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439/2011

53「面倒事が始まったようです」①






 ダフネの言葉をそのまま受け入れることができなかったサムは、唖然とし、家族同然の彼女の顔を見つめる。


 もちろん、この場でダフネが嘘をつく理由はなく、彼女の言葉通り、魔族の誰かが本当に魔王を名乗り決起したのだろう。


 同じスカイ王国の水樹とキャサリンを伺ってみると、水樹も言葉がないようだし、キャサリンも大事件が起こったのだとわかっているようで、髪のない頭部に汗を浮かべていた。




「あら、意外と早かったわね」


「レプシー様の後釜を狙おうとする輩が出ると思っていたが、これほど早いとはな。実に短慮なことだ」




 しかし、人間たち三人に対し、魔王ヴィヴィアンとその配下ゾーイは、平然とダフネから伝えられたことを受け入れていた。


 いや、むしろこんなことが起きることを予期していたようだ。




「どこの子が魔王を名乗ったの?」


「獅子族のボーウッドです。現在は獅子王族の魔王ボーウッドと名乗っているみたいですが」


「――そう」




 ヴィヴィアンが残念そうに目を伏せた。




「プライドばかりのあれに魔王の器があるものか! 人狼族から魔王が出たことを妬んでいるのは知っていたが、よりにもよってあんな弱者がレプシー様の代わりに魔王を名乗るなど!」




 ゾーイに至っては、魔王を名乗ったボーウッドなる者を知っているのか、レプシーの後継者に相応しくないと憤りを露わにしていた。


 その怒りはよほどのものなのだろう。


 ゾーイの小さい唇から、鋭い犬歯が伸び、瞳も瞳孔が開いていた。




「いいえ、ゾーイ様、違います」


「なに?」




 激昂するゾーイに、ダフネが呆れを混ぜた声音で告げた。




「獅子族のボーウッドは、新生魔王を名乗っているのです」


「……なんだと? どういうことだ?」


「現在、魔王として君臨されているヴィヴィアン様たちを排して、魔王たちを総入れ替えしようとしているのです」


「――あいつ、馬鹿だろ?」


「同感です」




 サムには、ボーウッドがとんでもないことを企んでいることは理解できたのだが、なぜか、ダフネの言葉を聞いたゾーイは、怒りを納めてしまった。


 いい加減話についていけなくなったサムは、手を上げて声を出す。




「待った待った待った! ダフネ! ゾーイ! 申し訳ないけど俺たちにもわかるように言ってくれ! 魔王がなんだって?」


「違います、ぼっちゃま。魔王を名乗る資格がない馬鹿が、魔王を名乗ったのです。しかも、あろうことかヴィヴィアン様たちを排除し、新たな魔王としてなりかわろうとしているのですよ」


「それって、大事じゃないかな?」


「ええ、単にレプシー様の後釜に座ろうと企む以上に、壮大で、夢物語です」




 嫌な汗がサムの頬を伝う。


 水樹とキャサリンも、想像していなかった事態にどうしたものかと困り果てている。




「困ったわ。ちょっと物騒よね」




 あまり困っていない様子のヴィヴィアンにサムは頭が痛くなった。


 よりにもよって反乱が起きたのに、なぜそうも落ち着いているのだと理解ができない。


 いや、それ以前の話として、サムたちが魔王と友好関係を結ぶために訪れたこのタイミングで決起しなくてもいいじゃないか、と思わずにはいられない。


 サムは、たまらず声に出してしまった。




「――こんなときに面倒なことを!」




 しかし、ゾーイが、サムに向かい、




「いや、お前が来たからだろうが」




 なにを言っているのだ、と言わんかばりにそんなことを言ったので、サムは目をぱちくりさせた。




「え? 俺?」




 ゾーイの言葉の意味が理解できずにいるサムに向かい、彼女は続けようとするが、




「こら、ゾーイ」


「……失礼しました。なんでもない、忘れろ」




 ヴィヴィアンに窘められ、口を噤んでしまう。


 だからといって、彼女の放った言葉を忘れることができるはずもない。




「待ってくれ、そこまで言われてなかったことにしないでくれよ。俺が原因ってどういうことだ?」




 なぜだ、と叫びたくなるサムだが、ひとつだけ心当たりがあった。




「――まさか、レプシーを倒したせいか?」




 ゾーイとヴィヴィアン、そしてダフネに視線を送ると、三人は困った顔をしつつも、頷いた。


 つまり、そういうことなのだろう。




「誤解するな、サム。お前を悪く言うつもりは微塵もない。私自身、いまだに矮小な人間がレプシー様を倒したことには疑問はあるが、嘘だとは思っていない。だが、魔族の中には、私以上に疑念を抱えている者がいることは確かだ」


「だからって」


「もしくは、人間程度にやられてしまうような魔王なら――自分たちのほうが魔王にふさわしいのではないか、と思う輩が出てくるのはなんら不思議ではない」


「いやいや、極端すぎるだろ、魔族」




 そんな簡単に自分たちが魔王にふさわしいと思うなんて、ポジティブすぎる。


 サムが頭を抱えてしまうと、恐る恐る、キャサリンが挙手した。




「どうした?」


「あのね、ゾーイちゃん。お姉さん、気になるのだけど」


「なんだ?」


「魔王レプシー様の、大地を裂いた痕を見ても、自分の方が魔王にふさわしいと思う魔族がいるのかしら?」


「魔族が――いや、獣人は猪突猛進と言うか、短絡的なのだ。いや、全員が全員ではないが、とくに獅子族のようなプライドで育ったような種族は特にそうだ。きっと内心ではレプシー様より強いなどと思ってもいない。だが、そのレプシー様が今はいない。ならば、レプシー様を倒したサムを殺してしまえば、次の魔王は自分だ、ついでにレプシー様より強い、ならば魔王様たちを排除しよう、と頭の中ではなっているんだろうな」


「あーら、それは困ったわねぇ」




 困ったどころではない、サムはたまらず大きな声を上げた。




「なにそれ! 超嫌な連想ゲームなんですけど!」





続刊決定いたしました!

どうもありがとうございます!

とはいえ、その先が不透明ゆえ、ぜひぜひ書籍をお求めになってくださいますと幸いです!


電撃コミックレグルス様にてコミカライズ進行中です!

楽しみにしていてください!

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