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420/2012

34「フランさんがお嫁に来ました」




「ただいま帰りましたー」

「あら、お帰りなさい」

「……フランさん?」


 ウォーカー伯爵家に帰宅したサムを出迎えたのは、フランチェス・シナトラだった。

 彼女は青く短い髪を揺らして、サムに手を振っている。


「今日からお世話になるわね」

「はい?」

「大丈夫。リーゼたちにはもう挨拶したし、父にもちゃんと伝えてきたから」

「そういうことじゃなくて、なぜ急に? いえ、フランさんはいつでも歓迎ですけど」


 サムの疑問を受けたフランは、凛とした印象のある整った顔をしかめた。


「そのね、レイチェル様が家にいらしたのよ」

「昨日はすみませんでした。驚かれたでしょう」

「そうじゃなくて、今日から一緒に暮らすって荷物一式持ってやってきたのよ!」

「えぇ……今日の今日で、もう来ちゃったんですかぁ?」


 今日の午前中にデライトと正式に結ばれて、感極まったレイチェルが彼を寝室に連れ込んでからどうなったのか不明だ。

 サムは、そのあとルイーズと会い、祖母と相談し、そのあとお茶と昼食をもらって、夕方の今帰宅したのだから。


「なんでも父と離れたくないそうよ」

「レイチェル様らしいといえばらしいですが」

「まったく。父が乾物みたいに干からびて王宮から帰ってきたと思ったら、妙に艶々したレイチェル様が押しかけてきて……知っている? レイチェル様って、家事がとてもお得意のようよ」


(干からびたデライトさんと艶々したレイチェル様って……あー、食べられちゃったんだなぁ)


 デライトとレイチェルがなにをしたのかはさておき、第二王女が家事が得意だというのは驚きだった。

 第一王女のステラは、家事を得意としない。

 ウォーカー伯爵家ではメイドさんたちが世話をしてくれるし、いずれシャイト伯爵家に移ったとしてもダフネとデリックがいるので、サムはもちろん、奥さんたちが家事をすることはないだろう。


「意外ですって言ったら失礼になるでしょうね」

「なんでも、いつ嫁に行ってもいいように幼い頃から習っていたそうよ。ご本人は使用人も必要ないと言ったそうなのだけど、コーデリア様が流石にそれは、と反対して、お付きのメイドを三人連れてきたわ」

「コーデリア様ももう反対しないんだ」


 さすが王様、だ。と感心する。

 もしかすると、意外とコーデリアは物わかりがいいのかもしれない。

 デライトとレイチェルの結婚を反対していたのも、娘の幸せのためを思っていた可能性だって十分にある。


「レイチェル様ったら、私にママと呼んでほしいなんて言ってくるし、娘の前で父といちゃいちゃするし」

「うわぁ」

「父は父で、レイチェル様を邪険にできないんだけど、娘の前だからどうしていいのかわからないみたいな顔をしているから……なんていうか、気まずくてね」

「でしょうねぇ」

「夜になって、寝室からいろいろ聞こえてくると思うと頭が痛くなってきたから、もう私も勝手にしようと思ってね。来ちゃった」

「来ちゃいましたか」


 フランの気持ちはよくわかる。

 サムだって、親が年若い少女といちゃついていたら気まずいだろう。


「レイチェル様は、本気で父を愛しているのね。私ともちゃんと家族になろうとしてくれたわ。サムくんのところに行くと言ったら、悲しそうにされちゃったしね」

「あの、フランさんはデライトさんがレイチェル様と結ばれることをどう思っていますか?」

「え? 賛成しているわよ」

「そうなんですか?」


 口には出さなかったが、サムはフランがデライトたちのことを反対していると思っていた。

 ややファザコンっ気があるように思えるフランが、ずっと父を支えていたのに、復帰した途端レイチェルが現れてしまうと面白くないのでは――と、無粋なことを考えてしまった。

 だが、実際はそうではないようだ。


「レイチェル様と父が結ばれてよかったと本当に思っているのよ。父は私に遠慮してなのか、宮廷魔法使いに復帰してから縁談をすべて断っていたのよ。だから、いずれ私が強引にでも誰かいい人を探して父と引き合わせないとって思っていたんだけど」

「レイチェル様が現れた、と」

「でも驚きよね。レイチェル様みたいな若い方って、おじさん趣味なのかしら? 知ってる? 父への縁談の申し出って半分以上が、若い女の子ばかりなのよ」

「えー、どうして、また」

「さあ? 貴族のおじさんって若い子が好きなんじゃない?」


 さすがに貴族のそれらの事情を知らないので返答に困る。

 ただ、フランがレイチェルを受け入れているようでほっとした。


「レイチェル様には感謝しているわ。強引なところもあるようだけど、父にはあのくらいの方がちょうどいいと思うの。それに、あそこまで入れ込んでいる姿を見せられると、まず父を裏切ることなんてしないでしょう?」

「ええ、それは間違いないでしょうね」


 レイチェルのデライトへの言動を見れば、彼女が裏切り行為をすることはないと思える。

 サムもレイチェルのそのあたりは信用していた。


「ふふ、それに父だって満更でもないと思うわ。だって、レイチェル様に甲斐甲斐しく世話を焼かれて鼻の下を伸ばしているのよ」

「鼻の下を伸ばすデライトさんとか想像できないんですけど」

「来年には、私の弟か妹が生まれているはずよ。実をいうと、兄弟が欲しかったからちょっと楽しみにしているの」

「賑やかになるでしょうね」


 レイチェルのデライトへの入れ込みようを考えると、ひとりやふたりの子供で満足することはないだろう。

 きっとご兄弟の多い家族になるはずだ。


「もちろん、私だってかわいい子供がほしいわ。お願いね、サムくん」


 ウインクして微笑むフランに、サムは少し照れながら、


「あはは、頑張ります」


 若干の期待を込めて頷いた。


「結婚式には間に合わなかったけど、ウルリーケ様にはご挨拶させていただいたし、いいお嫁さんになるから末長くよろしくね」

「はい。こちらこそ、よき夫として頑張ります」


 サムとフランは自然と顔を近づけ、口づけを交わした。


「ふふっ、初めてキスしちゃったわ。幸せな気分よ。ところで」

「はい」

「せっかくサムくんといい感じになれたけど、いい加減無視できないから言うんだけど……向こうの柱の影でじとーっとゴーストのようにこちらを見ているギュンターを無視してもいいのかしら?」

「できれば無視していたかったんですけどねぇ」


 実を言うと、最初からギュンターの視線に気づいていた。

 サムは大きく嘆息すると、柱の影からこちらを眺めているギュンターに近づいていくのだった。




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