってしまったようだ。

 気まずい空気が流れる中、サムは言葉を探したが、結局見つからずに自分たちの受付の順番を静かに待つことしかできなかった。




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― 新着の感想 ―
 何度も死にかけ、死線を潜り抜けた上で、Bランクまで「上り詰めた」のだ。 →  「登り詰める」は、「頂点に至る」「この上が無い」なのでAランクやSが上に在るBランクのときは矛盾します。なので、この場合…
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