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438/2010

52「ダフネと合流しました」




「――呆れたな、スカイ王国から夜の国まで本当に走ってきたのか?」


 ゾーイが嘆息混じりにダフネを顔を見た。


「嘘ぉ? 俺たちが空の旅をしている間、下で爆走していたの?」


 ダフネがスカイ王国から夜の国まで走っている姿は、少々シュールだ。

 しかし、同時に申し訳なくなる。サムが彼女を忘れていたせいで、無駄な労力を使わせてしまった。


「ごめんね、ダフネ」

「いえ、途中で親切な方が転移魔法を使ってくださいましたので、そこからは楽でしたよ」


 謝罪するサムに、ダフネは苦笑して、首を横に振るう。


「転移魔法?」

「……奴か」

「ええ、相変わらず不気味な方でした」


 ゾーイは、誰がダフネを転移魔法で送ってくれたのか心当たりがあるようだ。


(転移魔法が存在していることは知っていたけど、まさか実際に使える魔法使いがいるなんて。人間、じゃないよな。多分、魔族?)


 転移魔法は誰もが憧れる魔法である。

 使い手によって使用条件が異なるが、距離など関係なく一瞬で転移できる魔法が転移魔法だ。

 覚えてみたい魔法だったが、サムは今までその使い手にあったことがなく、どう覚えればいいのか不明点も多いため、未習得で現在に至る。

 飛翔魔法を習得していることや、この世界を旅する時間が好きなこともあって、転移魔法に必要性をそこまで感じていないのでさほど気にしてはいなかった。

 だが、実際、使い手がいるとわかると心が躍る。もしかすると、自分も覚えられるのではないか、とちょっと期待してしまう。


「ダフネちゃん、久しぶりね」


 ヴィヴィアンが親しげに声をかけると、ダフネはその場に膝を折り、恭しく礼をした。


「ご無沙汰しています、魔王ヴィヴィアン様」

「うふふ、そうかしこまらないで。お友達じゃない」

「そう言っていただけるのは光栄ですが、かつての立場を捨て、今はサムぼっちゃまの従順なメイドですから」


 姿勢を正したダフネだが、彼女の声にはヴィヴィアンへの親しみが感じられた。


「そういえば、サミュエル・シャイト殿のもとで働いているのよね」

「昼も夜も可愛がっていただいています」

「――まぁ」

「嘘つけぇ! 魔王様の前でお願いだから誤情報を流さないでぇ!」


 よからぬことを絶対に言うと思っていた、サムの予感は的中した。

 あろうことか、魔王の前で、メイドに手を出すような男だと言われてしまったのは困る。


「失礼しました。私がぼっちゃまを可愛がってます、の間違いでした」

「あらあら」

「だーかーらー! そう言うこと言わないで! そりゃ、可愛がってもらっているのは間違いないけど、なんか違う意味に聞こえちゃうから! 誤解されちゃうから!」


 場所を忘れて大きな声を出すサムに、ヴィヴィアンがにこりと微笑んだ。


「いいのよ、サミュエル・シャイト殿。年頃の男の子ですものね。ダフネのような綺麗な女性につい手を出してしまうのも理解できるわ」

「そういう理解はいらないです!」

「恥ずかしがらなくていいのに。貴方には奥様が七人もいらっしゃると伺っているし、あちらの方もお若いのだからお盛んなのは普通のことよ」

「あの、ひとり奥さんの人数が多いんですけど」


 魔王が自分の奥さんの数を把握しているのも問題だが、ひとり増えているのも気になる。

 まさかと嫌な予感がするサムに、ヴィヴィアンは理解を示すように優しい瞳を細めた。


「なんでも、公爵家の殿方ともただならぬ関係のようね。知っているわよ、そういうのをボーイズラブというのよね」

「はい、出た! この世界の人の悪い癖! すぐに異世界人の言うことを信じちゃう!」

「友也から、同僚の魔王から聞いたの」

「しかも同じ魔王様からの情報だった! その人、絶対地球人! 日本人! 決定!」

「――あら?」

「あと、調べるんだったら、ちゃんと調べてください! いらないの混ざってますから! ギュンターとの関係が魔王様にまで誤解されるとか、どういうこと!?」


 そろそろギュンターの呪いではないかと思えてしまう。

 彼は、なんだかんだと若くて可愛い奥さんをもらって子供もいるのだから、自分とは友人関係でしかないことを周囲にも理解してほしい。

 あと、魔王ヴィヴィアンもなにかしらの手段で自分のことを調べたんだろうが、もっと頑張って欲しかった。

 ちゃんと情報の裏をとってほしいと、思うし、もし諜報員がいるのならクビにした方がいい。


「あー、喉渇いた! お茶いただきますね!」


 サムは冷めたお茶を勢いよく飲み干した。


「ごちそうさま!」

「うふふ。面白い子ね。さっきまでの警戒心と緊張に包まれて強張った顔をしているより、今の貴方の方がずっと可愛らしいわ」


 あまり褒められている気がせず、サムが困った顔をする。

 すると、ゾーイが見かねたように助け舟を出してくれた。


「ヴィヴィアン様。ダフネも揃ったことですし、そろそろ街の方へ出るとしましょう」

「そういえば、そう言う話をしていたわね。ごめんなさい、つい面白くて」

「ダフネも、久しぶりの夜の国だ。懐かしいだろうから、存分に楽しむといい。と言っても、あまり代わり映えはしていないが」


 ダフネを街に誘うゾーイの言葉が途中で止まった。

 その理由は、今まで打って変わってダフネが真面目な顔をしていたせいだろう。

 サムも、ダフネのこんな顔を初めて見た。同時に、なにかが起きたのだと予想できる。


「街を懐かしみたいのは山々ですが、残念なお知らせがあります」

「なにかしら?」


 ヴィヴィアンに問われ、ダフネは静かに口を開いた。


「馬鹿な三下どもが新しい魔王を名乗り決起しました」

「――は?」




続刊決定いたしました!

どうもありがとうございます!

とはいえ、その先が不透明ゆえ、ぜひぜひ書籍をお求めになってくださいますと幸いです!


電撃コミックレグルス様にてコミカライズ進行中です!

楽しみにしていてください!

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